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頼むよ【ハーヴェイ殿下視点】
しおりを挟むハーヴェイは彼の弱点を突く事にした。この禁じ手は、自分の首を絞めることにもなるなりかねないので、慎重に伝えなくては、と内心バクバクだ。
けれどこの男があれのお眼鏡に叶ったとするならば、使わない手は無い。
「ガーヴィン、このままあの女を放っておくと、お前のご令嬢にも危険が及ぶかもしれない。」
「……は?」
ハーヴェイのその言葉に、ガーヴィンの瞳が鋭く光った。う、怖い。
「...以前、彼女に関わった男の婚約者たちが皆、何らかの怪我を負っている。学園や慈善事業、友人宅、仕事からの帰り道で襲われ、顔や身体を切りつけられるなどしているんだ。」
「……それが、あのピンク頭の仕業だと?」
ガーヴィンの視線がさらに鋭さを増し、その圧力にハーヴェイは思わず小さく息を呑む。
(……こいつ、怖すぎる。)
だが、ここで怯んでは話が進まない。
わたしは第三王子わたしは第三王子わたしは第三王子。心の中でそう三回呟くとハーヴェイは気を引き締め直し、続けた。
「た、確かな証拠はない。全ての事件が夕方、または早朝に起こっているため、目撃者も殆どいないんだ。だが、偶然とは思えない。怪我を負った少女たちはみな、婚約者があれと何らかの関わりを持っていた。」
「……。殆ど、と言うと見た者はいるのですよね?」
「ああ。被害に遭った少女達だ。.....その時に一緒にいた従者や侍女は切り捨てられている。令嬢達はその現場を目の当たりにしたせいでみな一応に怯えていて、精神的なショックで口がきけなくなってしまった者もいる。」
ハーヴェイの言葉に、部屋の中がしんと静まり返った。
「......待ってください。剣など扱えそうに見えませんでした。」
「そうだ。あれには協力者が居ると見ている。しかも手練の。だからこそ、お前に協力してほしい。彼女の動向を把握し、早急に修道院に送るために動きたいんだ。」
「何故、令嬢は切り捨てずお付きの者だけを?」
「それは、分からない。」
「そのような危険人物を、どうして今まで放置していたのですか?とにかく、サラを危険にさらすわけにはいきません。協力は出来ません。」
ガーヴィンは強く拒否した。冷たく、毅然とした口調だ。
(だよなぁ……。分かる。でもこっちも本気で終わらせたいんだよ...!調べたい事もあるし!)
ハーヴェイは内心で嘆息しつつも、言葉を重ねる。
「協力してくれるなら、王家が全力で令嬢を守る。精鋭の騎士も何名か付けるし影も付ける。だが、このままでは令嬢はいつどこで襲われてもおかしくない。」
(ちなみに、サラ・ウィントマンのことを「令嬢」としか呼ばないのは、ガーヴィンの目の前で彼女の名前を呼ぶと怒られるからだ。本当に面倒な男だな。気に入られると大変だぞ、可哀想に……。)
「あれは権力など持ち得ない。だが、もしあれに加担する者が敵国のものだったとしたなら——」
ハーヴェイがそう言いかけたとき、ガーヴィンの表情が一転した。
時折彼が見せる、まるで人形のような無表情だ。しかし、その瞳の奥には氷のように冷たい怒りが滲んでいた。
「……話を聞かせてもらいましょうか。」
低い声でそう告げると、ガーヴィンは椅子に深く腰を下ろした。
(...もーほんっと怖い......。)
そうなって、漸くハーヴェイは息を深く吸えたのだった。
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