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序章 はじまりの予知夢と思惑
双子の皇女2
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陽の国、氷の国、風の国、雷の国…。本来この四つの国は、遥か昔、神に近い力を持った当時の国王夫妻が作り出した一つの国であった。
けれど夫婦とは名ばかりで、其々別に愛する者が存在したのだ。勿論、その子らも。
国を良くする為ならば…と周知の事実であり、正統な血を受け継いだただ一人の実子以外の子らは各地へ別々に育てられた。けれど必然的に王族であるが故に、いつしか子から王へと成り、やがて四つの国へと別れた事が始まりだったと言う。
この歴史は何百年も前と古く、既に直接的な血縁はほぼ無いに等しい今でも、どこか互いに歪な関係で存在しあっていた。
各国は王族と側近が国名に因んだ属性の能力を保持し、政治や国を統率している。
その中でも、始祖が居住し、古来より属性に左右されず多種多様な能力を宿す、陽の国。最も強いと怖れられてきた国である。
しかし、今世代の陽の国には他国には知られてはならない極秘の問題を抱えていた——。
双子の皇女の妹…第二皇女であるエヴァは、飾り気のないベッドから気怠そうに半身を起こした。
(またあの日の夢…)
…予知夢という未来を視る能力を持った陽の国の側近の一人、イザミ。ほぼ仮死状態の彼は未来を語る時のみに目を覚ましていた。
そして七年前のあの日、彼は突然目覚めたのだ。
『…陽に生まれし二つの光…強大な…力宿りし黄金の空…陽を永遠に導かん。…力無き黄金の空…闇へと姿変え陽を破滅へと導かん。…——。』
彼が語った話はこれだけだ。
その後直ぐに意識を手放したイザミは今も変わらず眠り続けている。
そして全ての運命が狂い出したのは、ここからだった。
当時、十歳だった陽の国双子の皇女、アヴァとエヴァ。
語られた"二つの光"を正に双子の皇女だと騒いだ臣下達がいた。そして呼応するように偶然にも同時期に能力を宿した姉、アヴァ。
ただそれだけの理由で、アヴァは永遠の姫君と敬われ、エヴァは破滅の姫君と疎まれる存在となったのだ。
(馬鹿馬鹿しい。あの予知夢から何も起こらず七年も経っているのに)
ベッドから立ち上がり鏡台の前に立つと、エヴァはその顔をまじまじと見入った。
同じ顔に同じ黄金色の髪をした双子の皇女。
違いを挙げるなら瞳の色とアヴァにのみ宿った能力。
陽の国の王族に継がれる青く美しい瞳はアヴァのものでありエヴァにはない。エヴァに与えられたのは髪と同じ黄金の瞳。
遠い昔の王族に黄金の瞳を持った者がいたらしいが、定かではないし、エヴァ自身も気味が悪いと嫌悪している瞳だ。
あんな夢を見たぐらいで何を今更…と自嘲していると、部屋の外からノックの音と共に聞き慣れた声が聞こえた。
「エヴァ様、おはようございます。起きておられますか?少々お話しがあるのですが。…………エヴァ様?」
「……」
暫くエヴァは呼び掛けに答えず黙っていたが、部屋の外の気配は消える様子もなくやがて静かに扉が開けられた。
「…ルカ。私はまだ入っていいとも何の返事もしてないわよ?それにいい加減、毎朝起こしに来るのは辞めて。もう十七よ?」
「そう言われましても…起床の声掛けは側近の仕事のひとつなので。こちらも配慮しまして部屋の外からお声をかけております」
陽の国にいる側近は五人。目の前の悪怯れる素振りも見せない彼、ルカはその内の一人だ。そしてこの国でエヴァを気にかけ笑いかけてくれる唯一の存在である。
ウェーブがかかった褐色の髪を緩く一括りにしている彼は、困ったような笑みを浮かべ部屋の中へ足を踏み入れるとエヴァの前に立った。
「何の話?」
抑揚のない声で返答すると、ルカは暫く沈黙した後静かに話した。
「そのお話の前に一つ…今から話すことをお心に留めておいて頂きたいのです」
突然放たれたその言葉とじっと見つめられた瞳にエヴァは居心地の悪さを感じた。
彼は真っ直ぐにエヴァを見つめてきて、その瞳にはいつだって嘘はなかった。
その彼が、朝から何か不穏な言葉を吐き、エヴァを緊張させる。
「…は…朝から突然何?言っている意味が分からないわ」
けれど夫婦とは名ばかりで、其々別に愛する者が存在したのだ。勿論、その子らも。
国を良くする為ならば…と周知の事実であり、正統な血を受け継いだただ一人の実子以外の子らは各地へ別々に育てられた。けれど必然的に王族であるが故に、いつしか子から王へと成り、やがて四つの国へと別れた事が始まりだったと言う。
この歴史は何百年も前と古く、既に直接的な血縁はほぼ無いに等しい今でも、どこか互いに歪な関係で存在しあっていた。
各国は王族と側近が国名に因んだ属性の能力を保持し、政治や国を統率している。
その中でも、始祖が居住し、古来より属性に左右されず多種多様な能力を宿す、陽の国。最も強いと怖れられてきた国である。
しかし、今世代の陽の国には他国には知られてはならない極秘の問題を抱えていた——。
双子の皇女の妹…第二皇女であるエヴァは、飾り気のないベッドから気怠そうに半身を起こした。
(またあの日の夢…)
…予知夢という未来を視る能力を持った陽の国の側近の一人、イザミ。ほぼ仮死状態の彼は未来を語る時のみに目を覚ましていた。
そして七年前のあの日、彼は突然目覚めたのだ。
『…陽に生まれし二つの光…強大な…力宿りし黄金の空…陽を永遠に導かん。…力無き黄金の空…闇へと姿変え陽を破滅へと導かん。…——。』
彼が語った話はこれだけだ。
その後直ぐに意識を手放したイザミは今も変わらず眠り続けている。
そして全ての運命が狂い出したのは、ここからだった。
当時、十歳だった陽の国双子の皇女、アヴァとエヴァ。
語られた"二つの光"を正に双子の皇女だと騒いだ臣下達がいた。そして呼応するように偶然にも同時期に能力を宿した姉、アヴァ。
ただそれだけの理由で、アヴァは永遠の姫君と敬われ、エヴァは破滅の姫君と疎まれる存在となったのだ。
(馬鹿馬鹿しい。あの予知夢から何も起こらず七年も経っているのに)
ベッドから立ち上がり鏡台の前に立つと、エヴァはその顔をまじまじと見入った。
同じ顔に同じ黄金色の髪をした双子の皇女。
違いを挙げるなら瞳の色とアヴァにのみ宿った能力。
陽の国の王族に継がれる青く美しい瞳はアヴァのものでありエヴァにはない。エヴァに与えられたのは髪と同じ黄金の瞳。
遠い昔の王族に黄金の瞳を持った者がいたらしいが、定かではないし、エヴァ自身も気味が悪いと嫌悪している瞳だ。
あんな夢を見たぐらいで何を今更…と自嘲していると、部屋の外からノックの音と共に聞き慣れた声が聞こえた。
「エヴァ様、おはようございます。起きておられますか?少々お話しがあるのですが。…………エヴァ様?」
「……」
暫くエヴァは呼び掛けに答えず黙っていたが、部屋の外の気配は消える様子もなくやがて静かに扉が開けられた。
「…ルカ。私はまだ入っていいとも何の返事もしてないわよ?それにいい加減、毎朝起こしに来るのは辞めて。もう十七よ?」
「そう言われましても…起床の声掛けは側近の仕事のひとつなので。こちらも配慮しまして部屋の外からお声をかけております」
陽の国にいる側近は五人。目の前の悪怯れる素振りも見せない彼、ルカはその内の一人だ。そしてこの国でエヴァを気にかけ笑いかけてくれる唯一の存在である。
ウェーブがかかった褐色の髪を緩く一括りにしている彼は、困ったような笑みを浮かべ部屋の中へ足を踏み入れるとエヴァの前に立った。
「何の話?」
抑揚のない声で返答すると、ルカは暫く沈黙した後静かに話した。
「そのお話の前に一つ…今から話すことをお心に留めておいて頂きたいのです」
突然放たれたその言葉とじっと見つめられた瞳にエヴァは居心地の悪さを感じた。
彼は真っ直ぐにエヴァを見つめてきて、その瞳にはいつだって嘘はなかった。
その彼が、朝から何か不穏な言葉を吐き、エヴァを緊張させる。
「…は…朝から突然何?言っている意味が分からないわ」
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