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父への報告
しおりを挟むサラが間に入ったことで、少し頭が冷えたのか、父は戸惑いがちにこちらを見ながら口を開いた。
「……それで?少しは落ち着いたのかい?」
「ええ。すっかり。お父様よりは、ずっと落ち着いておりますわ。」
「……悪かったよ。」
バツの悪そうな顔をした父は、今度はちらりとガーヴィンに目を向けた。
「それで、第三王子殿下の遣いで来たんだろう?犯人は捕まったのか?」
「……いえ、まだです。」
「近衛騎士を使っているんだろう?何をしているんだ、全く。」
「それについては、全く同感です。」
娘を溺愛する父と、サラ命なガーヴィンがここで妙に意気投合したことに、サラは少し肩の力を抜いた。どうやら、今日の口論はこれで終わりになりそうだ。
ほっとしたのも束の間、不意に父がぽつりと呟いた。
「……もしかしたら、関係があるのかもしれないな。」
「?何がです、お父様。」
「ああ、十二年前の」
ガーヴィンもその視線に気づき、一瞬ぎこちない空気が二人の間に流れた。
「……いや、何でもない。」
「何かあるなら仰ってください。」
今度はガーヴィンが促すように声をかけるが、伯爵はまだ迷っているようだった。
「いや、しかしな……」
言葉を濁す父に対し、ガーヴィンは少し前のめりになりながら強い口調で言った。
「今回の犯行について証言はあるのですが、確証が得られないのです。このままでは解決するまでサラに会いに来ることも自由にできません。」
「ガーヴィン……。」
「……いや、別に来なくてもいいが。」
「お父様?」
サラのジト目にたじろいだ伯爵は、軽く咳払いをして視線を逸らす。
一方、ガーヴィンは義父となる人物を真っ直ぐ見つめ、改めて言葉を重ねた。
「何でも良いのです。些細なことでも、引っかかることがあるのなら教えてください。」
伯爵はしばし考え込んだ末、小さく息を吐き出し、口を開いた。
「……ランマイヤー夫人の事件を聞いているか?」
「……母のことですか?」
「ああ、そうだ。……十二年前のことだ。ランマイヤー夫人は、教会から伯爵家に戻る途中で暴漢に襲われ、大怪我を負った。」
「……母が?本当ですか?」
ガーヴィンの怪訝な表情を見て、伯爵は小さく呟いた。
「そうか、お前はその頃の記憶が曖昧なんだったな……。」
「なんです?」
父はそう言って再び視線を落とす。
サラにはその呟きがはっきりと聞こえたが、ガーヴィンには届いていないようだった。キョトン、とした顔をしている。
(あの出来事のせいね……。)
サラの頭に浮かんだのは、幼い頃、ガーヴィンがランマイヤー夫人の実の妹に攫われた事件だった。
当時、ガーヴィンの母は療養中だったとサラは母から聞いていたが、詳しい内容は聞いていなかった。こんな事情があったのか。
伯爵は咳払いを一つすると、続けた。
「いや、兎も角。その時も確か夕暮れ時の犯行だった。そしてそこには、シェアナもいた。」
「え?お母様も居たの?」
今度はサラが驚く番だった。無論、そのような話は一度も母から聞いたことはない。
「あの二人は昔から仲が良くてな。お前たちが生まれてからも、暇さえあれば一緒に行動していた。あの日も、夫人がシェアナを教会に誘ったんだ。」
「それで、何があったのですか?」
伯爵は記憶を手繰るように、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
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