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美しい人
しおりを挟むランマイヤー伯爵家に到着すると、柔らかな日差しが差し込む応接間でクロエが二人を迎えた。
「久しぶりね、サラ。あなた、また綺麗になったわね。」
「お久しぶりです、クロエ様。」
「うふふ、名前で呼んでもらえるのは嬉しいわね。シェアナ、ありがとう。」
「お久しぶりね、クロエ。出会って直ぐにお礼を言われるなんて。」
「あら、三人で女子会をしたいという私の夢を叶えてくれたわ。」
「これから何度でも出来るわ。」
「ふふ、そうね。」
ガーヴィンの母であるクロエは、ふんわりと少女のような笑みを浮かべた。
輝くような長い白金髪は、サイドに緩く編み込まれ、大きくて少し垂れた瞳が春の空のように澄んでいて美しい。
そして左目の下の泣きぼくろ。透明感のある白い肌に淡く色づく頬は、子を二人産んだ女性には見えないほど美しかった。淡い藍色のドレスがとてもよく似合っている。色気があるのに、どこまでも純粋無垢なように見える、不思議な人だった。
サラの母シェアナも昔から美しい人だったが、クロエの儚さはまた次元の違うものだ。「ミモザ姫」と称された彼女譲りの容姿は、確実にガーヴィンに受け継がれている。
将来、サラの義理の母となる人。
ゆったりと応接間のソファーに腰かけながら、三人は茶会を始めた。
「それで、サラはもう大丈夫?」
「はい。ご心配をお掛けしました。」
「私たちもそうだけど、ガーヴィンが一番動揺していたわよ。あなたの屋敷から戻った後も、ずっと部屋の中をうろうろしていたくらい。」
「まあ……。」
当日、ガーヴィンがサラの屋敷から帰りたがらなかったことを思い出し、サラは頬を赤らめた。
彼は、不安がる少女の様子に血迷ったのか、部屋にこのまま自分が泊まったほうがいいのではないかと言い出し、結局またカンカンに怒った父に追い出されてしまったのだ。(それはそうなる)
その記憶に少し気恥ずかしさを感じていると、母が紅茶を一口飲み、そっとクロエに問いかけた。
「……クロエは、傷はまだ痛むの?」
「……最近寒くなったから。少しだけね。」
クロエは左肩にそっと手を当て、目を伏せた。その姿に、サラの心がざわめいた。伏せられた長い睫毛がかすかに震えている。
「もう、十二年も経ったのね。」
「ええ、経ったわ。」
母の言葉に、クロエは小さくため息を付いた。
「……まさかまたこんなことが、自分の身近で起こるなんて思いもしなかったわ。」
「クロエ様……。」
サラが呼びかけると、彼女は再び小さく笑みをこぼした。
「……本当は。本当はね。
このまま、シェアナ以外の誰にも言わずにお墓まで持っていこうと思っていたのよ。」
「……はい。」
「サラが暴漢に襲われたと、ガーヴィンの口から聞いた時。そしてあの子が何を調べているのか、分かった時……。私があの時、あの方の事を皆に伝えていたら、違った未来になっていたでしょう。」
「クロエ様……。」
「とても、後悔しているの。でも、あの時は言えなかった。」
クロエはゆっくりと顔を上げた。その瞳には、何か深い決意のような光が宿っていた。
「サラ、お話するわ。十二年前、私が害された事件の真実を──」
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