【完結】ストーカー辞めますね、すみませんでした。伯爵令嬢が全てを思い出した時には出番は終わっていました。

須木 水夏

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第二章

リュシアン様、何をしに?



 三日前、父から手紙が届いた。



『〇月〇日にある御方がそちらを訪ねるので、必ず屋敷にいるように。おそらくお泊まりになられると思うので、いつもお客様を泊めている屋敷の別館の客室は、隅々まで美しく磨きあげるように。不法侵入などされぬように、警備も強化しなさい。最高のおもてなしを。そして、家令含め皆くれぐれも粗相のないように務めなさい。

 追伸。父はやれるだけの事はやりました。後は頑張ってください。』




 追伸の諦め、というか半ばヤケクソに近い気持ちのこもった文に、アリアは不安な気持ちになりながらも何度もそれを読み返した。難しいある御方??父はやれるだけの事はした?


 意味の分からない箇所は幾つかあったが、父が手紙をわざわざ送って来てもてなせと言う程だ。恐らく我が領地にとって有益な方なのだろう。
 そう判断したアリアは、お客様とその使用人が泊まる為の別館に当たる建物を、念入りに磨きあげるようにメイド達に指示を出した。
 そして領地のアピールになるかもしれないと手ずからパンの材料を準備する。泊まりとなるのであれば他の料理の手配も必要かと思いいつもよりも多めに買い込むように料理長にも伝えた。屋敷の騎士達にも当日と翌日は屋敷回りを良く見張るように伝達する。

 もちろん、役目を終えたはずのアリアは迷惑をかけた自負のあるマテオやリュシアンのことなど頭の中に思い浮かべるはずもなく。ただ、誰なのかなあ、粗相しないようにしなくては~と、のんびりと考えて過ごし。

 疑問を抱えたまま父に言われた当日。

 門の前に待っていたアリアの目の前に付けられたのは、隣国の紋章が描かれた煌びやかな馬車だった。 
 そしてその前後に百人はいるであろう鎧を着た騎馬隊の列。その後ろには侍女達を乗せた馬車が続いている。
 彼らのうち手前の十六名の騎士が持つ、金色の棒に隣国の旗が風にはためき…アリアは呆然とそれらを見つめた。






(な、ななな、なん…っ?)



屋敷前に並んだ家令とメイド達は、皆真っ青な顔をして少し俯いたままピクリとも動かない。アリアも誰が出てくるのか既に予想はついていたが、緊張で足元が震えていた。


(なぜ?どうして??)


 そんな疑問だけが頭の中をぐるぐる回る。


 その内、馬車の扉がゆっくりと開かれて、中から現れた青年の美しい銀髪が陽の光に耀う。少女はその光景に現実逃避をしかけ、ふと遠い日に見た母の月の光のような銀髪を思い出した。



「アリア嬢。久しいね。」

「は、はは遥々ようこそ、我が領地までおいで下さいました。帝国の白銀の竜王の御子であられるアレキサンドラト王太子殿下…。」


 声を掛けられはっとなり慌てて頭を伏せた後、少女は心の中で絶叫する。



 あーーーれーーーーーっ?!
 どうしてですかーーーーーっっ?!





 リュシアン皇太子殿下の来訪の目的、というか理由は我が国より隣国への帰国の路、途中の休憩所としての屋敷の利用だった。

 リュシアンの休暇と、騎士や馬の休憩も兼ねて三日間(三日も?!)、その間に、馬小屋の提供、屋敷に殿下、騎士達含めて寝泊まりをする事になる。

 王家御用達の食料や、滞在で使われる諸々の荷物が運び込まれるのをアリアは「あ、別にこちらが買い込まなくても良かったんですね、そりゃそうか王族の方ですもんね」と思いつつ。
 気が遠くなりそうになりながら、精一杯の淑女の笑みを貼り付けて屋敷の中へと案内をした。
 
 その間に鎧を来た騎士たちが、屋敷回りの門へと配置され、屋敷の騎士達が自分はどうしたら良いのかとアリアを必死な目で見つめてきたが、そこは両手で拳を作って一度だけ胸の前で振ると、そっと背中を向けた。

 屋敷内も王家の侍女達が屋敷の中の各所に散らばっていき、メイド達がこちらを同じように不安げに見つめてきたが、それもゆっくりと頷くとそっと視線を外した。

 
 …各自、粗相の無いように上手くやってください、という気持ちを込めて。


 もちろん、領主であるリーエル伯爵は王都にいて不在の為、現在館の主をしているアリアが全てのおもてなしをしなくてはならない。


(父…!それならば何故そうと…!!)


 あの半分ヤケクソな手紙はこれだったかと、今更分かってもどうしようも無い。これ以上、小説の登場人物達に関わりたくなかったから領地にわざわざ引っ越してきたのに…!とアリアは心の中で地団駄を踏む。


 すると、リュシアンがアリアの心を読んだかのように、すまなそうに眉を下げた。


「すまないね。滞在のことをリーエル伯爵に口止めしたのは私なんだ。」

「…口止め、でございますか…?」

「アリア嬢も知ってのとおり、私はデアモルテ帝国の継承権を持つ皇太子だ。」
 
「も、勿論存じております。」

「国への帰路を大々的に発表してしまうと、命を狙われる危険性がある。だから、手紙の内容も最小限にしてもらった。」

「……左様でございましたか…。」



(…騎馬隊百人連れてる時点で帰路バレバレだと思いますが…?
 なんならうちの領地民たち皆に、リーエルの屋敷に隣国の王族が滞在してる事もバレてしまっておりますけど?!)


 そうは思っても、口にはできない。引きつった笑みを浮かべるアリアに、リュシアンは満面の笑みを浮かべたのだった。










  





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