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ただ好きと言ってくれたなら
しおりを挟む「え……?」
ガーヴィンの言葉に、サラは大きく目を見開いた。瞬きを繰り返しながら、その言葉の余韻が頭の中でじわじわと広がっていく。
それは、サラにとって初めて贈られる特別な言葉だった。
「サラが欲しい言葉は、言ってあげられないかもしれない。でも――君を心から愛している。」
「ガヴィン……」
ガーヴィンの頬は真っ赤に染まり、サラ自身も顔が熱くなるのを感じていた。
「愛している。」
「……それって……」
「サラが本当に欲しい言葉じゃないだろうけど。」
「……もう一度言って。」
サラの願いに応え、ガーヴィンは全身を赤くしながらも、まっすぐに彼女の瞳を見つめて言った。
「愛しているよ。」
「私も……貴方を愛しているわ。」
サラの瞳には喜びの涙が薄く膜を張り、今にも零れそうだった。その微笑みを見たガーヴィンは、湯気が出そうなほど赤くなり、椅子の背にもたれかかると顔を両手で覆った。
「サラ……そんなに喜んでくれるなら、もっと早く言うべきだったな。でも……お義父様に『愛を語るには百年早い』って言われて、それがずっと引っかかってて……。」
(お父様ったら……余計なことを。)
「⋯⋯じゃあ、九十五年くらいは早めに言ってもらえたのかしら?」
「いや……八十五年くらいかな?」
(十五年も前なの?!お父様ったら、幼いガーヴィンにそんなことを……!)
サラは思わず頭を抱えた。父がサラを大切に思い、ガーヴィンを牽制していたのは知っていたが、まさかこんな形で影響していたとは。
ガーヴィンから「好き」と言われない日々に悩み、食欲を失い涙した日々――家族の間で周知の事実になっているあの時期が、頭をよぎる。お父様の意地悪。
(後でしっかり文句を言わないと……。)
「……まさか敵が内側にいるなんて思わなかったわ。」
「え?」
「……ううん、なんでもないわ。」
きょとんとした顔でこちらを見つめるガーヴィン。その頬も耳も、少しずつ赤みが引いてきたようだ。
思えば、ガーヴィンもガーヴィンだ。普段はサラの微妙な変化にも気づくほど聡いのに、なぜ今まで想いを伝えてくれなかったのか。
急に意地悪を言いたくなり、サラはあえて尋ねた。
「……どうして急に、想いを伝えようと思ったのかしら?」
「……もうすぐ結婚するし。」
「ふぅん。」
「それに……絶対に君を離さないって伝えたかったから。」
「え?」
驚いたサラは、ガーヴィンの顔をじっと見つめた。
「これから先、一生、君を離さない。僕の愛は重いよ……それでも、そばにいてくれる?」
「……いるわ。」
サラは柔らかく微笑むと、ガーヴィンも照れながら微笑み返した。そしてそっと顔を近づけ――
「はい、ストップです。」
背後から、冷静な声が響いた。驚いて振り返ると、そこには少し頬を赤らめたケリーと、目を瞑ったままのハドウィンが立っていた。
(……二人の存在、完全に忘れてた……。)
「ご結婚式までは控えるようにと主様からご命令を受けておりますので、ガーヴィン様。お嬢様への接触はお控えください。」
少し困り顔をしながら淡々と言うケリーに、サラとガーヴィンは気まずそうに顔を見合わせるも、やがて小さく笑い合った。
刹那、窓の外に目をやると、中庭の樹から一羽の白い鳥が飛び立った。
白い羽が陽光を受けて輝きながら、空高く舞い上がっていく。サラはその姿をじっと見つめながら、心の中でそっと祈った。
遠くにいる貴方の心が平穏でありますようにと、願いながら。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
読んでくださってありがとうございました。
書き足し書き足ししていたら、思っていたよりも長い物語になってしまいました💦
こちらの内容で完結となります。番外編はハーヴェイとエミリアのこと、ウルク王のこと書いていこうと思います。(*・ω・)*_ _)
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