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脳筋の兄【ハーヴェイ殿下視点】
しおりを挟む正直ハーヴェイにとって、上の兄の事などどうでも良いのだ。
頭脳派のフレデリック兄様とは違い、どう足掻いても脳筋だし。何かあればなんでも筋肉で解決しようとするし。見た目は繊細そうに見えるのに凄く大雑把だし。
悪い人では無いのだが、ちょっと政には向いていない人だから。ただ、女に騙されるのだけはやめて欲しい。王族の威信に関わる問題だ。父王が既にやらかしているのだから尚のこと。
ガーヴィンに渡した報告書には最近影に探らせていた、兄と庶子の件が書いてある。
まあ、出るわ出るわ。角ですれ違い間際にぶつかるベタな手口からの、次は庭で出くわして。噴水で待ち合わせには来ず、夜風に当たりにマクベスがガゼボに座っているとそれに偶然鉢合わせるかのように登場。目をじっと見つめて逸らしてまた見つめる。かーらーの、ボディタッチ。
報告書を見ていたガーヴィンが心から不思議そうにしながらぽつりと呟くように言った。
「......怪しすぎる。第二王子は何故受け入れているのか...?」
「やはりそう思うか。普通そう思うよな?」
ベタな小説かのような展開なのに、脳筋の兄はあっさりとあれの手の中に落ちたらしい。まだ口付け止まりの清い関係だと報告書には認められていて、なんで私がこんな内容まで確認せなならんのだ、とハーヴェイは初めて見た時舌打ちした。
そこでハーヴェイはふと思った。父王は要らないものを纏めて処分しようとしているのかも知れない、と。
これはあくまで想像の域を出ない。けれど、そうであれば、王がマクベスにローゼマリアが近づくのを制止するように指示した筈だ。
それを行っていないのは何故なのか。冷たく凍りついた風が心の中を過ぎったが、それも一瞬の事だった。自分が仕えるのは今後王になる王太子だ。それが揺るぎないのであるのならば、それでも良いと思った。
でも、マルベリア嬢との婚約を解消するとか何とか喚いているのを聞いて、流石に「はあ?」となった。
だって、あのマルベリア嬢だよ?
四大公爵家、筆頭サンドラルド家の正統な後継にして淑女の鏡、王族にも嫁げる程の高い教養と美貌持っているあのマルベリア嬢だよ?頭脳明晰、清廉潔白、文武両道なあのマルベリア嬢だよ??
(何故婚約を解消しようとするんだ...意味が分からない。)
ハーヴェイは同年代の子女の中で、もしも自分が婚姻を結ぶのであれば、綺麗で賢いマルベリアが良いなあ、と思っていた時期もあった(幼少期)くらいだ。
けれど父王がマクベスの降婿先にサンドラルド公爵家を指名し、そのハーヴェイの淡く儚い恋は終わってしまったというのに。
(それなら最初から私が相手で良かったのでは。)
ちなみにその意思表明はもう既に父王にはしている。「マクベス兄様の代わりに、私をマルベリア嬢と結びつけては如何でしょうか?」と。
流石に現王も、筆頭公爵家との関わり合いを今回のような全く無意味なことで不意にするのはまずいとは思っていたようで、渋い顔をしながらも「...少し考えさせてくれ」と頷いた。
ハーヴェイはその言葉に微笑んだ。母親と父親の良いとこ取りしたその顔立ちは小悪魔的だと良く言われる。笑うともっとそうなるらしい。
その時も母である王妃に、
「お前の顔は相変わらず小悪魔的ね。」
と言われた。
どういう事か分からなかったのでガーヴィンに聞いたら「裏表がありそうってことですよ。」と真顔で言われた。
当たり前に人間には裏表がある。別に良い事じゃないか。まあそれは置いておいて。
「兎に角、早めに彼女を追い出したいんだ。それには君の協力が不可欠だ。」
「私は嫌です。一度引っかかってるそこの二人に頼めば宜しいのでは?」
「「引っかかってない!」」
こう頼んでも無の礫か。
それならば。最終手段!
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