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ティファニー・バルティカ【バルティカ男爵視点】
しおりを挟むバルティカ男爵は、商人になる前の生まれは農民だった。
祖先は恐らく北方の国々の血が混ざっているのか、農民には珍しく色素の薄い髪と瞳を持っていた。子供の頃からの毎日の農業で日に焼け、今ではくすんだ灰色に見える髪の色は、生まれた時は銀色だったらしい。
彼には学はなかったが、農業に対する真摯な思いはあった。その心のみで最初は独学で植物や土のことを学び始め、あまりの熱心な姿に周りの大人を動かした。
「この植物はこの土壌によく合う。気候にも作用されにくく飢饉の時には助けられたこともある。」
「水はこれくらいだ。お前は目を離すと直ぐにやり過ぎるなあ。見て覚えろ!」
「ほら見てみろ。ここは水気が多いだろう?ここにはこの植物が合う。植えてみろ。」
大人たちの手助けにより実施の農業をする中で農作物の育成に対して興味を持った。そして二十歳半ばを過ぎた頃にそれまでになかった画期的な肥料を生み出し、それを商品化する事に成功した。農村の人々の協力を得て、国内の商家と契約を結ぶ事が出来たのだ。
その結果、彼の作った肥料は国中に普及し国の農業を発展させた功労者として授爵する事が出来た。本人は授爵を何度か断ったが、村の為に爵位を得る方が今後の事を考えると良いと、世話になった方々に諭され嫌々だが男爵になった程に地位に全く興味のない男だった。
(貴族なんて、面倒な話だ...。国に感謝されるのは悪い気はしねえが、自由気ままに土をいじれる今が変わるのは嫌だなあ。)
男爵になって直ぐに貰った嫁は貴族との繋がりを求めなかったので、打診をしてきた貴族ではなく昔から取引のあった商人の娘だった。少し気が強いところはあるが、器量良しでありしっかり者で気立ても良かった。
子どもも二人生まれた。一人はバルティカ男爵の毛色を受け継ぎ、美しい銀髪に紫の瞳の女の子。もう一人は妻の毛色を受け継ぎ、ダークブラウンの髪色にこれまた紫色の瞳の男の子だった。
特に娘は妻に似て大層美しく育った。将来お金の苦労をさせたくなくて貴族の家に嫁げるように、教養を学ばせる為に男爵家のある村から遠く離れた王都にある学園にも泣く泣く通わせた。
息子は男爵に似て、農業をしている方が楽しいという考えを持っていたので、ある程度までは学園に通わせ、高学年に上がる前に家へと帰した。今は実施訓練中だ。楽しそうに目を輝かせる息子を見て、バルティカ男爵も幸せだった。
二人とも目に入れても痛くないと思える程愛おしく、大事に大事に育てた。
育てたつもり、だった。
「...なんだって?マリア、すまない。もう一度言っておくれ...」
「あなた...」
ある日仕事から帰ると、気丈な妻が居間で泣き崩れていた。慌てて話を聞いてみたが、聞けば聞くほど聞き間違いでは無いのかと思わずにはいられなかった。
ティファニーが、婚約者のいる貴族の子息に横恋慕をした?
横恋慕をした貴族は、婚約者との婚約が破棄になった?
その子息の家より婚約破棄に対する慰謝料請求が来ている?
「ど、どういう事だ...ティファニー!」
「違う!違うわ!私とロメオ様は相思相愛なのです!」
「相思相愛...?婚約者のいた相手とそれが許されると思っているのか!貴族でなくても分かる事だぞ!」
「だ、だって、婚約者とはいたくないって...卒業しても私といたいって言って下さったんだもの...!」
わあっ、と大きな声を上げて泣き始める娘に、バルティカ男爵は呆然とした。
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