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残された子供

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「…ていうね、夢をね~。見るの。」


 いつものメンバーで放課後カフェに行った時。何気ない会話の中で神話の話になったその日、クリステルはそれまで誰にも言ったことのなかった夢の話を、ネイフィアとノエリアに伝えてみることにした。


 クリステルの血生臭く、そして悲しい夢の話を神妙な顔つきで話を聞いていた二人は、話を聞きながらあんぐりと口を開けていたが、聞き終わった後はなるほどね、と呟いた。




「不思議な夢だね…。その夢が本当なんだとすると、神話ってあながち間違ってないんだね。
 聖女は大翼竜の『母様』だったってことなのかあ。」

「…。」

「てことはさ、大翼竜は今もいるってことよね。聖女が産まれているってことはそゆことだよね。」

「どういうこと~?」


 見解を述べるノエリアに黙ったままのネイフィアだったが、クリステルの問いかけにそっと答えた。


「…クリスが産まれてるって事は、大翼竜がって事で、私達の魔力が高いのは、サフィア様クリステルが大翼竜に『子らを護って』って言ったからってことでしょ?」

「…思ったんだけどさあ。」

 ノエリアがぽつり、と呟くように言った。


「アストリス国の女の人の魔力が高いのは、目の前でを殺されてしまった大翼竜の気持ちの分なのかもね。」

「…そうね。」

「…もしかして、今までの聖女達も同じ夢を見ていたりして!それで神話が伝わっているんじゃない?」

「そうね、ないとは言えないわね~。」

 そう言ってクリステルは微笑むと、カフェオレを一口飲む。
 
 そんな少女の様子を見ていたネイフィアは複雑そうな顔をして、少しだけ考えた後に「夢の話に引き続き夢の話だんだけど」と恐る恐る言った。


「実は私も昔から見てる夢が一つだけあるんだけど。」

「どんな?」

「…驚かないでよ?」






 曰く、ネイフィアは夢の中で怯えていた。そこは暗くて狭いところで、ずっと膝を抱えてじっとしている。
 周りにも何人か気配はあるが、誰も一言も喋らない。喋ってはだめだと言われているからだ。

 ぎゅっと耳を塞いで目を閉じていたネイフィアに、突然聞こえてきた音があった。最初は葉笛のような高い音だったが、いつしかまるで吹き荒れる暴風のような音に変わり。いつまでも続くその音にネイフィア達は
 その時、誰かが言った。「大翼竜の鳴き声だ」と。人が動く気配がして、慌ててネイフィアはその後に続いて行く。狭い穴を抜け出るとそこは広い洞窟で、下の方に向かう道からその音は聞こえていた。そして気がつく。血の匂いがするのだ。それもとても濃く身体に纏わりついてくるほどの。その場にいる、自分と同じくくらいの年頃の子供たちは、異様な雰囲気と匂いに一歩も動くことが出来ない。
 しかし。



「ひめ、さま」


 誰かが呟いた声を聞いた途端、ネイフィアは下へと向かって駆け出した。夢を見ていると分かっているネイフィアはえ、なんで?と思うも身体は止まらない。息を荒らげ、何度も転びながら難路を突き進み、そして、いつしか広間にたどり着いた。

 目の前に大きく美しい白金の竜が鎮座している。そして。



「姉さま!!!」


 悲鳴にも似た叫び声で、ネイフィアは大翼竜の足元に倒れている人を呼んだ。
 途端に何かに足を取られて転び、顔を上げると無数の兵士の死体だらけで。

「ヒッ…!」

 この数を姉は倒したのか。

 自分の手にべっとりと付着した血を、服の裾に急いで擦り付けると、ネイフィアは震える足で死体を跨ぎ、前へと進んで行く。


「姉さま…サフィア姉さま!!」


 やっと辿り着いた先にいたサフィアは、地面に仰向けに倒れ、青い目で竜を見つめたまま口元に笑顔をほんのりと浮かべて事切れていた。整った造形の顔も身体も傷だらけで、右腕はなく、その傷痕からはまだ血が滴り、血溜まりができていた。


 優しく強く、そして美しい姉の変わり様に、ネイフィアはサフィアの直ぐ傍で座り込んだ。ぽたりぽたりと、サフィアの顔に涙の粒が落ちてゆく。


「ねえさま…。」

 その顔に手を伸ばすと、開いていた目をそっと閉じさせた。そのまま頬を撫でた。















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