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66 大沼にこき使われてむすっ
「で? モデルって何すんだよ」
桜はベッドの傍に置いてある自分のショルダーバッグからスマホを取り出す。
時刻は15時過ぎ。蕎麦屋を出たのが13時過ぎで14時にマンションについたから1時間近く眠っていたことになる。
帰り支度を進めていると大沼に「おい」と声をかけられ渋々動かしていた手を止めた。
「このまま帰るつもりじゃないだろうな」
「今日からモデルやるのかよ。需要あるじゃん、俺」
ふんっと自慢げに笑うと大沼は鋭い目をして睨みつけてくる。
「あんまり調子乗るなよ。餓鬼が。このまま帰すわけがねえだろ。さっさとシャワー浴びてこい」
「は? 餓鬼じゃないけど。つうか何でシャワー浴びるんだよ」
「お前汗くせえんだよ。シャワーから出たらこれを着てリビングに来い。俺の仕事を始める」
「……わかった」
汗くさいと言われたのは腹が立つ。
そもそも俺に嫌な汗をかかせたのはお前だ。
胸ぐらを掴んだのは大沼だ。
なんで俺がこんなこと、と苛立つ気持ちを抑えきれない。頭を冷やそうと思い浴室へ向かう。シャワーを浴びて汗を流したら意外にも気分がさっぱりとした。
あらかじめ渡されていた白いバスローブに袖を通し、リビングに向かう。わざと一つ一つの動作をゆっくりにして大沼を困らせようと画策する。
あいつの言う通りやってること全部餓鬼だな俺。
大人になりきれない自分に呆れて笑えてくる。
バスローブを羽織った桜は、リビングの黒い革張りのソファにどっしりと腰をかけている大沼に声をかけた。
何を言うでもなくただ桜のことを見つめる。蛇が這うような視線に気分が悪くなる。
静かな口調で桜へ問いかけた。
「お前睦月のことをどれくらい知ってる」
「……カメラマン兼画家」
「そうか」
大沼は電子タバコを吸いながら桜にソファの前にあるローテーブルの上を示す。そこには1枚の絵が銀色の額縁に入れられていた。何かと思って近づいてよく見てみるとそれはヌードと呼ばれる裸の女性の横たわる姿だった。
「これが何?」
「これが睦月の描く絵だ」
「……!」
目を丸くして再度絵を眺める。キャンバスの中の女性は微笑みながらこちらを見つめているように見える。
とすると、真柴さんは裸の女性を前にして絵を描いたのか?
「そりゃ驚くのも無理ねえな。餓鬼にはヌードの良さはわからねえだろう」
「べ、別に! これが画家の仕事なら。それに真柴さんは真面目な人だから変な気を起こす人じゃないだろうし」
「へえ。結構わかったふうな口きくんだな、お前」
電子タバコをふーっと吐き切ると大沼は絶対零度の瞳で桜を見つめる。まるで獣のような目だ。気を抜いたら、食い殺される。
「お前、睦月にどう抱かれた」
「え?」
大沼の放った言葉の意味がわからなかった。顔を顰めて睨むと、くくくっと大沼が意地悪く笑う。
「だから睦月にどうやって抱かれてんのかって聞いてる」
「は? 言っている意味がわからない」
「は? そのまんまの意味だろ」
暫し、無言。桜には大沼が言っていることが真柴のイメージと結びつかない。
「俺はは真柴さんの下で働かせてもらってるだけだ」
「……」
大沼は開いた口が塞がらないというように目を見開いて桜を見た。再び沈黙が流れる。
「……冗談はよせ」
「冗談なんかじゃない。たしかに俺はつい最近まで売り専として働いてた。でも、真柴さんが俺を買ってくれた。だから今、ここにいる」
大沼に伝わるように桜はゆっくりはきはきと言葉を発した。
「……あいつに限ってそれはねえ」
尚も疑い深い様子に次第に腹が立ってくる。
「なんでそう思うんだよ。真柴さんは優しい人だ」
「あ? あいつが優しいだと」
大沼は眉を寄せて桜を睨む。その凄みに桜はカタカタと震え上がりそうになった。ぎゅっとバスローブの裾を握る。
「笑わせんな。あいつは優しいやつなんかじゃねえ」
桜は大沼の言っていることが理解できなかった。桜の脳裏に浮かぶ真柴はいつも微笑んでいた。
優しくて、綺麗な人。
それが桜の持つ真柴への揺るぎないイメージだった。
「お前やっぱ睦月のこと何も知らねえんだな」
桜はぐっと息を詰まらせる。たしかにそう言われてしまえば返す言葉がない。桜はまだ真柴のプライベートを知らない。あの時のキスの理由も。桜を誰かと勘違いしていることも。
真柴が愛おしそうに呼ぶ「おびひと」という謎の人物も。
(俺が見てきた真柴さんは、大沼の言う真柴さんとは違うのか?)
でもどう違うのだろう。桜が黙ったのが気にくわなかったのか、大沼は桜の腕を唐突に掴んだ。
「痛っ」
桜は小さな悲鳴をあげる。大沼はかまわず桜を引っ張りあげると、ソファに落とした。桜はバランスを崩してソファに背中を打つ。
大沼が桜の顔の横に両手を押しつけて、桜は完全に囲われる形になった。
何が起きたのが理解出来ず桜は硬直した。大沼が桜のバスローブに手をかける。相手の眼力で身体がすくんで動けないでいると、するすると紐をほどかれてしまった。間髪入れずにバスローブをはぎとられた桜は、ぎゅっと目を閉じた。
──身体を傷つけられたあの時の記憶が蘇りそうな気がして。
桜はベッドの傍に置いてある自分のショルダーバッグからスマホを取り出す。
時刻は15時過ぎ。蕎麦屋を出たのが13時過ぎで14時にマンションについたから1時間近く眠っていたことになる。
帰り支度を進めていると大沼に「おい」と声をかけられ渋々動かしていた手を止めた。
「このまま帰るつもりじゃないだろうな」
「今日からモデルやるのかよ。需要あるじゃん、俺」
ふんっと自慢げに笑うと大沼は鋭い目をして睨みつけてくる。
「あんまり調子乗るなよ。餓鬼が。このまま帰すわけがねえだろ。さっさとシャワー浴びてこい」
「は? 餓鬼じゃないけど。つうか何でシャワー浴びるんだよ」
「お前汗くせえんだよ。シャワーから出たらこれを着てリビングに来い。俺の仕事を始める」
「……わかった」
汗くさいと言われたのは腹が立つ。
そもそも俺に嫌な汗をかかせたのはお前だ。
胸ぐらを掴んだのは大沼だ。
なんで俺がこんなこと、と苛立つ気持ちを抑えきれない。頭を冷やそうと思い浴室へ向かう。シャワーを浴びて汗を流したら意外にも気分がさっぱりとした。
あらかじめ渡されていた白いバスローブに袖を通し、リビングに向かう。わざと一つ一つの動作をゆっくりにして大沼を困らせようと画策する。
あいつの言う通りやってること全部餓鬼だな俺。
大人になりきれない自分に呆れて笑えてくる。
バスローブを羽織った桜は、リビングの黒い革張りのソファにどっしりと腰をかけている大沼に声をかけた。
何を言うでもなくただ桜のことを見つめる。蛇が這うような視線に気分が悪くなる。
静かな口調で桜へ問いかけた。
「お前睦月のことをどれくらい知ってる」
「……カメラマン兼画家」
「そうか」
大沼は電子タバコを吸いながら桜にソファの前にあるローテーブルの上を示す。そこには1枚の絵が銀色の額縁に入れられていた。何かと思って近づいてよく見てみるとそれはヌードと呼ばれる裸の女性の横たわる姿だった。
「これが何?」
「これが睦月の描く絵だ」
「……!」
目を丸くして再度絵を眺める。キャンバスの中の女性は微笑みながらこちらを見つめているように見える。
とすると、真柴さんは裸の女性を前にして絵を描いたのか?
「そりゃ驚くのも無理ねえな。餓鬼にはヌードの良さはわからねえだろう」
「べ、別に! これが画家の仕事なら。それに真柴さんは真面目な人だから変な気を起こす人じゃないだろうし」
「へえ。結構わかったふうな口きくんだな、お前」
電子タバコをふーっと吐き切ると大沼は絶対零度の瞳で桜を見つめる。まるで獣のような目だ。気を抜いたら、食い殺される。
「お前、睦月にどう抱かれた」
「え?」
大沼の放った言葉の意味がわからなかった。顔を顰めて睨むと、くくくっと大沼が意地悪く笑う。
「だから睦月にどうやって抱かれてんのかって聞いてる」
「は? 言っている意味がわからない」
「は? そのまんまの意味だろ」
暫し、無言。桜には大沼が言っていることが真柴のイメージと結びつかない。
「俺はは真柴さんの下で働かせてもらってるだけだ」
「……」
大沼は開いた口が塞がらないというように目を見開いて桜を見た。再び沈黙が流れる。
「……冗談はよせ」
「冗談なんかじゃない。たしかに俺はつい最近まで売り専として働いてた。でも、真柴さんが俺を買ってくれた。だから今、ここにいる」
大沼に伝わるように桜はゆっくりはきはきと言葉を発した。
「……あいつに限ってそれはねえ」
尚も疑い深い様子に次第に腹が立ってくる。
「なんでそう思うんだよ。真柴さんは優しい人だ」
「あ? あいつが優しいだと」
大沼は眉を寄せて桜を睨む。その凄みに桜はカタカタと震え上がりそうになった。ぎゅっとバスローブの裾を握る。
「笑わせんな。あいつは優しいやつなんかじゃねえ」
桜は大沼の言っていることが理解できなかった。桜の脳裏に浮かぶ真柴はいつも微笑んでいた。
優しくて、綺麗な人。
それが桜の持つ真柴への揺るぎないイメージだった。
「お前やっぱ睦月のこと何も知らねえんだな」
桜はぐっと息を詰まらせる。たしかにそう言われてしまえば返す言葉がない。桜はまだ真柴のプライベートを知らない。あの時のキスの理由も。桜を誰かと勘違いしていることも。
真柴が愛おしそうに呼ぶ「おびひと」という謎の人物も。
(俺が見てきた真柴さんは、大沼の言う真柴さんとは違うのか?)
でもどう違うのだろう。桜が黙ったのが気にくわなかったのか、大沼は桜の腕を唐突に掴んだ。
「痛っ」
桜は小さな悲鳴をあげる。大沼はかまわず桜を引っ張りあげると、ソファに落とした。桜はバランスを崩してソファに背中を打つ。
大沼が桜の顔の横に両手を押しつけて、桜は完全に囲われる形になった。
何が起きたのが理解出来ず桜は硬直した。大沼が桜のバスローブに手をかける。相手の眼力で身体がすくんで動けないでいると、するすると紐をほどかれてしまった。間髪入れずにバスローブをはぎとられた桜は、ぎゅっと目を閉じた。
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