【完結】ただ好きと言ってくれたなら

須木 水夏

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そこを何とか【ハーヴェイ殿下視点】

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 当時皮肉混じりに「真実の愛の結晶」と呼ばれた彼女だが、今はそう言い切れる存在ではないだろうとハーヴェイは考える。

 産まれた娘に名前だけは与えた現王。父としての情けはそれだけだ。 
 現に、ローゼマリアは生まれて間もなくから今日まで、王城の奥宮に事実上放置されているのだから。
 家庭教師などは付けられず、まともな教育を受けていないので教養もない。
 母であるアマルナが元男爵令嬢として最低限の知識を教えたものの、それは低位貴族の域を超えるものではなかった。
 王家の色が入っていなければまだ良かったのかもしれない。城から出され、孤児院で育てられる道もあっただろう。しかし彼女の目に宿る色──王族の証ともいえるその色とアマルナと現王を混ぜたようなピンク色の髪は、彼女の血筋を否応なく浮き彫りにしてしまうのだからどうしようもない。

 王の妾であるアマルナは、ただ恋をした王の愛だけを求めていた。王に薬を盛り子を孕んだのも、自分の地位を安定させる為だったに違いない。けれどそれが返って彼女の立場を危うくした。
 その結果として、ローゼマリアを出産する前には隣国で「苛烈」と評される王妃に粛清されることを恐れた、生家である男爵家からも縁を切られてしまった。

 アマルナの身分は平民同然となり、当然生まれた娘ローゼマリアも同じく平民扱いだった。ただし、彼女が王の血を引いているという事実だけがその存在を複雑なものにしているのだ。

 ハーヴェイも、彼女が城内を品なく走り回り、男達に声をかける姿を何度か目にしたことがある。
 しかし、正妃である母から「あれには近寄るな」と厳命されていたため、必要以上に関わることは避けてきた。
 ローゼマリア自身も、その状況を理解していたのだろう。一度だけハーヴェイにねっとりとした声で話しかけてきたことがあったが、彼が完全に無視すると、それ以降は二度と近づいてくることはなかった。


 だが、兄マクベスは違った。

 第一王子であるフレデリック兄様王太子に対して長年仄暗いコンプレックスを抱いていた彼は、自分を持ち上げてくれるローゼマリアにまんまと魅了されてしまった。そして現状はというと、降婿先が決まっていたサンドラルド公爵家との婚約を取り消したいと王の前で喚いているのだ。

(我が兄ながら情けない。)

ハーヴェイは呆れを隠せなかった。

 
 庇護欲をそそられたと、同じように彼女に誑かされた男たちはそう口を揃える。目を見つめられると抗えないほど魅了されるのだと。

(この国に魔法など存在しないが……。)


 ハーヴェイは眉をひそめた。この国において魔法や超自然的な現象は信じられていない。だが、悪魔崇拝や呪いの儀式が密かに行われているのも事実だ。彼女が妖しげな術を使っている可能性も否定できない。それとも薬か……?


 アマルナに関しては宮を一歩も出る事を許されていなかったが、ローゼマリアは子どもであったからか王城の敷地内であれば出歩く事を許されていた。成人をすれば修道院へと入れられ、そしてそこから一生出られないことも定められている。
 産まれることは許されたが、結婚も出来ず何かを与えられることも無く。人が聞けば憐れに思うだろう。
 けれど、このローゼマリアという娘は母親と同じように、若しくはそれ以上に強かな女であった。故にこれ以上犠牲を出す前に早めに王城から追い出したいのだ。


 





 
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