好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏

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惨めな男

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「な、な、な…」

「これで分かったな?婚約は女王の名の元に破棄だ。そもそもこの契約は、私必要のないものだった。テューダーズ、お前にはなくてはならないものだったのだろうがな。」


 青い炎のように燃える怒りを冷静な目に宿し、フルバード伯爵はテューダーズ伯爵に言った。


「お前の息子が馬鹿な真似をしてくれて本当に良かった。」

「ば、馬鹿な真似だと?!」

「言葉の通りだろう?何かおかしな事を言っているか?お前がサラを狙い、その他にも伯爵家よりも地位の低い子女達にその汚い手を伸ばしていた事を知られていないとでも思ったか?」

「こ、この…っ!」

 
 真っ赤な顔で怒り狂ったテューダーズ伯爵はソファから立ち上がり、フルバード伯爵を殴ろうと腕を振るも、ふくよかな身体の動きは鈍かった。気配を察していたフルバード伯爵に身体ごとサッと避けられて、向かいのソファへと頭から突っ込んでしまう。
 彼が痛みにくぐもった声を上げると、開いていた扉の前で待機をしていた家令が慌てて入ってきた。テューダーズ伯爵はソファの前で自分の鼻を押さえていて、その指の隙間からはポタポタと血が溢れていた。


「だ、旦那様!?...フ、フルバード伯爵様が暴力を振るわれたのですか?」

「そんな訳があるか、状況を見れば分かるだろう。頭に血が上ったそやつが頭から突っ込んできたのだ。」


 そう冷たく言い放つと、フルバード伯爵はテーブルや床に散らばったままの書類を指さした。
 家令は、恐る恐るその一枚に手を伸ばすと書かれている内容を見て、主人と同じように顔色を失った。小さな声で「これはまずい」という呟きが震える唇の隙間から漏れ出すのを横目に見ながら、フルバード伯爵は部屋の扉に近づき、そこで一度立ち止まった。


「豚のようにぶくぶくと太って…。何ともみっともないものだな。お前のような見た目も中身もおぞましい舅のいる家に可愛い娘をやらずに済んで本当に良かった。もう二度と個人的な用事で会うこともないだろう。」

「ま、待て!話はまだ終わって」

「終わっている。」

「フルバード!!」


 鼻を押えながら喚き散らすテューダーズ伯爵に背を向け部屋から出ると、すぐそこにロメオが立っていた。自分を睨み付けるようにしながら立つ少年に、フルバード伯爵はふっと鼻で笑う。


「これはこれは、子息殿。父の無様な姿でも見に来たのか?」

「フ、フルバード伯爵。この度の婚約の件で...。」

「聞こえていたのかね?伝えた通りだ。女王の名の元婚約は破棄となった。」

「そ、そんな!こんな何でもない事で破棄するなんて勝手です!」

だと?」


 低く唸るような冷たい声にロメオはビクリと肩を震わせ、そしてギョッとした。
 子どもの頃から知っているフルバード伯爵の赤褐色の瞳は、いつも穏やかな光を湛えていたが、今は凍てついて、その上目つきもまるで刃物のように鋭くつり上がっていたからだ。


(....っ!)


 あまりの恐ろしさに直視ができなくなったロメオは下を向き冷や汗を垂らしながらも、負けじと言葉を紡ぐ。



「こ、困るんです。婚約が無くなると、ぼ、僕は...!」
 

「ほう、困ると?」



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