【完結】ただ好きと言ってくれたなら

須木 水夏

文字の大きさ
21 / 87

傷つけてしまった

しおりを挟む








「…え?えと…?」

「ごめんね。サラ。僕は、よくわからないんだ。」




 ガーヴィンが困ったように眉を下げ、しょんぼりと目を伏せる。その姿に、サラは「えっと」と再び言葉を詰まらせた。そこで辞めておけば良かったのに、サラは尚も言い募ってしまった。



「で、でも。ガヴィのおかあさまとおとうさまのこと、すきでしょう?」

「……?」

「いっしょにいて、幸せな気持ちになるでしょう?」





 単純に。本当に単純に、無邪気な問いかけだった。しかし言葉にした瞬間、幼いサラの胸にわずかな不安がよぎる。
 自分は今、とんでもないことを聞いてしまっているのではないか、と。

 もし「そんなことはない」と返されたら、何と言えばいいのだろうか――その答えを思いつけないまま、サラは言葉を続けた。
 残念ながらその頃の少女には、相手の心の裏側に思いを馳せるほどの成熟はまだなかった。思ったことを、ただ素直に口にするしかできなかった。

 その結果。



「……好きがわからないなんて、ガヴィ、ちょっとへんだわ。」


「変……。」
「うん。おかしいわ。だって、わたしも、ガヴィのおかあさまもおとうさまも、ガヴィのことだいすきなのに。」

「おかしい……。」



 サラはさりげなく自分の気持ちを伝えたつもりだった。少しおませなその言葉に、恥ずかしさを覚えて頬を赤らめながら彼を見上げる。けれど、待てども返事は返ってこない。

 不思議に思い、サラがガーヴィンの顔を覗き込むと、彼は衝撃を受けたような顔をしていた。



「……ガヴィ?」



 サラが呼びかけると、ガーヴィンは小さな声でつぶやいた。



「ぼくって……おかしいのかな。」



ガーヴィンの声は、心の奥底から湧き上がる疑問のように震えていた。
 その事に気づいた瞬間、サラはハッとした。しかし、時すでに遅かった。
 ガーヴィンはサラを見つめたまま酷く傷付いた顔をして、そして微笑んでいた。
 その余りに痛々しい表情に、サラは大きな目をさらに大きくして彼を見つめた。ガーヴィンの悲しみを真っ直ぐ心に感じとってしまった彼女は、やがて先に泣き出してしまった。


「お、お嬢様?お坊ちゃま?」


 ケリーの声がすぐ近くから聞こえたけれど、返事をする事ができなかった。

 少女の泣き声につられガーヴィンも泣き出してしまい、大合唱になる。
 慌てて部屋の中にいた侍女達が庭に駆け降りてきて、困惑しながらもそれぞれの母親の元へと戻すも、しゃっくりを繰り返すばかりでそれぞれが会話にならない。





 ーーそしてここからの話は、もう少し彼女が成長した後、ガーヴィンの好意は確かにのに「好き」と言葉にして言って貰えないと悩んでいたサラに大して、母から直通聞いた話。
 好きな人から愛を語って貰うことの出来ない切なさを、不意にもらしてしまった。幼い頃の、彼に「好きが分からないのはおかしい」と言ったことは、その時には覚えていなかったから、本当に恋する乙女的なボヤキだった。

 だったのだけれど。

 母は困ったような顔をして。そしてとても言いづらそうにしながら、その話を教えてくれた。






「ガーヴィン君はね、幼い頃にとても可哀想な目にあっているの。」



 と。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...