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懐かれたみたい
そんな事があってから暫くの間、ミアはまた平坦な日々を送っていた。いつも通り一人で淡々と過ごす毎日。
けれどある日突然、その人は、ミアの在籍する教室に現れた。
少女は、最初は本に目を落としていて気が付かなかったが、その人が室内に顔を覗かせた瞬間に辺りの空気が一瞬ざわついて、人々の囁きが教室内を満たしたのは耳だけで聞いていた。
その後──騒音が何時までも続いていたから、流石に不審に思ってミアは顔を上げた。
そうしたら──あの日助けたその人がミアの直ぐ目の前に立っていたのだ。
上から小首を傾げて、ずっとミアを見ていたらしい。目が合った途端ににこ、っと微笑んだのだから。
ダイヤモンドのように柔らかな光を帯びる瞳と、白金髪の髪。神様が手ずから作りあげた作り上げたと言っても過言では無い、寸分の狂いもない美しい顔を持ち、正に壁画に描かれている天使の様な色合いのその人が。
「あの時は、助けてくれてありがとう。」
そう言いながら、彼女に頭を下げたのだった。高位貴族が低位の貴族に頭を下げるなんてことは、通常では有り得なくて、教室の中はしん、と水を打ったように静まり返った。
何とかの恩返し……?とミアはぽかんとして、束の間彼の顔を見つめた。
名を名乗っていないのに、何故彼女だと分かったのだろうと考えていたからだ。けれどそれも一瞬の事で、直ぐに自分の髪色のせいだと気がついた。
ミアは慌てて席から立ち上がった。
「……礼には及びません。たまたま、あそこに居ただけですので。」
周りから視線が刺さる!痛い!と思いながらもミアは敬語を使い、失礼のない程度に微笑んだ。
それに対して、その人は頬をほんのり紅く染め、まるで美しい真っ白な大輪の花が綻び開くかのような笑みを深くした。
その瞬間に周囲からきゃあ、と悲鳴が上がる。後ろの方では誰か倒れたらしい。バターンッという音と共に「保健室!」と叫んでいる声も聞こえてきた。
(わあ……。これはいけない。危険だわ。危険すぎる。)
「私はソレイユ・セウ・アジェランデと言います。貴女の名前を聞いても良いですか?」
ミアが敬語を使ったからだろう。彼も敬語で彼女に問い掛けられ、その言葉に少女は逃げられないと悟った。
公爵家嫡男に伯爵家の娘が何かを問われて応えない訳にはいかないからだ。
ああ、でも名前を聞いたら関わるのを辞めてくれるかもしれない。ミアはそう期待した。
「ミア・ミュジックでございます。」
「……ミュジック伯爵?」
彼の少しだけ戸惑った様な反応に、ミアは良し!と思った。
知っている筈だ。「魔王の子孫」と自ら名乗る(一人だけだけど)痛い貴族の名前を。
(そのまま、引いてください。)
そう願っていたのだが。
ミアは何故かその後も毎日と言っていいほど度々ソレイユに出くわした。
その内、ミアは彼を成る可く避けるようにした。そうしたのに、している筈なのに、どうやってもばったりと出くわしてしまう。
教室や廊下、カフェテリアに中庭、図書館。彼はミアの顔を見ると、パッと華やぐような笑顔を浮かべて嬉しそうに近寄ってくる。
「また会ったね。」
「そ、そうですね。」
「何処へ行くの?」
「……図書館へ。」
「僕も行こうかな。一緒に行っても良い?」
「え、でも。どこかに行こうとされていたのでは?」
「ううん、勉強をしようと思って場所を探していたんだ。」
そう言って、にこにこしながら教科書とノートを見せられてしまっては。
(……どうやってこれを断るのよ?)
図書館に着くと決まって近くの席に座り勉強したり本を読んだり、その人は気ままにミアの傍で過ごす事を気に入っているようだった。助けた事で懐かれたのだと思った。
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