24 / 25
双子の魔女
呪いを貴方に
しおりを挟む「リア…ッ!リア!」
目の前の青年は既に境界線の此方側に居た。どんなに前に進もうとしても、森の中からは二度と出られない。憐れにも、彼は気が狂ったように誰かの名を呼んでいた。可哀想な王子様。クローディアは小さな声でそう呟いたけれど、その声にはちっとも哀れみの音は含まれておらず、寧ろ何処か楽しげだった。悠久の時は、やはり人を何処か狂気に落としてしまうようだ、とシローネは思った。自分も似たようなものだけれど。
元々、彼は死んでしまう直前だったようだ。王子様は、やって来て直ぐに動けなくなった。やがて大樹の幹に寄りかかり、浅く息を繰り返しているのを見て、クローディアは漸く彼に声をかけた。
「御機嫌よう、王子様。此処は貴方の終焉の住処よ。何か思い残したことはない?最期だから何でも叶えてあげるわよ」と。
殆ど目を閉じていたその王子は、金色の長い睫毛を震わせて、据えた目で此方を見た。最期、と言ったのが気に食わなかったのだろうか。それとも終焉の住処?クローディアがそんな事を考えていると、青年は掠れた、しかしはっきりと聞き取れる声でこう言った。
「もし、生まれ変わるなら、彼女の、マリーアンヌの、魂が、愛される事を、願う」と。
あまりにも、予想外の願い事だった。地位は?名誉は?自分の命乞いは?何も与えないつもりであったし、今まで彼の祖先が刈り取った多くの命の代わりに王子の命をこのまま奪うつもりだった。他人の幸せを願う?そんな只人の様な願いを持っているなんて、これは本当に王子なのか、と一瞬不安が心に過った。
「…本当にそう願うの?」
「……」
「本当にそれでいいの?」
返事は無かった。最期の気力を振り絞った願い事が、それ?何それ。
「…もう返事もできないかしら?
それにしても、最期だから特別に聞いてあげようとしているのにつまらない願いね。」
こんな願いごとのために、六百年近くこんな所に居た訳では無い。苛立ちがクローディアの心に満ちてゆく。それはシローネも同じだったようだ。冷たい目で微笑みを浮かべ、彼を見下ろしたシローネは柔らかい声で言った。
「…その願いだけでは確かにつまらないわね。
もしも来世があるならその娘が愛される事を願うだなんて。」
「本当にガッカリだわ。」
「ああ、ちなみにあるわよ来世。貴方の場合は、今から私達が呪をかけるから永遠に続いてしまうかも?でも、そんな綺麗な願い事はちょっとね。」
「ねえ。つまらないわ。」
「願いの副作用の方を工夫するしかないわね。」
「まあ、素敵!そうしましょう!」
クローディアはその提案に心が浮き足立った。シローネが言葉にするなら、それは本当にそうなるだろう。
「来世、その娘は必ず愛されるわ。そして生涯幸せに生きる。但し、貴方と出逢わなければ。どうかしら?」
「いいわね。もう一つどう?二人が出逢えば戦が起こると。」
「まあ、それもいいわ。採用よ。」
目の前の青年は動かない。開いたままの目から、ぽとり、と涙が零れ落ちた。もう息もしていないのかもしれない。けれどまだ耳は生きている筈だ。最期の最期まで、呪を聞かせようと少女達は思った。六百年の間に募った行き場のない怒りと怨みは真っ直ぐ青年へと向いた。
「もう一つ、追加しましょう。
貴方が彼女を思い出すのも駄目。思い出した途端に貴方の鼓動は止まるの。はいやり直し~って。
大丈夫、貴方が願った通り彼女は幸せになるわ。安心して。」
「そうよ。あの子は幸せに生きるわ。
貴方と出逢わなければ。
ごめんなさいね、貴方が悪い訳では無いの。でも私達もやられた分はやり返さねば今世は終わらないから。」
「怨むならどうぞご自身の祖先を怨んでね。」
伝わったのか、本当にこれで良かったのか。分からなかったけれど。
「解けた!」
シローネが嬉しそうに声を上げた。その瞬間、私達は既に森の中から弾き飛ばされたかのように、目の前には大きな海が何処までも広がっていた。
27
あなたにおすすめの小説
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
欲深い聖女のなれの果ては
あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。
その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。
しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。
これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。
※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています
【完結】誕生日に花束を抱えた貴方が私にプレゼントしてくれたのは婚約解消届でした。
山葵
恋愛
誕生日パーティーの会場に現れた婚約者のレオナルド様は、大きな花束を抱えていた。
会場に居る人達は、レオナルド様が皆の前で婚約者であるカトリーヌにプレゼントするのだと思っていた。
お飾りの私と怖そうな隣国の王子様
mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。
だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。
その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。
「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」
そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。
いつかこの日が来るとは思っていた。
思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。
思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる