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浮かび上がる疑問点
しおりを挟む「何も、ないよ。」
ガーヴィンはそう言った。しかし直後に右耳を触る仕草を見せ、視線がふわふわとサラの斜め右上へと泳ぐ。
――本当に嘘がつけない人だわ。側近としてやっていけるのかしら……?
サラは心の中でため息をつきながら、冷静に問い詰めた。
「ガヴィ、本当に?」
その一言に、ガーヴィンの空色の瞳が揺れる。彼は何かを言おうとして口を開けたけれど。結局、何も思いつかなかったのか、沈黙が部屋を支配した。それを確認した後、サラは口を開いた。
「……ずっと不思議に思っていたの。王位継承権を持たない庶子に、どうして貴族のあなたを囮に使うのか。
そして、なぜ私が狙われると確信して騎士が付けられたのか――第三王子殿下の意図が見えなかったわ。でもね、王太子殿下のお言葉で腑に落ちたの。」
サラは静かな口調で畳み掛ける。
母がこの場にいなくてよかった――余計な心配をかけてしまうだろう。父がいなくてもっとよかった――城に怒鳴り込みに行ってしまいかねないからだ。
ケリーもハドウィンもおらず、部屋にいるのは彼女とガーヴィンだけ。静寂の中、サラはさらに言葉を続けた。
「最初は、私が襲われると聞いた時、彼女が何かをしてくるのだと思ったわ。」
「……。」
「いいえ、彼女が動いたのかもしれない。そう仮定しましょう。でも――そう考えると腑に落ちないことがたくさんあるの。」
「……例えば?」
ガーヴィンの表情が一段と固くなり、その声は強張っていた。
「彼女は庶子よ。母親も今では貴族ではなく、彼女自身も平民。そしてお金もそんなには持っていないでしょう。誰かが支援していなければ、何もできないはずよ。」
「……確かに。でもお金を持っていたのかも。」
「それにね、私を襲ったあの男――並の腕前ではなかったわ。ハドウィンを軽々と押し退けたほどの騎士よ。そんな男を、端金で雇えると思う?」
サラの脳裏に、後ろ手をついて倒れたハドウィンの姿が浮かぶ。
彼は子爵家の三男として生まれ、王国の辺境で兵士として鍛え上げられた実力者だ。参加した剣闘大会で決勝まで行ったことがあると、ケリーに自慢しているのをサラは聞いたことがあったし、実際に訓練中の剣技を見たこともある。けして大柄では無い身体を活かして素早く相手を攻撃し剣を躱す姿はまるで、自由自在に動き回る風のようであった。
危険を避けて安定した職を求め、伯爵家の従者となったが、その剣技の腕は父も信頼していたほどだった。
――そのハドウィンが、あっさりと打ち倒されるなんて。
「そして、ケリーの傷を診た医師が言っていたわ。加減がされていたって。」
「加減……?」
「そう。あの男は、私を傷つけるつもりだった。でも――殺す気はなかったのよ。何故かしら?」
サラが問いかけると、ガーヴィンは観念したように目を閉じ、しばらく沈黙した。そしてゆっくりと顔を上げると、唐突にこう聞いてきた。
「……サラ、最近ミステリー小説にハマってるんだって?」
「え? そうだけど……どうして?」
「その影響で、色々考えてるのかなって。」
「まあ、いつも色んなことを考えてるわよ!」
「……そういう意味じゃないって。」
頬を膨らませるサラに、ガーヴィンは一瞬困ったように眉尻を下げた。そして久しぶりに、屈託のない笑みを見せたのだった。
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