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母達とのお茶会
しおりを挟む次の日、サラは母シェアナと共にランマイヤー伯爵家へ向かうことになった。もともと予定にはなかったが、母がすでに段取りを整えていたらしい。
「サラ、今日はクロエに会いに行くから、部屋に戻ったら準備しておいてね。」
「へ?」
朝食の席で突然告げられたその言葉に、サラはきょとんとした。対照的に、父は険しい顔をしている。もじもじ、と一瞬躊躇った後に母に話しかけた。
「……ついていこうか?」
「大丈夫よ。」
「でも、心配だ。」
「だーめ。あなたはお仕事を頑張って。」
……父の心配性はもしかして母達の事件からなのだろうか。
夫婦が変わらずの調子でやり取りを交わす様子を見ながら、サラは落ち着かない気持ちになっていた。
ガーヴィンの母、クロエ・ランマイヤー夫人と会うことの意味を考えた。恐らく、あのことが関係しているのだろう。
読んでいる小説の世界では無いけれど、犯人が気になって仕方の無いサラは昨日の夜からその事ばかり考えていた。
期待と緊張が入り混じる中、サラは母とともに馬車に乗り、街路を進んでいたが、やはり気になって聞いてしまった。
「お母様。今日はどういったご用件で、ランマイヤー夫人にお会いになるのですか?」
「お茶をしましょうって、ずっと誘われていたの。あなたを交えて女三人でね。」
「では、今日はガヴィは……?」
「いないわ。」
「……お母様。もしかして、クロエ様は過去の事件の話を?」
事件の話をするのであれば、ガーヴィンがいた方が都合が良いのではないだろうか。そう思いながら、サラはおずおずと母に問いかけた。
父の話を聞く限り二人とも以前はその事件に触れたくないようだったけれど、もしかしたら今回サラが襲われた事によって、何かしら心情が変わっているのかもしれない。
だが、母は緩やかに首を横に振った。
「どうかしらね。私には判断がつかないわ。今回クロエに誘われたのは、確かに貴女が事件にあった後だけれど、どんな話をしたいのかしらね。ただ……」
母はふと悲しげに目を伏せた。
「あなたも私たちも、『同じ目』に遭った同志みたいなものだから、クロエは言葉を掛けたいだけなのかもしれないわ。そうであっても責めないであげて。」
「……お母様。」
その言葉に、サラは胸が締め付けられるような思いを抱いた。
自分の侍女ケリーが生きているのは幸いだったが、母が大切にしていた侍女コリンヌは、十二年前の事件で命を落としている。クロエ夫人もまた傷を負い、従者を失った。そしてサラ自身も、もし第三王子ハーヴェイがつけてくれた騎士がいなければ、ハドウィンを失っていたかもしれない。
母の言う「同じ目」という言葉が、改めて重く響いた。
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