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告白と狂気
しおりを挟む「何年も前から、影の報告によりマクベス殿下があの女と親しい中になっている事も存じておりました。彼が私には向けない目であの女を見つめている事も、私には触れようともしないのに、不埒な事をしている事も。
血の半分繋がった妹のような女と、この国ではその様な穢らわしい行為は許されていなかったはずなのですが。
……まあ、それでも良かったのです。最終的に婚約を果たし、あの女に構うこともなくなるだろうと思っておりました。」
まるで物語を語るかのような優しいマルベリアの声がホールに溶けては消えてゆく。
「マクベス殿下は仰いました。『お前との婚約を解消してローゼマリアを娶る』と。
市井に下ることになっても構わない、あの女と共に生きることを選ぶと言ったのです。」
そこで初めて、マルベリアの声色が変わった。静かな怒りと深い絶望が交じり合ったような、冷徹で感情的な声だった。
「許せなかった。」
ベールの下の顔はどんな表情をしているのだろうか。どこを見つめているのだろうか。
「こんなに必死に、寝食を削りマクベス殿下の居場所を護り続けてきた私を、選ばない彼が許せなかった。
市井に下る?何の力もない、スペア如きの王子が?考えなしで生きているあの男が?どうやって?どうして私を選ばず、あの女を選ぶ?」
ふ、とマルベリアは声を綻ばせた。
「……だから、私は思ったのです。最初から要らなかったのだから消してしまえば良いのだと。
最初からあの女さえ居なければ、こんな事にはならなかったのです。
どうして、ローゼマリアのような女を許しているのでしょう?
フレデリック殿下。貴方様だって、あの妹もどきの人間の行動には、手を焼いておられたではありませんか。
それでも、どうして彼女が罰せられるべきだと思わないのでしょうか?」
心底おかしな事だと言うような口調のマルベリアに、サラの背筋はゾクリと粟立った。
無自覚な狂気と深い憎しみが、そこにはあった。
フレデリック殿下は、マルベリアが話し終えた時になって初めてその面に感情を乗せた。そこにあるのは怒りや苛立ちではない。悲しみだけだった。
「……貴女は王族を殺したのだ。」
はっ、とホールの中で人々が息を飲んだ。
「違います。あれは妾腹の娘。そして、人の物を欲しがる薄汚い乞食に過ぎません。」
その言葉は、まるで自分を正当化するかのように、マルベリアの唇から流れ出る。
「貴女の言うように、彼女は王位継承権のない娘だった。そして、今ではその父も犯罪者と判明している。しかし彼女の血が、王家のものであるのは間違えようのない事実だ。
……貴女の過去より続く苦しみは、痛い程伝わった。
だが、マクベスやローゼマリアの行動が許されることは決してないが、それでも貴女の行動を正当化する理由にはならない。
人を殺すことはどんな理由があっても間違いなく罪だ。
人に仇なす行為は、必ずやがて自分へと跳ね返る。
そしてこれが、貴女の今の状況だ。」
フレデリック殿下の言葉に、マルベリアがはっ、と鼻で笑うのが聞こえた。それ迄彼女が纏っていた狂気じみた雰囲気は一瞬で消え去り、代わりに今にも破裂しそうな怒りの感情がマルベリアを包み込んだ。
「……正論だわ。間違いが一つもない、流石完璧な王太子様。
マクベス殿下が選ばれなかったのも理解できます。でもね」
「マルベリア!」
「それで多くの人は救われるでしょう!でも私の様な人間は、どう生きれば良いというのです……っ!」
公爵の静止を振り切って、マルベリアが悲鳴のような大声で叫んだ。ベールの下からポタポタと涙が地面へと落ちる。
「懸命に生きてきたのです……!言われる通り、望まれる通りにしてきたのです……っ!これ以上の我慢して、自分を押し殺して、搾取されて生き続けろと……?!ただ、黙って耐えろと言うのですか……っ?!」
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