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傷つけてしまった
しおりを挟む「…え?えと…?」
「ごめんね。サラ。僕は、よくわからないんだ。」
ガーヴィンが困ったように眉を下げ、しょんぼりと目を伏せる。その姿に、サラは「えっと」と再び言葉を詰まらせた。そこで辞めておけば良かったのに、サラは尚も言い募ってしまった。
「で、でも。ガヴィのおかあさまとおとうさまのこと、すきでしょう?」
「……?」
「いっしょにいて、幸せな気持ちになるでしょう?」
単純に。本当に単純に、無邪気な問いかけだった。しかし言葉にした瞬間、幼いサラの胸にわずかな不安がよぎる。
自分は今、とんでもないことを聞いてしまっているのではないか、と。
もし「そんなことはない」と返されたら、何と言えばいいのだろうか――その答えを思いつけないまま、サラは言葉を続けた。
残念ながらその頃の少女には、相手の心の裏側に思いを馳せるほどの成熟はまだなかった。思ったことを、ただ素直に口にするしかできなかった。
その結果。
「……好きがわからないなんて、ガヴィ、ちょっとへんだわ。」
「変……。」
「うん。おかしいわ。だって、わたしも、ガヴィのおかあさまもおとうさまも、ガヴィのことだいすきなのに。」
「おかしい……。」
サラはさりげなく自分の気持ちを伝えたつもりだった。少しおませなその言葉に、恥ずかしさを覚えて頬を赤らめながら彼を見上げる。けれど、待てども返事は返ってこない。
不思議に思い、サラがガーヴィンの顔を覗き込むと、彼は衝撃を受けたような顔をしていた。
「……ガヴィ?」
サラが呼びかけると、ガーヴィンは小さな声でつぶやいた。
「ぼくって……おかしいのかな。」
ガーヴィンの声は、心の奥底から湧き上がる疑問のように震えていた。
その事に気づいた瞬間、サラはハッとした。しかし、時すでに遅かった。
ガーヴィンはサラを見つめたまま酷く傷付いた顔をして、そして微笑んでいた。
その余りに痛々しい表情に、サラは大きな目をさらに大きくして彼を見つめた。ガーヴィンの悲しみを真っ直ぐ心に感じとってしまった彼女は、やがて先に泣き出してしまった。
「お、お嬢様?お坊ちゃま?」
ケリーの声がすぐ近くから聞こえたけれど、返事をする事ができなかった。
少女の泣き声につられガーヴィンも泣き出してしまい、大合唱になる。
慌てて部屋の中にいた侍女達が庭に駆け降りてきて、困惑しながらもそれぞれの母親の元へと戻すも、しゃっくりを繰り返すばかりでそれぞれが会話にならない。
ーーそしてここからの話は、もう少し彼女が成長した後、ガーヴィンの好意は確かに感じるのに「好き」と言葉にして言って貰えないと悩んでいたサラに大して、母から直通聞いた話。
好きな人から愛を語って貰うことの出来ない切なさを、不意にもらしてしまった。幼い頃の、彼に「好きが分からないのはおかしい」と言ったことは、その時には覚えていなかったから、本当に恋する乙女的なボヤキだった。
だったのだけれど。
母は困ったような顔をして。そしてとても言いづらそうにしながら、その話を教えてくれた。
「ガーヴィン君はね、幼い頃にとても可哀想な目にあっているの。」
と。
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