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天帝と魔族の娘
想像も空想も出来ないほどの遥か昔。
天と地に分かれていた世界で、戦争が起こった。「天地大戦争」と呼ばれたその戦で、天の者も地の者も沢山傷つき、そして多くが亡くなった。
その悲惨で残酷な大戦を終わらせる為に、天の大将だった天帝は自らが戦場へと乗り出したが、戦の途中で地より放たれた鋼鉄の弓矢によりその羽根を撃ち抜かれ、地の者の住まう土地へと墜落してしまった。
落ちた時に手足の骨が砕け、放たれた矢尻に仕込まれていた神殺しの猛毒も回り、彼は深い森の中で起き上がることも出来ず、いつしか死を覚悟した。
しかしその彼を助けたのが、地の魔族の娘だった。
夜の闇よりも深い黒髪に淡い灰色の瞳のその娘は彼が天の者と知った上で彼を人里離れた洞窟へと匿い、その傷と毒を必死に癒した。「大丈夫よ」と元気付けながら。
彼の羽根を清潔な布で包帯をし、手足には添え木をし、猛毒は彼女が持つ力で彼の身体からゆっくり時間をかけて取り除かれた。
時は流れ、怪我がほぼ完治した頃に天帝は彼女に静かに尋ねた。
「何故、私を助けたのか?」と。
「君は私を天の者知っていたのに、助けた。それにあの者たちも。」
彼が目を向けた方向には、怪我を負った天の者と地の者が同じように寝台に寝ていた。まだ少年の年頃のその二人は、最初は喧嘩をし合っていたが、今はとても仲が良く、二人は手を繋いで一緒に眠っていた。
天帝の視線の先を見て彼女は一瞬躊躇い、そして答えた。
「私は、自分が特別な事をしたと思っていません。
他人を傷つけたくありません。自分も傷つきたくありません。ああやって並んで眠って、起きて話をして、笑いあって……。私達は誰でも、他人とは違う生き物です。違っていても、お互いを良く知れば分かり合える事は沢山あるのです。
一体誰が好き好んで人を恨もうとするのでしょうか。
……そう思うのは、おかしな事でしょうか?私のような者の方がおかしいのでしょうか?」
そう言って、真珠のような涙を一粒零した。
その頬を伝う涙に天帝が思わず指先で触れた瞬間、その涙の雫は眩しく黄金色に輝き、ふわりと浮き上がると空の中へと消えていった。
──暫くすると空から黄金色の雨が降り始め、その雨粒に当たった者達は自分達が何故争っていたのかを全て忘れてしまったのだという。そうして天地大戦争と呼ばれたその戦は呆気なく幕を閉じた。
心の根の美しく優しいその娘を愛した天帝は、天に帰らず地上に留まった。そして魔族の娘と穏やかで幸せな時間を過ごした。
しかし数年後に再び悲劇が起こってしまう。
天帝との間に彼女が産んだ子供が聖と魔の力を強く引き継いだ結果、強力な力を持つ魔王が誕生してしまったのだ。
魔王は成長すると再び天地を混乱へと陥れ、そしてそれを気に病んだ娘も直ぐに儚くなってしまった。
天帝は自分の息子である魔王の力を削いだ後に眠りについた。それ以来、記憶を頼りにしながら生まれ変わる度にその娘の霊魂を探し求め、気が付けば数千年経ってしまっていたのだ――。
「天帝に力を削がれた後も魔王は暫くは荒れくれていたけれど、ある時、一人の人間の娘に恋をした。──そして君の家の伝承に残る通り、魔王ではなくなった。」
ソレイユの話を、ミアはぽかんと口を開けたまま聞いていた。
視界の端でずっとうんうんと頷いているルフェブレアル王が見えていたが、これは……同じく天帝の血を引き継ぐ王家にも伝わる話という事なのだろうか?──父はと言うと、天を見上げて何かをブツブツと呟いているのが見えた。
「ソレイユは……、その、天帝様の生まれ変わりなの?」
「正確には生まれ変わりとは少し違うかもしれない。でも、始まりの記憶を引継いでいるんだ。」
「それは、ずっと?」
「うん。きっと、ずっと何度も。」
ミアは目を瞬かせた。
いつの間にか瞳の色がいつもの色に戻っていたソレイユは、まだ目を見開いたまま固まっているミアの両手をぎゅっと握りしめた。初めて言葉を交わした時のように嬉しそうに、はにかんだ様に微笑みながら。
「君だと、直ぐに分かったよ。僕の魔力を吸い取ってくれた時、君の瞳が金色に輝くのを見て、やっと見つけたと思った。」
「金色……?」
「うん。魔術を使うと、ミアの瞳の色はその瞬間だけ金色に変わるんだ。……知らなかった?」
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