52 / 87
不意打ち
しおりを挟む
鏡を潜り抜けると、真っ暗な空間がそこにはあった。
『明かり、灯れ』
手を器のようにして念じると、ボウッと火がともる。
それを自分の顔の左上辺りで浮くように念じる。
『うまくいった』
Sレアアイテムだけあって、『略式を帯びた手袋』はかなり有能だ。
魔法の心得なんてほとんどなくても、いとも簡単に思ったことを形にしてくれる。
『よし』
僕はダンジョンの探索を始めた。
――僕が望んだこと。
それは、「安心して生きていける状況を、自力でつくれるようになること」だ。
そのためにドースさんとラコに自ら提案したのが、「ダンジョンに潜ること」だった。
「目的は幾つかあります。
一つは単純に、強くなること。
ダンジョンに潜って経験値を稼ぐことが、もっとも手っ取り早く強くなる方法だと思うんです。
強くなっておけば、自分の身を自分で守ることができる。もしあの役人や、パーティーが僕の前に再び現れたとしても、抵抗する力があれば追い払える可能性が増します。
自衛力を強化することは、安全に生きていくことにつながると思うんです。
それから二つ目に、役に立つ道具を揃えたいということ。
今、僕の手元には三つのアイテムしかありません。
『転移する吸血鳥の羽根ペン』、
『封魔する羽衣』、
『略式を帯びた手袋』の三つです。
『青い渦巻き石』は逃げ石として使っちゃいましたし、『ターナスの剣』はおそらくまだザン=ダールアンの手元にあって、あまり奴を刺激したくないので、理由がなければ呼び戻さないつもりです。
常備しているアイテムがこの3つでは心許ないので、ダンジョンに潜り、使えるアイテムを増やしたいと思います。
オーバーヒールが自分の中にあとどのくらいの余剰体力を残しているのか分からないので、スキル発動のためにわざと命を落とすことは最後の手段に取っておきます。
ですが条件が整ったなら、自分のスキルも積極的に活用して、アイテムを量産できたらと考えています。
スキルによって得られたアイテムは、パーティーとの戦闘でも僕のことをよく助けてくれました。
特に逃げ石のようなアイテムなど、もし自分が危険な場面に遭遇した際に役立つアイテムはできるだけ持っておきたいのです。
それから三つ目に、自力で生きていく道をダンジョンの中で考えたいのです。
これについては……具体的にはまだよくわかりません。
でも、国に追われる身として、地上では安心して生きていけない以上、
ダンジョンのような本国の人間でさえも容易には入っていけないような場所に自分の居場所を見つけることが、
ひとまずはベストなんじゃないかと思うんです。
もちろんドースさんが許してくれるのであれば、僕はこの家を一つの安全な避難場所として考えます。
しかし余裕があるうちに第二、第三の安全地帯を、
そして自力で生きていける術を模索しておきたいのです」
僕の話を聞き、ドースさんはある物を紹介してくれた。
「うちにある骨董の中にね、ダンジョンへとつながっている姿見があるんだ。
僕も昔、レジスタンスの仲間とパーティーを組んで、何度か探索したことがあるんだが……ちょっと変わったダンジョンでね。
少なくとも、ここヨーシャーの近辺にあるようなダンジョンではないんだよ。
あの姿見の中にだけあるものなのか、それともどこか別の入口も持っているダンジョンなのか……結局それは分からずじまいだった。
でももし別に入口を持っていたとしても、おそらく相当な辺境の地にあるのだろうとは思う。
生息している魔物や中の様子がこの辺りのダンジョンとは全く違っていたし、この国の役人や冒険者はおろか、そもそもほとんど人に会うことがない。
君の目的を果たすには、うってつけのダンジョンじゃないかい?」
こうして僕は、その鏡の中に入ることになった。
キキッ、キキキッ……
不気味な音がする。
笑われているような、不快な気持ちになる音……
『何かいる』
僕はすぐに立ち止まった。後ろを見て、そちらには何の気配もないことを確認し、その場にしゃがむ。
さっと手を振って、灯りを消す。
キキッ、キキッ……
『あれはなんだ?』
暗闇の中で、手袋を向ける。
『探知!』
ひとまず、あてずっぽうで望みを念じてみる。
こうやって、自分が持っている道具で何ができるのかを試しておくことも、『安心して生きていける状況を、自力でつくれるようになる』という望みには、大いにプラスになる要素のはずだ。
すると手袋から、ふっと風のようなものが出た。
そしてしばらく待つと、手袋にもう一度その感触を覚える。
その瞬間、頭にイメージが浮かんだ。
暗闇の中、こちらに背を向け、壁に向かって何かしている背中。
確実に魔物の背中だ。それほど大きくはない。
『近づいてみよう』
足音を忍ばせて、近づいていく。
右手をまっすぐに対象物の方に向けていた。頭の中には相変わらず、闇の先にある魔物の姿がくっきりと浮かんでいる。
そして大股であと何歩かという距離まで近づいた。
バッ。
『こいつ、最初から僕のことに気が付いて……』
「ギェーーーーーーーーー!!!」
振り返るなり、とてつもない形相で飛びかかってくる――
『明かり、灯れ』
手を器のようにして念じると、ボウッと火がともる。
それを自分の顔の左上辺りで浮くように念じる。
『うまくいった』
Sレアアイテムだけあって、『略式を帯びた手袋』はかなり有能だ。
魔法の心得なんてほとんどなくても、いとも簡単に思ったことを形にしてくれる。
『よし』
僕はダンジョンの探索を始めた。
――僕が望んだこと。
それは、「安心して生きていける状況を、自力でつくれるようになること」だ。
そのためにドースさんとラコに自ら提案したのが、「ダンジョンに潜ること」だった。
「目的は幾つかあります。
一つは単純に、強くなること。
ダンジョンに潜って経験値を稼ぐことが、もっとも手っ取り早く強くなる方法だと思うんです。
強くなっておけば、自分の身を自分で守ることができる。もしあの役人や、パーティーが僕の前に再び現れたとしても、抵抗する力があれば追い払える可能性が増します。
自衛力を強化することは、安全に生きていくことにつながると思うんです。
それから二つ目に、役に立つ道具を揃えたいということ。
今、僕の手元には三つのアイテムしかありません。
『転移する吸血鳥の羽根ペン』、
『封魔する羽衣』、
『略式を帯びた手袋』の三つです。
『青い渦巻き石』は逃げ石として使っちゃいましたし、『ターナスの剣』はおそらくまだザン=ダールアンの手元にあって、あまり奴を刺激したくないので、理由がなければ呼び戻さないつもりです。
常備しているアイテムがこの3つでは心許ないので、ダンジョンに潜り、使えるアイテムを増やしたいと思います。
オーバーヒールが自分の中にあとどのくらいの余剰体力を残しているのか分からないので、スキル発動のためにわざと命を落とすことは最後の手段に取っておきます。
ですが条件が整ったなら、自分のスキルも積極的に活用して、アイテムを量産できたらと考えています。
スキルによって得られたアイテムは、パーティーとの戦闘でも僕のことをよく助けてくれました。
特に逃げ石のようなアイテムなど、もし自分が危険な場面に遭遇した際に役立つアイテムはできるだけ持っておきたいのです。
それから三つ目に、自力で生きていく道をダンジョンの中で考えたいのです。
これについては……具体的にはまだよくわかりません。
でも、国に追われる身として、地上では安心して生きていけない以上、
ダンジョンのような本国の人間でさえも容易には入っていけないような場所に自分の居場所を見つけることが、
ひとまずはベストなんじゃないかと思うんです。
もちろんドースさんが許してくれるのであれば、僕はこの家を一つの安全な避難場所として考えます。
しかし余裕があるうちに第二、第三の安全地帯を、
そして自力で生きていける術を模索しておきたいのです」
僕の話を聞き、ドースさんはある物を紹介してくれた。
「うちにある骨董の中にね、ダンジョンへとつながっている姿見があるんだ。
僕も昔、レジスタンスの仲間とパーティーを組んで、何度か探索したことがあるんだが……ちょっと変わったダンジョンでね。
少なくとも、ここヨーシャーの近辺にあるようなダンジョンではないんだよ。
あの姿見の中にだけあるものなのか、それともどこか別の入口も持っているダンジョンなのか……結局それは分からずじまいだった。
でももし別に入口を持っていたとしても、おそらく相当な辺境の地にあるのだろうとは思う。
生息している魔物や中の様子がこの辺りのダンジョンとは全く違っていたし、この国の役人や冒険者はおろか、そもそもほとんど人に会うことがない。
君の目的を果たすには、うってつけのダンジョンじゃないかい?」
こうして僕は、その鏡の中に入ることになった。
キキッ、キキキッ……
不気味な音がする。
笑われているような、不快な気持ちになる音……
『何かいる』
僕はすぐに立ち止まった。後ろを見て、そちらには何の気配もないことを確認し、その場にしゃがむ。
さっと手を振って、灯りを消す。
キキッ、キキッ……
『あれはなんだ?』
暗闇の中で、手袋を向ける。
『探知!』
ひとまず、あてずっぽうで望みを念じてみる。
こうやって、自分が持っている道具で何ができるのかを試しておくことも、『安心して生きていける状況を、自力でつくれるようになる』という望みには、大いにプラスになる要素のはずだ。
すると手袋から、ふっと風のようなものが出た。
そしてしばらく待つと、手袋にもう一度その感触を覚える。
その瞬間、頭にイメージが浮かんだ。
暗闇の中、こちらに背を向け、壁に向かって何かしている背中。
確実に魔物の背中だ。それほど大きくはない。
『近づいてみよう』
足音を忍ばせて、近づいていく。
右手をまっすぐに対象物の方に向けていた。頭の中には相変わらず、闇の先にある魔物の姿がくっきりと浮かんでいる。
そして大股であと何歩かという距離まで近づいた。
バッ。
『こいつ、最初から僕のことに気が付いて……』
「ギェーーーーーーーーー!!!」
振り返るなり、とてつもない形相で飛びかかってくる――
1
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~
エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます!
2000年代初頭。
突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。
しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。
人類とダンジョンが共存して数十年。
元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。
なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。
これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる