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突撃、推しのお家
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「ここ俺ん家」
希逢が家の鍵を開けて由羽を中へ入れる。
「あ、はあう」
と由羽は恍惚とした表情で声を洩らす。玄関は大理石の床でできている。神殿のように厳かな空気の張り詰める玄関のシンとした雰囲気に遠慮がちに靴を脱ぎ、部屋に上がらせてもらう。
「なに惚けた顔してんの」
部屋の鍵を閉めてずんずんと長い廊下を渡る希逢の後ろにぴたりとくっつきながら、由羽も後を追いかける。
「いや、すごい綺麗なおうちだなあと思って」
「別にそんなたいしたことないけど」
ぽりぽりと希逢が首の後ろをかいている。由羽は「むむ!」とその姿勢を見つめる。これはイケメンがやると言われている「首痛いポーズ」では? 推しの首痛いポーズ見れるのは幸せだなあ。そんなことを考えていると、廊下の左側の部屋に案内される。そこは寝室のようで部屋の中に足を踏み入れると希逢の香水の匂いで包まれていた。希逢にコートを脱がされ、そのままクローゼットにかけてもらう。手荷物を床に置くように言われ部屋の隅に置かせてもらうことにした。
「手、洗いにいくぞ」
希逢の声掛けに従い寝室を後にする。
「うんっ」
由羽はうきうきで廊下を進む。カララ、と希逢が引き戸を開けて洗面所に案内する。
「わ、すご。モダンな感じでおしゃれ……」
独立洗面所は大理石の柄で統一されている。
「まあデザイナーズマンションだから、最初からこういうデザイン」
希逢が手を洗うのを見つつ順番待ちをしていると、不意に手を引かれる。
「う、わ」
「いっしょに洗えば効率良いだろ」
「あ、うん」
希逢に後から抱かれるように手を洗われる。希逢の体温を服越しに感じて身体がぽかぽかと熱を帯びていくのを感じた。希逢は無言で丁寧に手を洗ってくれているので、由羽はそれに甘んじて身を任せることにした。
「鏡見て」
希逢が独立洗面台の正面にある大きな鏡に目線を移す。由羽も続いて目線を倣う。
「ふぇ」
「耳真っ赤」
と希逢に耳元で囁かれる。ぴくん、と由羽の身体が跳ねてしまう。
「っ」
「俺に手洗われるの恥ずかしいの?」
まただ。
希逢の意地悪な視線に目を伏せてコクリと頷く。すると耳の横で、「ふふ」と掠れた笑い声が聞こえた。手のひらを泡と希逢の冷たい体温で占められる。蛇口から出てくるお湯は温かいが希逢の手はやはり冷たい。希逢が故意に由羽の手をにぎにぎとしたり、指先をつまんだりして遊び始める。からかわれているのだということは普段鈍感な由羽でもわかった。
「指ほっそ」
希逢が由羽の華奢な指を掴みながら言う。
「女みたいな手ってよく言われる」
由羽は少しちゃけて言ってみる。
「俺のと比べてみ。ほら、こんなに違う」
由羽の手のひらを開かせ、希逢は自身の手のひらを重ねた。確かに由羽の指のほうが細い。
「たしたし」
「あ。俺の言葉」
以前、通話をしたときに希逢から教えてもらった言葉だ。「たしかに」の意味の希逢語らしい。
「覚えてくれてたの?」
「うん。かわいいから使いたくなっちゃった。あ、嫌だった?」
くく、と希逢が喉の奥で笑う。
「由羽ならいいよー。俺の言葉使っても」
その表情は珍しく穏やかなものに見えた。
希逢が家の鍵を開けて由羽を中へ入れる。
「あ、はあう」
と由羽は恍惚とした表情で声を洩らす。玄関は大理石の床でできている。神殿のように厳かな空気の張り詰める玄関のシンとした雰囲気に遠慮がちに靴を脱ぎ、部屋に上がらせてもらう。
「なに惚けた顔してんの」
部屋の鍵を閉めてずんずんと長い廊下を渡る希逢の後ろにぴたりとくっつきながら、由羽も後を追いかける。
「いや、すごい綺麗なおうちだなあと思って」
「別にそんなたいしたことないけど」
ぽりぽりと希逢が首の後ろをかいている。由羽は「むむ!」とその姿勢を見つめる。これはイケメンがやると言われている「首痛いポーズ」では? 推しの首痛いポーズ見れるのは幸せだなあ。そんなことを考えていると、廊下の左側の部屋に案内される。そこは寝室のようで部屋の中に足を踏み入れると希逢の香水の匂いで包まれていた。希逢にコートを脱がされ、そのままクローゼットにかけてもらう。手荷物を床に置くように言われ部屋の隅に置かせてもらうことにした。
「手、洗いにいくぞ」
希逢の声掛けに従い寝室を後にする。
「うんっ」
由羽はうきうきで廊下を進む。カララ、と希逢が引き戸を開けて洗面所に案内する。
「わ、すご。モダンな感じでおしゃれ……」
独立洗面所は大理石の柄で統一されている。
「まあデザイナーズマンションだから、最初からこういうデザイン」
希逢が手を洗うのを見つつ順番待ちをしていると、不意に手を引かれる。
「う、わ」
「いっしょに洗えば効率良いだろ」
「あ、うん」
希逢に後から抱かれるように手を洗われる。希逢の体温を服越しに感じて身体がぽかぽかと熱を帯びていくのを感じた。希逢は無言で丁寧に手を洗ってくれているので、由羽はそれに甘んじて身を任せることにした。
「鏡見て」
希逢が独立洗面台の正面にある大きな鏡に目線を移す。由羽も続いて目線を倣う。
「ふぇ」
「耳真っ赤」
と希逢に耳元で囁かれる。ぴくん、と由羽の身体が跳ねてしまう。
「っ」
「俺に手洗われるの恥ずかしいの?」
まただ。
希逢の意地悪な視線に目を伏せてコクリと頷く。すると耳の横で、「ふふ」と掠れた笑い声が聞こえた。手のひらを泡と希逢の冷たい体温で占められる。蛇口から出てくるお湯は温かいが希逢の手はやはり冷たい。希逢が故意に由羽の手をにぎにぎとしたり、指先をつまんだりして遊び始める。からかわれているのだということは普段鈍感な由羽でもわかった。
「指ほっそ」
希逢が由羽の華奢な指を掴みながら言う。
「女みたいな手ってよく言われる」
由羽は少しちゃけて言ってみる。
「俺のと比べてみ。ほら、こんなに違う」
由羽の手のひらを開かせ、希逢は自身の手のひらを重ねた。確かに由羽の指のほうが細い。
「たしたし」
「あ。俺の言葉」
以前、通話をしたときに希逢から教えてもらった言葉だ。「たしかに」の意味の希逢語らしい。
「覚えてくれてたの?」
「うん。かわいいから使いたくなっちゃった。あ、嫌だった?」
くく、と希逢が喉の奥で笑う。
「由羽ならいいよー。俺の言葉使っても」
その表情は珍しく穏やかなものに見えた。
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