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11.キミの隣で
しおりを挟むシャルノと結ばれて数ヶ月。
今日もおはようのキスで目を覚ます。
「おはようディナール。ご飯出来てるよ」
「あぁ……おはよう」
朝から女神のごとく優しく美しい微笑みを拝み、今日も良い日だと確信する。
「今日はディナールも仕事休みだよね? 買い物一緒に行く?」
「そうだな。せっかくだから日持ちする物を買いだめしておこう。今日の夜は何が食べたい?」
「んー、魚かな」
シャルノが作った出来立ての朝ごはんを共に食べながら、休日の過ごし方を相談し合う。
用事は出来るだけ早く済ませてしまいたい。せっかく休日がかぶったのだ。イチャイチャしたいじゃないか。
なので、ご飯を食べ終えたら早速二人で家を出た。
パン屋に行って、卵も買って、日持ちのする野菜は多めに買い込む。
さてあとはご希望の魚を買おうと魚屋で吟味していた時だ。
「シャルノ! やっと見つけたぞっ!」
俺の背後で、聞きたくもない声が聞こえてきた。
「エドワード様……?」
驚いた顔のシャルノが、声の主の名を呼ぶ。
エドワード殿下。シャルノの元婚約者。頭の弱いクズ王子。
「まったく、どれだけ私に手間をかけさせるつもりだ……」
怒ったような様子でシャルノに近づくクズ王子に、俺は殴り倒してやろうかと拳を握ったが、シャルノが俺に大丈夫だと目配せする。
俺は握っていた拳をグッと我慢して、すぐに駆け寄れる距離で様子を見た。
「わざわざ探してやったんだぞ。さっさと戻ってこい」
「戻るって……どこへです?」
「お前は……どんくさいのは変わらないな。城に決まってるだろ。あまり手間をかけさせるんじゃない! 私は今とても大変なんだ!」
「そうですか……私は今とても幸せです」
「へぁ……?」
クズ王子の間抜けな声に、俺は吹き出しそうになる。
そして、今度こそシャルノに近づき、そっと肩を引き寄せた。
二人で見つめ合えば、シャルノは幸せそうに微笑む。
「彼と出会えて私はとても幸せなのです。ですからエドワード殿下の幸せも、私は心より願っております」
「は? し、シャルノ……!? 待て! その男は何だ!? シャルノっ!」
当然のように自分の手を取ると思っていたのだろう。
クズ王子はシャルノが他の者に微笑んだ事も、自分を無視して背を向け歩き出してしまった事も信じられないようだった。
「ま、待てと言っているだろ! 貴様! 不敬で処されたいのかっ!」
クズ王子の言葉にピクリと肩を揺らしたシャルノだったが、今度は俺が大丈夫だと目配せすれば、シャルノは安心したようにまた歩き出す。
「シャルノっ!!」
一国の王子が癇癪を起こしても誰も助ける者はおらず、皆そそくさと避けて通るのだった。
「ディナールのこと分からなかったみたいだね」
クズ王子の姿が見えなくなると、シャルノが面白そうに言った。
俺はシャルノの肩を抱いたまま、あの日の事を思い出す。
「そうだろな……俺、あの後バカ王子の金玉潰してすぐ学園を辞めたから」
「……今なんて?」
「王子の金玉潰して学園辞めた」
シャルノが、歩きながら口をポカンと開ける。
「えー……っと、詳しくお願い」
動揺を隠せず、シャルノは目を白黒させながら俺に問う。
あまり思い出したくもない出来事であるが、このままではシャルノも不安だろう。
そう思い、俺はあの忌々しい日を語った。
「シャルノを婚約破棄した後さ、あのバカ俺を城に呼びやがった。だから強い酒で酔わせて金玉潰して不能にしてやったんだよ」
成長期前の俺は発情猿王子のお眼鏡に叶ったらしい。まぁ、だからハニートラップをしかけたわけだが。
「その後は『王子が酔って庭の番犬に抱きついてあそこを噛まれた!』って大袈裟に騒いどいた」
バカを庭に転がして股間にソーセージを乗せてやれば番犬は喜んで噛んだ。王子もバカなら番犬もバカだ。
「今じゃ社交界では王子はバカ過ぎて関わると自分までバカ扱いされるって敬遠されてるんだ」
「たったそれだけで?」
「あー……他にも有る事無い事……いやほとんどホントにあった事だけど、あいつのバカみたいな噂を広めたかな……それこそ陛下が見捨てるほどのヤツ」
だから街であれほど騒いでも誰も王子を助けないのだ。
「でも、どうやって!? あれからすぐディナールは学園を辞めたんでしょう?」
信じられないような話にシャルノは動揺したまま更に尋ねてきた。
俺は話を続けたが、本当はこの話、隠しておきたかったんだけどな。
「学園時代にシャルノに助けられたのは俺だけじゃないからな。だからけっこういろんな奴がシャルノを助けようとしたんだ。そいつらがここぞとばかりに噂を広めたらしい……実はシャルノに最初に贈った資金さ、そんな奴らから募ったものなんだ」
「えぇ!?」
「で、でも家は俺が用意した物だからな!!」
「それはありがとう、感謝してる……でもどうしよ! 私、彼らにお礼も言えていない!」
「お礼なんていらねぇよ。シャルノが今幸せならあいつら満足だと思うぞ」
「そ、そうかな……」
ほら、やっぱり気にし出した。きっとシャルノの事だから、なんとか礼をしようとすると思ったんだ。
どうお礼をしようかとうんうん頭をひねるシャルノに、俺は話題を変えようと話しかけた。
「シャルノの家も潰そうか?」
「へ?」
突然出た実家の話に、シャルノは頭をひねるのを止め俺を見る。
「あの家族もシャルノを捨てただろ。悔しくねぇのか?」
「……それは、そうだね……でも、うん……私は大丈夫」
「良いのか?」
シャルノの気を紛らすための話題だったが、俺は本気であの家を潰そうかと思っている。あの家の黒い噂は掴んでいるのだ。シャルノを蔑ろにした事を後悔すれば良い。
だが、シャルノはそんな俺のどろどろとした思いからは程遠い、綺麗な微笑みを浮かべた。
「うん、だって、私は今幸せだから」
シャルノのあまりにも綺麗な微笑みにしばし見惚れ、俺も自然と微笑んでいた。
「…………そうか……」
シャルノがそう言うのなら、あの家の跡取りは性病を持っていると噂を広げるだけにしておこう。
そう心の中で決めて、幸せそうに笑うシャルノに口づけた。
『幸せだから──』愛する人から、そう隣で言ってもらえる俺は世界一の幸せ者だろう。
だからこれからも、シャルノが胸を張って幸せだと言える、そんな世界を今度こそ俺が守るから。
【end】
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
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maril様コメントありがとうございます!
ダメンズばっかり出てくる話ですもんね笑
ディナールをダメンズじゃないと判定してもらえてホッとしました😂
そして確かにレオナールと幸せになっていたら身を引いていたかもですね。そういう男ですディナールは♡
なんと! 他の作品も見てくださってたとの事で!
有り難い……!
その他の作品も覗いてくださるとの事で、気に入ってもらえたら幸いです🥰💕
嬉しいコメントをありがとうございました!
soa様コメントありがとうございます!
数ある婚約破棄断罪ものの中から選んでいただき、新鮮と思ってもらえるのはとても光栄です🙏✨
そして末永く幸せに暮らしたんだな…と余韻を感じてもらえるなんて💕
素敵なコメントをありがとうございます!(^^)
これからも幸せな物語が書けるように頑張りますね✨
くっそ!
もっと続きが見たいぜ!!!!、!、!、
ニノな様嬉しいお言葉ありがとうございます~💕
続きが読みたいと思ってもらえるのは作者としてすっごく光栄です……😭
もし次の展開が思いついたら書かせていただきますね!
嬉しすぎるコメントありがとうございました!