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呪い
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「君の置かれた状況はよくわかった。
二つ目のスキルに関しては……私の方ではなんとも言えないね。
しかしスキルであるかどうかに関わらず、素晴らしい力だね。
苦痛をものともしない感覚……
君があまりに過酷な状況にあったから、スキルを授ける神も、さすがに目を背けられなくなったのかもしれないな」
ドースさんは眉を上げて、口元を緩めた。
僕は微笑みを返した。
「じゃあ、これからのことを考えようか。
今の話を聞いた限りでは、幾つか協力できることがあるように思う。
しかし一番重要なのは、君の気持ちだ。
それによって、私たちの協力の仕方も大きく変わってくると思うんだ。
君は今後、どうしたいと思っている?
君が今、望んでいるものを教えてくれ」
僕は言葉を考えながら、話した。
「僕は……とにかくあのパーティーにいた頃は、逃げることだけを考えていました。
自分が晒されている支配から、暴力から、一秒でも早く解放されたい。それだけが願いでした。
しかし二つ目のスキル――それが本当にスキルなのかどうかはまだ分かりませんが――その状況の変化によって、僕の中で苦痛は消えました。どんなことをされても、本当に、虫に噛まれたほどの痛みも感じなくなったんです。
気が狂うほどだったオーバーヒールも、ただお腹が少しあたたかくなっているくらいにしか感じられませんでした。
その状態になると、僕が次に望んだのは復讐と自由でした。
自分を苦しめた人々に、同じくらいの苦痛を味わわせること。そして二度と、自分を支配させないこと。
復讐はかなわなかった。だから僕はまず、自由を求めた。
逃げ石を使ったとき、この場所を選んだのは、思いあたる場所が他になかったからです。
ここにきて、具体的に何かしてもらいたいことがあるわけじゃなかった。
ただ、一時的にどこかへ避難する必要があって、その場所の候補が、僕の頭の中には一つしかなかった。
それに兄さんの言葉を一度裏切っていたから、少しでもそれを取り戻したい気持ちがあった……
幸いにも、逃げ石は僕の意志をくみ取ってくれました。脳内にあったのは兄の言葉と本国の地図だけでしたが、それでも逃げ石は、僕をこの場所に連れてきてくれたんです。
そして今、お二人に話を聞いてもらってわかりました。
誰かにしてもらいたいと思うことが僕にあったとすれば、それは、ただ話を聞いてもらうことだったんだと思います。
ずっと苦しかった。
村との関係を断たれ、兄を失ってから。同じ人間として僕に接してくれる人が、この世界からいなくなってしまった。
人間としての自分の存在価値が、完全になくなってしまったみたいだった。
「無痛スキル」でも耐えられないものがあるとすれば、そのことだったと思うのです。
お二人に話を聞いてもらって、そのことが急に身にしみました。
だからお二人にはこれ以上、何かしてもらいたいと思うことは、無いんです」
物に囲まれた僕たちの間に、沈黙が流れた。
沈黙を破ったのはドースさんだった。
彼は立ち上がると、僕のことを強く抱きしめた。
加えられた力は、複雑だった。怒っているようでもあり、悲しんでいるようでもあった。それ以外の感情も、僕には量れないだけでたくさん含まれているような気がした。
「そんなこと言うな」
ドースさんの声から、客人に対する丁寧さが消えていた。
「私が間違っていた。
私たちにできることがあるなら、何でも遠慮せず言ってくれ」
ラコさんも、同じように僕を抱きしめた。
「お願い。
壁をつくらないで。
助けはいらないなんて、そんな悲しいこと言わないで……」
『カウガならできるよ』
「……!」
タスラ兄さんの、優しい声。
僕の馬鹿げた野望を、否定せず受け入れてくれた、兄さんの声。
「思い出した……」
いつの間にか、涙があふれていた。
「えっ……?」
ラコさんが体を離し、僕の顔を見た。
ラコさんの目からも、涙がこぼれていた。
「思い出したんです、自分の名前。
カウガっていうんです。
カウガ、カウガって。
いつも兄さんが呼んでくれていた声が、たった今、思い出せたんです」
「カウガ……」
ラコさんが、僕の名前を呼ぶ。
僕は激しく頷いた。「はい」
するとドーズさんも、「カウガ」と呼んだ。
「はい」
僕は泣いた。
そして笑った。
『カウガ』
あの戸棚から出てきてしまったときに始まった呪い。
それがたった今、解けたような気がした。
二つ目のスキルに関しては……私の方ではなんとも言えないね。
しかしスキルであるかどうかに関わらず、素晴らしい力だね。
苦痛をものともしない感覚……
君があまりに過酷な状況にあったから、スキルを授ける神も、さすがに目を背けられなくなったのかもしれないな」
ドースさんは眉を上げて、口元を緩めた。
僕は微笑みを返した。
「じゃあ、これからのことを考えようか。
今の話を聞いた限りでは、幾つか協力できることがあるように思う。
しかし一番重要なのは、君の気持ちだ。
それによって、私たちの協力の仕方も大きく変わってくると思うんだ。
君は今後、どうしたいと思っている?
君が今、望んでいるものを教えてくれ」
僕は言葉を考えながら、話した。
「僕は……とにかくあのパーティーにいた頃は、逃げることだけを考えていました。
自分が晒されている支配から、暴力から、一秒でも早く解放されたい。それだけが願いでした。
しかし二つ目のスキル――それが本当にスキルなのかどうかはまだ分かりませんが――その状況の変化によって、僕の中で苦痛は消えました。どんなことをされても、本当に、虫に噛まれたほどの痛みも感じなくなったんです。
気が狂うほどだったオーバーヒールも、ただお腹が少しあたたかくなっているくらいにしか感じられませんでした。
その状態になると、僕が次に望んだのは復讐と自由でした。
自分を苦しめた人々に、同じくらいの苦痛を味わわせること。そして二度と、自分を支配させないこと。
復讐はかなわなかった。だから僕はまず、自由を求めた。
逃げ石を使ったとき、この場所を選んだのは、思いあたる場所が他になかったからです。
ここにきて、具体的に何かしてもらいたいことがあるわけじゃなかった。
ただ、一時的にどこかへ避難する必要があって、その場所の候補が、僕の頭の中には一つしかなかった。
それに兄さんの言葉を一度裏切っていたから、少しでもそれを取り戻したい気持ちがあった……
幸いにも、逃げ石は僕の意志をくみ取ってくれました。脳内にあったのは兄の言葉と本国の地図だけでしたが、それでも逃げ石は、僕をこの場所に連れてきてくれたんです。
そして今、お二人に話を聞いてもらってわかりました。
誰かにしてもらいたいと思うことが僕にあったとすれば、それは、ただ話を聞いてもらうことだったんだと思います。
ずっと苦しかった。
村との関係を断たれ、兄を失ってから。同じ人間として僕に接してくれる人が、この世界からいなくなってしまった。
人間としての自分の存在価値が、完全になくなってしまったみたいだった。
「無痛スキル」でも耐えられないものがあるとすれば、そのことだったと思うのです。
お二人に話を聞いてもらって、そのことが急に身にしみました。
だからお二人にはこれ以上、何かしてもらいたいと思うことは、無いんです」
物に囲まれた僕たちの間に、沈黙が流れた。
沈黙を破ったのはドースさんだった。
彼は立ち上がると、僕のことを強く抱きしめた。
加えられた力は、複雑だった。怒っているようでもあり、悲しんでいるようでもあった。それ以外の感情も、僕には量れないだけでたくさん含まれているような気がした。
「そんなこと言うな」
ドースさんの声から、客人に対する丁寧さが消えていた。
「私が間違っていた。
私たちにできることがあるなら、何でも遠慮せず言ってくれ」
ラコさんも、同じように僕を抱きしめた。
「お願い。
壁をつくらないで。
助けはいらないなんて、そんな悲しいこと言わないで……」
『カウガならできるよ』
「……!」
タスラ兄さんの、優しい声。
僕の馬鹿げた野望を、否定せず受け入れてくれた、兄さんの声。
「思い出した……」
いつの間にか、涙があふれていた。
「えっ……?」
ラコさんが体を離し、僕の顔を見た。
ラコさんの目からも、涙がこぼれていた。
「思い出したんです、自分の名前。
カウガっていうんです。
カウガ、カウガって。
いつも兄さんが呼んでくれていた声が、たった今、思い出せたんです」
「カウガ……」
ラコさんが、僕の名前を呼ぶ。
僕は激しく頷いた。「はい」
するとドーズさんも、「カウガ」と呼んだ。
「はい」
僕は泣いた。
そして笑った。
『カウガ』
あの戸棚から出てきてしまったときに始まった呪い。
それがたった今、解けたような気がした。
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