好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏

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今更

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「メア!どういう事だ…?!」

「っ…!」

 授業が終わり、友人達と連れ立って教室を出たところを、ロメオに腕を強く引っ張られメアリーナは痛みに顔を歪めた。


「なんて乱暴なっ…!何をなさるんですの?!」

「お離しなさい!」


 眉を吊り上げ、カレンデュレアとティアラが二人の間に割って入り、メアリーナの腕を掴んでいたロメオを退ける。しかし、ロメオは一瞬怯んだものの、再度メアリーナに触れようと手を伸ばした。けれど。



「触らないでくださいませ。」

「なっ…!」


 メアリーナはロメオの手をサッとかわすと、自分の瞳と同じ色の扇で口元を隠し、彼から目を逸らした。まるで視線も合わせたくないと言う様に少し眉根を寄せながら。
 …そうでもしなければ、ロメオにを悟られてしまいそうだった。


(これは、けじめ。)
 


「…私と貴方は、もはや何の関係もない他人でございます。」

「婚約者だろう?!」

「いいえ、そちらはもう破棄されております。テューダーズ子息様、ご存知でいらっしゃいますよね?」

「それは…、」

 ロメオは下唇を噛んで一瞬苦い顔をしたが、だが、と、言葉を続けてきた。


「それは何かの間違いだろう?だって、君は僕のことを好きなはずだ。」

「……。」

「メアは言っていたじゃないか。僕は王子様だって。君の理想の人だって言っていただろう?」

「貴方は…。」


 メアリーナは態とらしく大きなため息を吐いて見せた。視線は逸らしたまま、扇も下げはしなかったけれど、いつもよりも幾分か低めの声で続けた。


「いつの話を仰っておられるのでしょうか?」

「いつって…。」

「そんな子供の頃のことなど、とっくに忘れましたわ。」



 忘れてなどいない。本当に本当に、大好きだったのだ。将来を共にするものだとずっと思って過ごしてきたのだから。

 自分を呼ぶ明るい声も。きらきらと陽に透ける金色の髪も穏やかな海のように澄んだ瞳も。自分をぐいぐい引っ張って走る後ろ姿も。
 子どもの頃に一緒に過ごした領地の丘で見た、一面の花畑とそれを染める夕陽の残像が、一瞬頭の中を掠めたけれど。
 あれはもう、過ぎ去った遠い思い出の出来事だと、メアリーナは最後に心の奥底でそっと涙を零した。




「テューダーズ子息様。もう一度言いますね。私と貴方は既に何の関係もない間柄でございます。二度と、この様な無礼な振る舞いはなされないようにされて下さいね。」

「なっ…!」


 それまでに一度も聞いた事がないような冷たい声色に、ロメオは顔の色を失いながら、それでも縋るようにメアリーナを見つめた。けれど、少女は全く己の方を見ずその視線は合わない。
 メアリーナは目を伏せたまま。少し震えていたけど凛とした声で告げた。



「これまでずっと婚約者らしい事をしてこられなかったのに…です。」



 
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