54 / 92
53 side 真柴
「……ん」
ハーブティーの匂いにまどろみながら、ゆっくりと気だるい体を起こした。
そうか……俺はソファでうたた寝を……。
……あれ、桜は。
ソファから身を起こして辺りを見渡す。
舌にスースーとしたハーブの匂いが香る。
俺、今日そんなに飲んだか……?
いつもと違う舌の違和感に眉をひそめながら、ソファの上で大きく伸びをした。
「……ん?」
耳をすましていると、キッチンで何やら物音がする。
「桜……?」
気になってキッチンへ向かうと見慣れた後ろ姿が目に入る。桜は手慣れた手つきで料理を作っている。
驚かさないようにその姿を静かに眺めた。
こういうのも悪くないな。
俺は仕事に命をかけている。
世の中の仕事人なら皆そうだと言われそうだが、俺の場合はその熱意が異常だった。
一言でいえば頑張りすぎている、そんな状態だった。
コツコツと積み上げてきたキャリアのおかげで今では若手随一のカメラマンとも言われるようになった。
その代わり仕事に忙殺されている。
一番面倒なのが撮影終わりに強制的に飲み会や打ち上げに連れていかれることだ。
俺は早く家に帰って別の仕事を終わらせたいといつも言っているのだが、主催者が芸能関係者というのもあって断れない空気になっている。
もし断ったら二度と撮影の声がかからないかもしれない。
そんなプレッシャーと仕事の忙しさに身体が悲鳴を上げはじめた。数ヶ月前から不眠症になり心療内科を受診したが、睡眠導入剤はあまり効かない体質らしい。強制的に眠れるようにジムで運動をしたり、風呂にゆっくり浸かるようにしているがなかなか眠気がやってこない。
このままでは仕事中に倒れるかもしれない。そんな最悪のコンディションの時に出会ったのが桜だった。
薬でも運動でも風呂でも不眠症に効果が出ないなら、残りの手段は限られている。俺は「添い寝」をしてくれるサービスを探していた。自分の体躯がいいこともあり、女性だと負担が大きくなるだろうと思い男性向けのサービスを選んだ。
特に自分と同じくらい背が高いとプロフィールに書いてあった桜は抱き枕にぴったりの体型だと思った。
実際に添い寝を頼めば、優しい笑顔を浮かべて抱き枕になってくれる。そしてその効果は絶大だった。他のあらゆる手段でも熟睡できなかった自分が、桜に添い寝をしてもらう時だけは熟睡できるようになったのだ。
あの日桜に出会ってから。
俺は少しずつだが、自分の心にゆとりが持てるようになった。
桜が近くにいるだけで、心が浄化されるような気持ちになる。
桜と話をするだけで憂鬱な気分や疲れが吹っ飛ぶ。
桜の存在自体が自分にとっての「癒し」なのだと。
俺はその癒しにすがりついていたいだけだ。自分のそばに置いておきたい。
そんな気持ちを抱いたのはいつぶりだろう。
桜はそんな欲深い俺の気持ちを知らずに、今もこうして「仕事」をしている。
俺はなんてひどい大人なのだろう。
桜が他の客に傷つけられたと聞いた時には怒りに震え、どうして守ることができなかったのかと自分を責めた。
桜を傷つける者は誰でも許さない。
そのことがきっかけで正式に桜を抱き枕兼ハウスキーパーとして雇うことに決めた。
これで桜のことを少しでも守ることができれば……。
これは祈りにも似た思いだ。
桜と過ごす時間が増えていく度に俺は桜のことをもっとそばに置きたいと思ってしまう。
それは桜を物として扱っているのと同然だ。
売り専と何ら変わらない。
俺は「奉仕」されたかった。それと同じくらい、いやそれ以上にこの子に「奉仕」してあげたいと思った。
彼の傷ついた体を心を、俺は抱きしめてやりたい。
ただそれだけなのに、桜はいつも一生懸命だからその姿がいじらしくてただ見つめていたくなる。上手いことも言えない。面白いこともできない。
ほんと子どもの頃から変われてない……。
今の俺をあの人が見たらきっと怒るだろうな。
鳥籠に鳥を閉じ込めるのはやめろと、殴られるだろうな。
物思いにふけっていて、桜が俺の横で困った顔をして見つめているのに気づかなかった。
ハーブティーの匂いにまどろみながら、ゆっくりと気だるい体を起こした。
そうか……俺はソファでうたた寝を……。
……あれ、桜は。
ソファから身を起こして辺りを見渡す。
舌にスースーとしたハーブの匂いが香る。
俺、今日そんなに飲んだか……?
いつもと違う舌の違和感に眉をひそめながら、ソファの上で大きく伸びをした。
「……ん?」
耳をすましていると、キッチンで何やら物音がする。
「桜……?」
気になってキッチンへ向かうと見慣れた後ろ姿が目に入る。桜は手慣れた手つきで料理を作っている。
驚かさないようにその姿を静かに眺めた。
こういうのも悪くないな。
俺は仕事に命をかけている。
世の中の仕事人なら皆そうだと言われそうだが、俺の場合はその熱意が異常だった。
一言でいえば頑張りすぎている、そんな状態だった。
コツコツと積み上げてきたキャリアのおかげで今では若手随一のカメラマンとも言われるようになった。
その代わり仕事に忙殺されている。
一番面倒なのが撮影終わりに強制的に飲み会や打ち上げに連れていかれることだ。
俺は早く家に帰って別の仕事を終わらせたいといつも言っているのだが、主催者が芸能関係者というのもあって断れない空気になっている。
もし断ったら二度と撮影の声がかからないかもしれない。
そんなプレッシャーと仕事の忙しさに身体が悲鳴を上げはじめた。数ヶ月前から不眠症になり心療内科を受診したが、睡眠導入剤はあまり効かない体質らしい。強制的に眠れるようにジムで運動をしたり、風呂にゆっくり浸かるようにしているがなかなか眠気がやってこない。
このままでは仕事中に倒れるかもしれない。そんな最悪のコンディションの時に出会ったのが桜だった。
薬でも運動でも風呂でも不眠症に効果が出ないなら、残りの手段は限られている。俺は「添い寝」をしてくれるサービスを探していた。自分の体躯がいいこともあり、女性だと負担が大きくなるだろうと思い男性向けのサービスを選んだ。
特に自分と同じくらい背が高いとプロフィールに書いてあった桜は抱き枕にぴったりの体型だと思った。
実際に添い寝を頼めば、優しい笑顔を浮かべて抱き枕になってくれる。そしてその効果は絶大だった。他のあらゆる手段でも熟睡できなかった自分が、桜に添い寝をしてもらう時だけは熟睡できるようになったのだ。
あの日桜に出会ってから。
俺は少しずつだが、自分の心にゆとりが持てるようになった。
桜が近くにいるだけで、心が浄化されるような気持ちになる。
桜と話をするだけで憂鬱な気分や疲れが吹っ飛ぶ。
桜の存在自体が自分にとっての「癒し」なのだと。
俺はその癒しにすがりついていたいだけだ。自分のそばに置いておきたい。
そんな気持ちを抱いたのはいつぶりだろう。
桜はそんな欲深い俺の気持ちを知らずに、今もこうして「仕事」をしている。
俺はなんてひどい大人なのだろう。
桜が他の客に傷つけられたと聞いた時には怒りに震え、どうして守ることができなかったのかと自分を責めた。
桜を傷つける者は誰でも許さない。
そのことがきっかけで正式に桜を抱き枕兼ハウスキーパーとして雇うことに決めた。
これで桜のことを少しでも守ることができれば……。
これは祈りにも似た思いだ。
桜と過ごす時間が増えていく度に俺は桜のことをもっとそばに置きたいと思ってしまう。
それは桜を物として扱っているのと同然だ。
売り専と何ら変わらない。
俺は「奉仕」されたかった。それと同じくらい、いやそれ以上にこの子に「奉仕」してあげたいと思った。
彼の傷ついた体を心を、俺は抱きしめてやりたい。
ただそれだけなのに、桜はいつも一生懸命だからその姿がいじらしくてただ見つめていたくなる。上手いことも言えない。面白いこともできない。
ほんと子どもの頃から変われてない……。
今の俺をあの人が見たらきっと怒るだろうな。
鳥籠に鳥を閉じ込めるのはやめろと、殴られるだろうな。
物思いにふけっていて、桜が俺の横で困った顔をして見つめているのに気づかなかった。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件
月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。
翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。
「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」
逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士
貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。