好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏

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愚かな男

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 思っていたよりも優しい声で問いかけられて、ロメオはパッと顔を上げた。フルバード伯爵は先程までの鋭い目から一転し、何時ものように穏やかに微笑んでいる。


(こ、これは許しを得られるのかもしれない...!)


 その顔を見てほっと気を緩めたロメオは、先程までの恐怖を多少引きずりながらも、強ばった笑みを浮かべて言葉を続けた。


「そ、そうです!メアと婚約が無くなるのは困るんですっ!」

「何故?」

「な、何故って。それは...フルバード伯爵も、ご存知の事で...。」


「もちろん、知っているさ。次男の君がフルバードに入婿が出来なくなれば、他の貴族の娘と婚姻を結ばなくてはならない。そうしなければ、将来的には平民になるか聖職者になるか、軍人になるのか...生きていく道は大きく変わるだろうな。」


「わ、分かっていらっしゃるなら...!」


「私が聞いているのは、ということだ。」

「......!」

 

 フルバード伯爵は相変わらず優しい笑みを浮かべているが、ロメオはその目は全く笑っていない事に気がついた。
 少年は自分の顔からどんどん血の気が引いていくのを感じた。何か、何か弁解をしなくてはと焦燥に駆られながら何を言えば良いのか分からない。怯えに絡まる舌を何とか動かした。


「で、で、でもっ!そ、そんなに大したことではないのです...婚姻前の女遊びなんて、ま、周りは皆しているし...」

「周りがしていたら一緒にする。ふむ。その周りの子息には婚約者は居なかったのか?それとも?」

「そ、それは...」



 何時もつるんでいるロメオの周りの子息達には、まだ婚約者は居なかった。
 婚約者が出来た同級生達は次第にロメオからは距離を取り、そういった遊びに誘ってみてもつれなく断られていた。断られるどころが辞めた方がいいと諭される事もあった。
 そんな彼らを少年は、婚約者に縛られている意気地のない奴らだと思って馬鹿にしていた。
 何も言えず口ごもるロメオに対し、フルバード伯爵は大きなため息をついた。



「...娘が気に入らないのであれば、最初にそう言えば良かったのだ。」

「き、気に入らなかったわけではありません!た、ただ...」


 気に入らなかった訳では無い、それは確かな事だった。
 ロメオはメアリーナの事を好きだった。優しく気も使え、頭も品も家柄も良い。それに両親もとても気に入っていて問題が何も無かった。
 ただ一つ問題があるとするなら、彼女のでは無いということだけだった。


 
 「まるで王子様のよう」。「絵画みたい」。「いつまでも見ていたいわ」。「貴方みたいな美しい人は見たことがないわ」。



 関わりのあったロメオが女性達から言われた数々の賛美の言葉は、元々あった彼の容姿に関する自信を更に加速させ奢り昂れせた。
 その結果、メアリーナに対して「君は可愛くない」という暴言を吐いたのだ。
 

(だってそうだ。そもそも他にもこんなに可愛い人や綺麗人が沢山いるのに、あまり可愛くないメアリーナと結婚しなくちゃいけないなんて。)


 。ロメオにとってはただそれだけの事だった。
 最近遊んでいるティファニーもその一人で、彼女は容姿が抜群に良かった。愚かにも侯爵令嬢に言い返すような教養の無さは目立ったが、それを覆い隠せるほどの美しさ。
 平民の娘は顔立ちと性格が貴族の子女とは違っていて面白かったから遊んだ。
 娼婦は言わずとも知れた床上手で、その上顔が良かった。だから遊んだ。
 未亡人は顔も身体もよくその上ロメオに貢いでくれた。だからのだ。
 
勿論結婚をするまでの関係にするつもりだった。



それなのに。



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