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魔性の女
しおりを挟むその緊迫した空気を打ち破ったのは、婚約者の右腕にぶら下がったままこちらを不審げ見ていたその人だった。
薄赤色の金髪はふんわりと広がり、その髪の隙間から覗くロイヤルブルーの瞳は、王家の色を誇らしげに宿している。サラの思っていた通り、彼女は非常に美しい女性だった。アーモンド型の大きな目に魅惑的な唇。華やかでくっきりと整った顔立ちは妾様に似ているのだろう。
色白で華奢な身体はこの前見た時と同じ、淡い黄色のシンプルなドレスを身につけていた。春の精のようなその姿は、ぱっと目を離した瞬間に消えてしまいそうな、どこかそんな危うさを感じた。けれどその細い腰に対して、豊かに張り出した胸と臀は思わず人の目を引く。その均整の取れたラインは、女のサラにさえも「男性なら必ず目を奪われるだろう」という確信を抱かせるものだった。
いやてか、私の婚約者の腕にそんな物押し付けないでよ。
「ねえ?あんたよ?聞いてるの?」
いや絶対にそうですよね?言葉遣いは荒く品がない為に見た目とのギャップがものすごい。
「もしかして口がきけないわけ?あたしを誰だと思ってるの?」
「……。」
(どうしよう。王族の血は受け継いでるけどマルベリア様はローゼマリア様の事を平民って言ってたわよね。だとすると私は今格下の相手に、許してないのに話しかけられているのよね?
でもこの方、『私を誰だと思っているの?』って今言ったわ。
と、言うことはやはり妾様のご息女よね?王位継承権の無い、そして妾様は既に貴族では無いから平民のはずの…。あれ、こういう場合ってどうするのが正解?)
「あたし、王の子よ?」
(…わー!言っちゃってるー!)
顔には淑女の笑みを浮かべたまま、サラの頭の中は混乱していた。
ローゼマリアは公然と「王の子」として知られている。それは事実であり、彼女の血には確かに王家の系譜が流れている。
だがその立場は虚ろなものだ。王位継承権を持たない彼女に与えられたのは、肩書きだけの「王と妾の子」という空虚な称号にすぎない。
それでも、ローゼマリアはその言葉の力を信じているのだろうと思われた。優越感を浮かべた笑みで、サラを見ているのだから。きっと、その言葉を使ったのは一度や二度ではないに違いない。言い方が慣れてるんだもの。
ガーヴィンは、恐らくサラに逢瀬(?)を見られたショックでこちらを見つめたままずっと固まってしまっている。きっと腕に巻きついてるピンク頭の存在も頭の中の宇宙のどっかに飛んでいってしまっているに違いない。
(でも、今のままだと拉致があかなすぎるわ…!)
言葉を返して良いものなのかどうか、サラが永遠に心の中で迷っていると。
「ローゼ!!」
ガーヴィンでは無い男の声に、サラは其方へと視線を向けた。
そこに居たのはマクベス殿下であった。
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