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序章 はじまりの予知夢と思惑
双子の皇女3
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まだ閉まったままのカーテンの隙間から陽の光が漏れてきたのか、部屋を明るくした。
その明るさからルカの表情は見えてもそれ以上は読み取れない。
「……私は貴女付きの側近です。そして小さな頃から貴女を見てきました。私はこれまでも…これからも貴女に忠誠を誓う者であることに変わりはございません。…例えこの国が…どのように導かれようとも…」
そこでルカは一度口を噤むとエヴァから目を逸らした。
ああ、これは…とエヴァの中で一つだけ分かった。彼が視線を外す時は、後ろめたさや何かに対する後悔がある時だ。
「…ルカ…一体何がいいたいの?はっきりと言って」
「………正午過ぎにフィル王陛下より、姉君のアヴァ様とエヴァ様、それと側近に招集がかかっております」
長い沈黙の後発された、彼のその言葉が何を意味しているのかは分からないが、何かが動き出す事は分かる。
ほんの少し、エヴァの鼓動が早くなった。
「…貴方は既に父上のその話を知っているんじゃないの?」
「…いえ、存じません」
「そう………分かったわ。時間になったら父上の書斎に向かう」
きっとルカは何かを知っているのだろう。口を割らずして言った彼の言葉はエヴァの心を酷く動揺させた。
それに、彼等にも会わなければならない。その事が更に気を滅入らせて大きな溜息となって吐き出された。
「エヴァ様…何かありましたら、お護り致します…ご一緒の間におりますので」
「……そうね、ありがとう」
「護る」に込められた意味は何なのか…けれど、考える気力さえ沸いてこないエヴァは仕方なく一言、礼を述べた。
気まずそうに一礼して静かに部屋を出て行ったルカの後姿は、あっという間に見えなくなった——。
もし、能力を宿したのが私だったら…?
もし、あの日の予知夢が無かったら…?
もし、あの日…——。
父の書斎へと続く長い廊下を歩き、我ながらくだらないと思いつつ先刻からそんな考えがエヴァの頭を占めていた。
今更何を思っても周りの考えた未来は変わらないのだ。
破滅の姫君と言われながら一国の皇女だからという理由で生かされているだけ。
(父上が何を言うかは分からないけれど、どちらにしろ彼等がきっと私の否定など許さない…)
一度その部屋の前で立ち止まり、大きく息を吸って吐き出すと、エヴァは扉を開けた。
「お呼びでしょうか、父上」
はっきりと口にした言葉に反応した頭が五つ、エヴァに振り向いた。
イザミを除いたルカ以外の側近やアヴァに会うのは何日ぶりだろうか。
相変わらず、ルカ以外の視線は冷やかで分かり易いくらい顔を歪ませる者もいた。
「お久しぶりでございます、エヴァ様」
同じ城内にいるにも関わらず嫌味な言い方をするサイラスを見ると、彼の銀糸のような髪が僅かに揺れていた。作りもののような顔立ちの、薄い唇だけが弧を描いている。…笑っているのだ。
サイラスの隣に立つ浅黒く強靭そうな肉体を持つイーサンは、何か言いたげな顔をしているが口を開く様子は見せない。
「…おせぇ」
心底嫌な顔をして一言呟いた彼…チャド。遠目からでも分かるその赤毛は少し長くなり始めたのか、目に掛かる前髪を邪魔そうに指で払った。
そして…—。
コツ、コツと音を立て地面を鳴らしながらその人物はゆっくりとエヴァに近付いた。
「エヴァ…最近あまり見ないと思ったら少し痩せたかしら?駄目よ?あんまり部屋に籠ってばかりでは」
「…アヴァ…」
青く美しい双子の瞳は目が合うだけで吸い込まれてしまいそうだった。同時に蔑みが混じった声音はどこか威圧さえ感じる。
その明るさからルカの表情は見えてもそれ以上は読み取れない。
「……私は貴女付きの側近です。そして小さな頃から貴女を見てきました。私はこれまでも…これからも貴女に忠誠を誓う者であることに変わりはございません。…例えこの国が…どのように導かれようとも…」
そこでルカは一度口を噤むとエヴァから目を逸らした。
ああ、これは…とエヴァの中で一つだけ分かった。彼が視線を外す時は、後ろめたさや何かに対する後悔がある時だ。
「…ルカ…一体何がいいたいの?はっきりと言って」
「………正午過ぎにフィル王陛下より、姉君のアヴァ様とエヴァ様、それと側近に招集がかかっております」
長い沈黙の後発された、彼のその言葉が何を意味しているのかは分からないが、何かが動き出す事は分かる。
ほんの少し、エヴァの鼓動が早くなった。
「…貴方は既に父上のその話を知っているんじゃないの?」
「…いえ、存じません」
「そう………分かったわ。時間になったら父上の書斎に向かう」
きっとルカは何かを知っているのだろう。口を割らずして言った彼の言葉はエヴァの心を酷く動揺させた。
それに、彼等にも会わなければならない。その事が更に気を滅入らせて大きな溜息となって吐き出された。
「エヴァ様…何かありましたら、お護り致します…ご一緒の間におりますので」
「……そうね、ありがとう」
「護る」に込められた意味は何なのか…けれど、考える気力さえ沸いてこないエヴァは仕方なく一言、礼を述べた。
気まずそうに一礼して静かに部屋を出て行ったルカの後姿は、あっという間に見えなくなった——。
もし、能力を宿したのが私だったら…?
もし、あの日の予知夢が無かったら…?
もし、あの日…——。
父の書斎へと続く長い廊下を歩き、我ながらくだらないと思いつつ先刻からそんな考えがエヴァの頭を占めていた。
今更何を思っても周りの考えた未来は変わらないのだ。
破滅の姫君と言われながら一国の皇女だからという理由で生かされているだけ。
(父上が何を言うかは分からないけれど、どちらにしろ彼等がきっと私の否定など許さない…)
一度その部屋の前で立ち止まり、大きく息を吸って吐き出すと、エヴァは扉を開けた。
「お呼びでしょうか、父上」
はっきりと口にした言葉に反応した頭が五つ、エヴァに振り向いた。
イザミを除いたルカ以外の側近やアヴァに会うのは何日ぶりだろうか。
相変わらず、ルカ以外の視線は冷やかで分かり易いくらい顔を歪ませる者もいた。
「お久しぶりでございます、エヴァ様」
同じ城内にいるにも関わらず嫌味な言い方をするサイラスを見ると、彼の銀糸のような髪が僅かに揺れていた。作りもののような顔立ちの、薄い唇だけが弧を描いている。…笑っているのだ。
サイラスの隣に立つ浅黒く強靭そうな肉体を持つイーサンは、何か言いたげな顔をしているが口を開く様子は見せない。
「…おせぇ」
心底嫌な顔をして一言呟いた彼…チャド。遠目からでも分かるその赤毛は少し長くなり始めたのか、目に掛かる前髪を邪魔そうに指で払った。
そして…—。
コツ、コツと音を立て地面を鳴らしながらその人物はゆっくりとエヴァに近付いた。
「エヴァ…最近あまり見ないと思ったら少し痩せたかしら?駄目よ?あんまり部屋に籠ってばかりでは」
「…アヴァ…」
青く美しい双子の瞳は目が合うだけで吸い込まれてしまいそうだった。同時に蔑みが混じった声音はどこか威圧さえ感じる。
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