【完結】ストーカー辞めますね、すみませんでした。伯爵令嬢が全てを思い出した時には出番は終わっていました。

須木 水夏

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第二章

どう?って言われましても

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 一通りの受け入れが終わり、ところ変わってリュシアンが滞在する伯爵家別館の一番大きく豪奢な部屋(主の間)の窓辺にて。
 アリアと帝国の皇太子はソファーに座り、向かい合ってお茶を嗜んでいた。


「アリア嬢は、ここで普段どうやって過ごしているの?」

「…趣味の読書や刺繍をしながら、療養をしております(最近はもっぱらパンを捏ねてます)」

「そうなのか。…学園ではどうやって過ごしていたの?」

「…目立つことも特にない普通の学生でございました…(主にマテオ様のストーカーをしておりました)」

「目立たない?そんな風には見えないけれど。私の目には君は他の誰よりも美しく見えるよ。」

「も、勿体ないお言葉でございます…。」

「あ、そうだ!好きな食べ物や嫌いな食べ物はある?」

「へ?!さ、左様でございますね…好き嫌いはあまりないのですが、甘い物を好んでおりまして…(もっぱら前世の菓子パン作りに精を出しておりまして、最近ではという食品も思い出したので、それも作ってみようかと思っております)」

「甘いものが好きなのか!奇遇だな、私もだよ。」

「ま、まあ、そうなのですね。」


 ウフフアハハ、と微笑みを交わしながら、何故だか学園生活の事や、現在の領地での生活の事、アリアの趣味、興味のあるもの、好きな食べ物や苦手な食べ物を事細かに根掘り葉掘り聞かれた。
 けれど、主の居ない伯爵家の領地で伯爵代理として、それ以前にとして、リュシアンに伝えて良いものか分からないものが多く、アリアの元々細い神経はさらにすり減っていた。非常に気分が落ち着かない。

 大体、あの断罪の日より五ヶ月を過ぎる頃。主人公と目の前に座る皇太子殿下は出会っていなくてはならないのだ、


(…ああ、おなかが痛いです…。殿下は一体私の何をお聞きになりたいのか…。)


 顔に笑みを浮かべていたが、アリアの背中に冷や汗がいくつも滑り落ちてゆくを感じる。
 断罪の続きで、何かリュシアンに対するアリアの罪が発動でもしたんだろうか?
 何もしてない…とも言えない。何てったって彼には涙で汚れたとてつもなく不細工な顔を見せつけてしまっている。


(これは…殿下に汚いものを見せてしまった事への断罪…?第二回断罪大会が始まろうとしているの…?)



「アリア嬢は辺境伯爵令嬢なんだね。」

「えっ?!…え、ええ。左様で、ございます…。」


 突然、自分の立場について話が振られアリアはビクッと身体を揺らした。けれど間違っていないので、戸惑いながら頷いた。

 何を隠そうアリアは隣国とに面した領地を治める辺境伯の娘である。王都の東側に細長くまるで月のような形で、海にも森にも隣国にも隣接した形でリーエル伯爵領は存在している。

 領地の中心街は、比較的西側(王都より)に位置していて、王都にも馬車で一日半ほどで到達できる距離だ。

 しかし、王都で同い年の少女たちには田舎者と差別をされて、その為に友達はほとんど出来なかった。
 けれど、国の反対側の同じく辺境伯令嬢とは親しくなった。あの夜会の日以前より会ってはいないが、時折手紙のやり取りはしている。

 酪農や漁業が盛んな豊かな土地で、隣国や他国との貿易の要として栄えてきた。もちろん、自治領が攻め込まれないように軍備の備えもある。そんな場所に隣国の騎士の軍隊がやってきたのだ。王都よりリーエル伯爵の屋敷へと向かうには街中を通る為、戦か?!とさぞかし騒然となったことだろう。


 
 リュシアン皇太子は、髪色と同じく銀色の瞳を艶やかに煌めかせながら、こちらを見つめている。何だか熱が籠っているように見えるのは気のせいだろうか。その視線に頬に熱が上がるのを感じ、慌ててアリアは視線を逸らした。


(何故見つめられているのでしょう…?ま、また顔になにかついて…?!)

 ハッ、として自分の頬を抑えようとしたアリアに向けて静かな、優しい良い声が部屋の中に響く。


「身分も。君には私の妃になれる地位がある。それで相談なんだが、アリア、私の婚約者になってもらえないだろうか?どう?」

「…はい?」



 どう?と言われましても。

 …一体なんの話しなんですか?



 突然の言葉に、考えることに一瞬集中してしまったアリアはうっかり持っていたティーカップを取り落としそうになり、慌てて立て直そうとして目の前のテーブルに膝をぶつけてしまった。
 打ちどころが良くなかったのか、鈍痛が走る。痛みに耐えながらカップを受け皿へと戻し、アリアは涙目で慌てて頭を下げた。


「…、も、申し訳」

「大丈夫か?!」

 フワリと横から良い香りがして、ギョッとしたアリアがそちらへと顔を向けると、いつの間に移動したのか、真横にリュシアンが座っていた。そしてアリアの頬へとそっと長い指で触れる。


 えっ?えっ?
 いつの間に隣に?


「青アザになってしまうかもしれない。あまり動かさない方がいい。」


 心配気にこちらを覗き込む銀色の瞳に、驚いた表情のアリアが映り込んでいた。そのくらいの近い距離で、恐ろしいほどの美貌の持ち主に見つめられて、再び少女は自分の顔が一気に熱くなるのが分かった。


「あ、えっ、」

「我が君。我がお嬢様がお困りになっておられます。お席にお戻りくださいませ。」


 あまりの近さに言葉を失うアリアだったが、その時カトレアの声が後ろから響き、少女は膝の痛みも忘れて反射的にリュシアンから身体ひとつ分距離を取った。


(…そうでした。後ろにカトレアが控えていたのを忘れておりました…!流石ですっ!気配が無さすぎます…!)


「…カトレア。私がアリア嬢を困らせていると言うのかい?」

「左様でございます、我が君。我がお嬢様は思慮深く慎み深い淑女でございます。そのような女性に対して濫りに近づくのは紳士的ではありません。」

「…なるほど。お前は随分とアリア嬢が気に入ったのだね?」

「我がお嬢様はお優しく優秀でいらっしゃいますので。」

「…カトレアがそういうのであれば、ますます貴女が欲しいな、アリア嬢。」


 既に小説とは関係が無くなった為、本作に出ている登場人物と関わりがある事の方がなのである。リュシアンが今ここに存在をしてるだけでアリアの頭の中は常にパニック状態であった。
 そんな彼女は。


(きっと聞き間違いかなにかですね!そうですね!!きっと!ええ!!)


 一旦現実逃避を図る為、何も聞こえなかったことにした。





 
 それなのに、どうしてなのか。





「……。」

「アリア嬢。元気にしてたかい?」


 翌日、王都よりはるばるやって来た第二の刺客、基のマテオが門前でニコニコ笑っているのを目の当たりにして、アリアは思わず人目も気にせず頬っぺたを引っ張った。





 
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