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黄金色の瞳
「貴女が決める事では無い。」
落ち着いた、それでいて低く威圧的な声がホールの中に響き渡った途端に室内の気温が一気にぐっと下がった。
カランカランと壁に掲げられた旗の留め金が壁に打ち付けられる音と、クリスタル同士がぶつかる音が大広間に鳴り響き、均等に吊されたシャンデリアの炎が、まるで一陣の風が吹いたように奇怪に大きく揺れた。
ホール内の壁の模様が動き出したかのような錯覚を受け、思わずミアは辺りを見渡した。炎という炎が小さくなり、心做しか室内が暗さを帯びる。
半円を作り、少女達を囲んでいた聴衆も不安げな表情を浮かべて天井や室内を見渡しているのが見えた。
少女はそろり、と顔をあげ、彼の顔へと視線を向ける。その顔を──瞳を見て、ミアは目を見開いた。
「ソレイユ…?」
ソレイユの──普段ダイヤモンドのように透明で七色の光を反射する美しい瞳の色が、いつの間にか金色へと変化していた。
瞳孔が仄暗く赤い炎のように揺らめいて光り、角膜は内側からどんどん明るく鮮やかな黄金色に輝いていた。全てを破壊し焼滅させる太陽のような目で冷たくじっとカサブランカを睨みつけている。
「ま、ま、魔王の瞳……。」
青褪め、小さく震える声で呟くように言って、カサブランカはその場にへたり込んだ。そのままその視線から逃れる様に背を丸めて床を這い、王太子の後ろへと隠れた。
王女の言う通り。金色の瞳は魔王の瞳の色だ。ミアの直系の先祖が持っていたと秘密の家系図に記録されているが、勿論ミア自身もそれを目の当たりにするのは初めてだった。
ふと人垣の向こう側にさっきまで見つからなかった父の姿が見え、ミアはギョッとした。
彼が口をあんぐり開けて固まったままソレイユを凝視していたからだ。気持ちは分かるが、恐れ戦いている人々の中でその姿はとてつもなく悪目立ちしていた(だから見つけられたのだけど)。
(でも何故?何故ソレイユが、魔王の瞳を持っているの?)
混乱するミアを尻目に、周りの人々は円の外側に向かって数歩後ずさり、そのざわめきの中に「悪魔」「ソレイユ様が?」「どうして?」と言った恐怖と戸惑いの言葉も聞こえてくる。
その中でも動揺していないのは、王と王妃、そして王太子の三名だった。じっとソレイユを見つめる其々の瞳には懐古と喜々と羨望が浮かんでいる。
ソレイユはカサブランカに対して暫くの間威嚇をした後、ミアの方をゆっくり振り向くと、彼女に向かい合った。先程とは打って変わって夕日に輝く湖面が広がっているような金色の目が優しく弧を描き、彼女を見つめる。
そして、両方の手を温かく大きな手にふんわりと握られた。
「君の祖先が知らない話を、知りたい?」
「……知らない話とは?」
優しい声に何時ものソレイユだと分かってはいるものの、その瞳に吸い込まれそうな感覚に陥った。これが本当の魅了の魔術なのでは無いだろうか。
「僕の先祖は、君も知っての通り天帝だ。
その天帝には、愛した女性がいた。
……その愛した者は、魔族と呼ばれた娘だった。」
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