【完結】ただ好きと言ってくれたなら

須木 水夏

文字の大きさ
47 / 87

焼きもちを少々

しおりを挟む








「……そういえば、さっきの話なんだけど。王太子殿下と話したの?」
「ん? ええ、話したわ。」
「……僕がいない場所で?」


 その問いかけに、サラはきょとんと目を丸くした。話を逸らす気?そうは思うものの、素直に返事をする。


「え? ええ、そうね。ガヴィはいなかったわ。城に缶詰にされてるって手紙をもらった日だもの。」
「はあ……。」
「……なあに?」


 ガーヴィンは溜息をつくと、ぷくーっと頬を膨らませた。その表情にサラはハッと気づく――これは彼がな時のサインだ。
 握られた手が、撫でるように緩く動く。ガーヴィンは口を尖らせ、小声でぼそりと呟いた。


「……なんだか嫌だなあって。」
「まあ。」
「だって、サラは可愛いし優しいし美人だし気も利くし……もし、他の男がサラを好きになったら嫌だ。」
「何を言ってるのよ、ガヴィったら。王太子殿下は、もうご結婚されているのよ?」
「それはそれ。正妃がいても側妃は持てるし。」
「……今の話を聞きながらそんなことを考えてたの? 馬鹿ねえ。」


 サラは呆れて息をついたが、ふと反撃を思いつく。


「私だって、貴方があの人ローゼマリアと一緒にいた時、とっても嫌な気持ちだったのよ?」
「うっ……。」
「腕を触られていたし、それに……」

 ――胸を押し付けられていたじゃない。
 サラはぷいっと顔を背けた。思い出すだけで、またもや怒りが込み上げる。
 するとガーヴィンは慌てたように手をぎゅっと握り直してきた。


「……ごめん。」

「分かっているわよ。貴方は任務だった。そして王太子殿下は警告をくださっただけなのだから、ヤキモチなんて焼かないで。」

「……うん。」


 ガーヴィンは納得したのかしないのか、微妙な顔をして黙り込む。そんな彼を見つめながら、先程よりもかなり気持ちが落ち着いたのだろう。考える余裕が出来たサラの胸中に浮かんだのは。

 あの日の早朝、襲われた時のことだ。
 辺りはまだ暗く、突然の出来事にサラは気が動転していた。
 犯人の顔は布で隠されていた気がするが、はっきりと記憶には残っていない。けれど、ケリーに庇われるまでの一瞬、確かに目が合った気がした。そして、ケリーが切り付けられた事で、一度頭の片隅へと追いやられてしまったけれど。
 第三王子ハーヴェイの思惑、王太子フレデリックの言葉。庶子ローゼマリアの存在。そして襲ってきた男の、

 ――何故だろう? ような気がしたのだ。

 思い出すと、心臓が嫌な鼓動を打つ。
 あの目――。
 ケリーのランプの光に反射して、獲物を狙うかのような、狂気をはらんだあの鋭い眼差し。そして。
 


「……ねえ、ガヴィ。」
「ん?」
「もしもの話よ。」
「うん。」

「私たちの知らないが、他にもいたりするのかしら?」


 ガーヴィンの表情が一瞬で硬直した。



「……どうして?」
「ローゼマリア様の背後にいるのが、彼女と関係を持つ貴族ではなく、血の繋がりがある者だとしたら……?」


 サラの言葉に、ガーヴィンの目が更に真剣さを帯びる。


「……何故そう思ったの?」


 彼の問いに、サラは唇を噛み、ためらいながら答えた。


「……目の色よ。王族のだったの。」


 他にない王族の証。それはロイヤルブルーの瞳。
 暗かったから見間違えたのかもしれないけれど、そう思うにはそれはあまりにも鮮やかに記憶されていた。
 サラの言葉が落ちると、部屋の空気が一変した。まるで冷たい風が吹き込んだかのように、静けさが漂う。
 少し時間が経過した後、ガーヴィンはサラを見つめながら、は、と小さく息を吐いた。


「ハーヴェイ殿下も、同じことを言っていたんだ。」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...