婚約破棄から始まる4度の人生、今世は隣国の王太子妃!?

緋水晶

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「こちらが当面のアンネローゼ様のお部屋となります。婚儀まではこちらでお過ごしください」
「……ありがとうございます」
婚約破棄騒動からわずか1週間後の今日、私は隣国オークリッドの王城内で自分に宛がわれた部屋に佇み呆然としていた。
なんだこの部屋。
真っ先に抱いた感想がそれだった。
その部屋はまるで大国の国王を滞在させるかのような、一言で言えば豪華絢爛過ぎる部屋だった。
小国のマリシティ国ではまずお目にかかれないような、値段など付けられるのかと思うような国宝級の煌びやかな調度品がいくつも飾られており、なのに品位を損なうことなく部屋全体としてはむしろ控えめで落ち着いた雰囲気を醸し出している。
この部屋を整えた人物のセンスがいいなどというような次元ではない。
一体どれほどの研鑽を積めばこのような内装にできるのか。
流石は大国と言ったところだが、その部屋でこれから自分が過ごすのかと思うと身が竦むというよりも身も凍る思いだ。
この部屋にあるものの何か一つでも損なおうものなら私の身など簡単に吹き飛んでしまう。
どころかもしかしたらその累は実家であるアリンガム侯爵家や下手をしたらマリシティ国全てにまで及ぶかもしれない。
「今からでも部屋変えられないかな……」
恐らく可能だろうが、しかしそれを言い出す勇気はなく私はため息を吐いてソファの端にちょこんと座り、なるべく動かないようにしつつ時折指示を出しながら荷を解いてくれている侍女たちをぼうっと眺めて時間を潰した。
出発が急だったため私の侍女が来るのはひと月後だから話し相手もいない。
目も眩むほどの豪華な客室が落ち着いて見えるのは、もしかしたら心細い私の心情のせいだったのだろうか。

コンコンコンコンッ
ほどなく荷解きも終わり、入れてもらった紅茶をゆっくりと口に含みながらさてどうしようかと考えているとノックの音が響いた。
扉の近くに控えていた侍女がすぐさまドアを開けると、衛兵の影にいる人物を見て「殿下!?」と驚く声が小さく聞こえる。
同時に危うく私の口から茶色い噴水が放たれるところだったが何とか堪えた。
この絨毯に紅茶のシミをつけることにならなくて本当によかった。
けれど状況はよくなっていない。
この国に『殿下』と呼ばれる人物は2人いるが、私のところに訪れる殿下など一人しかいないのだから。
扉の方へ視線を向ければ、案の定そこにはジェラルド殿下が相も変わらず黒一色の装いで立っている。
「到着の出迎えもせず失礼した。何か困りごとはないか?」
「いいえ、皆様大変良くしてくださいました」
侍女に招き入れられこちらに向かってくる殿下に急いで立ち上がって礼を取りつつ言葉を待てば、彼は私を気遣うような言葉をくれた。
しかしそれは外からの客に対する典型的な社交辞令であり、だから私も同じように定型的な言葉を返す。
このやり取りは他国に来た時の儀式のようなものだ。
経験は少ないが今までにも何度かしたことがある。
この後は「では何かあれば遠慮なく侍女に申し付けてくれ」と言って殿下は部屋を後にするのだろう。
私はそれに礼を言い、この短い謁見は終わるはずだ。
なんだ、焦る必要なんかなかったな。
「そうか」
殿下は私の言葉に頷くと、何故か侍女に振り向き、
「彼女に内密に話がある。お前たちは外に出ていろ。ああ、ドアは開けていていい」
と言って手を振り、この部屋にいた3人の侍女全員に部屋の外へ出るよう指示を出す。
「……え?」
ちょ、それは話が違うのでは!?
社交辞令の挨拶に来たんだから、挨拶が終わったら帰ってよ!!?
私は驚いて助けを求めるように侍女たちを見たが、
『承知いたしました』
3人は異口同音に言うと静々と部屋から出て行ってしまった。
……ほぼ初めましての殿下と2人きりでどうしろと?
表面上は何でもない顔で微笑みを浮かべているが、私の頭の中は大荒れだった。

「楽にしてくれ」
「は、はい…」
殿下は私の向かい側にあるソファに座って長い足を組むと私にも座るように促す。
けれど「楽に」という言葉とは裏腹に、私の背は繰り返しを含めた人生で一番伸びていた。
「さて、何から話したものか…」
緊張で冷や汗が止まらない。
うっかりすると目の前で言葉を選んでいる様子の殿下に「悩んでいるのなら話がまとまってから出直してくださいませんかねぇ!?」などという不敬極まりない暴言を吐いてしまいそうだ。
「とは言え取り繕っても仕方ないな」
ぐるぐると目も頭も回り始めたが、ため息を吐いた殿下が改めて私を見る。
どうやら考えがまとまったらしい。
「単刀直入に聞くが、君が婚約破棄されたのは何回目だ?」
しかし問われた内容を私は正しく理解できなかった。
「えっと、初めてですが?」
ファビアン殿下と婚約していたのだから、その最中もそれ以前も別の誰かに婚約破棄をされたことはない。
というか婚約破棄された令嬢が王太子の婚約者になれるわけもないのだから、ファビアン殿下が唯一の婚約者だとわかりそうなものだが。
私がそう考えていると、「ああ、違う」とジェラルド殿下が首を振った。
「言い方を間違えた。私が聞きたかったのは、『君はファビアン殿に何回婚約破棄をされたのか』だ」
そしてそう言い直されたのだが、だからと言って私の答えは変わらない。
「それも初めてです」
今までで一度でも婚約破棄があったのなら、私はもっと早く自由になれただろう。
けれど残念なことにそんな事実はない。
「そんなことはないだろう?」
なのにジェラルド殿下は笑いもせず、かと言って馬鹿にした様子もなく、ただの事実確認のように言う。
「いえ、ですから」
そんなことはないんですって、と私は再度否定しようとしたが、
「少なくとも私は何度も見ているぞ?君がガルディアナの間者だったあの男爵令嬢を伴ったファビアン殿に婚約破棄を告げられる瞬間を」
それを遮って告げられた言葉に、私の思考も息も、もしかしたら心臓さえも止まっていたかもしれなかった。
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