【完結】ただ好きと言ってくれたなら

須木 水夏

文字の大きさ
14 / 87

魔性の女

しおりを挟む








 その緊迫した空気を打ち破ったのは、婚約者の右腕にぶら下がったままこちらを不審げ見ていたその人だった。

 薄赤色の金髪はふんわりと広がり、その髪の隙間から覗くロイヤルブルーの瞳は、王家の色を誇らしげに宿している。サラの思っていた通り、彼女は非常に美しい女性だった。アーモンド型の大きな目に魅惑的な唇。華やかでくっきりと整った顔立ちは妾様に似ているのだろう。

 色白で華奢な身体はこの前見た時と同じ、淡い黄色のシンプルなドレスを身につけていた。春の精のようなその姿は、ぱっと目を離した瞬間に消えてしまいそうな、どこかそんな危うさを感じた。けれどその細い腰に対して、豊かに張り出した胸と臀は思わず人の目を引く。その均整の取れたラインは、女のサラにさえも「男性なら必ず目を奪われるだろう」という確信を抱かせるものだった。


 いやてか、私の婚約者の腕にそんなむね押し付けないでよ。




「ねえ?あんたよ?聞いてるの?」



 いや絶対にそうローゼマリアですよね?言葉遣いは荒く品がない為に見た目とのギャップがものすごい。




「もしかして口がきけないわけ?あたしを誰だと思ってるの?」

「……。」



(どうしよう。王族の血は受け継いでるけどマルベリア様はローゼマリア様の事をって言ってたわよね。だとすると私は今格下の相手に、許してないのに話しかけられているのよね?
 でもこの方、『私を誰だと思っているの?』って今言ったわ。
 と、言うことはやはり妾様のご息女よね?王位継承権の無い、そして妾様は既に貴族では無いから平民のはずの…。あれ、こういう場合ってどうするのが正解?)



「あたし、王の子よ?」


(…わー!言っちゃってるー!)




 顔には淑女の笑みを浮かべたまま、サラの頭の中は混乱していた。
 ローゼマリアは公然と「王の子」として知られている。それは事実であり、彼女の血には確かに王家の系譜が流れている。
 だがその立場は虚ろなものだ。王位継承権を持たない彼女に与えられたのは、肩書きだけの「王と妾の子」という空虚な称号にすぎない。
 それでも、ローゼマリアはその言葉の力を信じているのだろうと思われた。優越感を浮かべた笑みで、サラを見ているのだから。きっと、その言葉を使ったのは一度や二度ではないに違いない。言い方が慣れてるんだもの。

 ガーヴィンは、恐らくサラに(?)を見られたショックでこちらを見つめたままずっと固まってしまっている。きっと腕に巻きついてるピンク頭ローゼマリアの存在も頭の中の宇宙のどっかに飛んでいってしまっているに違いない。



(でも、今のままだと拉致があかなすぎるわ…!)



 言葉を返して良いものなのかどうか、サラが永遠に心の中で迷っていると。




「ローゼ!!」



 ガーヴィンでは無い男の声に、サラは其方へと視線を向けた。
 そこに居たのはマクベス殿下であった。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...