風に還る時には傍に―白き狼の戦士は盲目の主君に身を捧げる―

子犬一 はぁて

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逃亡者たち(2)

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 洞穴は畳5畳ほどの広さがあるようだ。フュンが洞穴の壁をぐるりと手をついて歩いたからわかった。白狼は火を起こすために枯れ木を探しに行った。そのまま何か食べるものも探してきてくれるらしい。至れり尽くせりというか、まるで自分は赤子のように無力でそれがやるせなかった。屋敷の中では目が見えないことに対して負の感情が沸き立つことは少なかった。しかし今、こうして野に放たれると自分は全く何もできず足でまといのように感じてしまう。フュンは膝を抱えて洞穴の中で座り込んでいた。

 ざっざっという足音が聞こえてきて、フュンは少し顔を上げる。

「おう。待たせたな」

「いいや。すまない。わたしは何もできずに……」

「いいんだよ。主君なら主君らしく下僕をこき使えばいいんだよ」

「……それもそうであるな」

 フュンが寂しげに笑ったのを見て、白狼は暫く沈黙する。火打石で火を起こして、枯れ木を被せる。すぐに火が燃え広がり、洞穴が暖かくなる。秋といえども、このような日陰にある洞穴は少し肌寒い。白狼は採ってきた木の実や果実をフュンに渡し、食べるように促す。今晩は肉や魚のない寂しい夕食になってしまったが、仕方ない。日の落ちたときに夜猟をするのは好ましくない。夜目が合わず失敗する可能性が高いからだ。

「ありがとう。おいしいな。この木の実は初めて食べた」

「これは近くの木にいっぱいなってたぞ。明日は食い放題だな」

「それはいい知らせだ。栗のような、さつまいものような……独特の香りと滑らかな舌触りだ」

「俺にはあんまりわかんねえけど、まあ食える味だな」

 むしゃむしゃと白狼が木の実を口に含む。

 食後、お腹の休憩をしつつフュンは地べたに寝転んでいた。このような場所で眠るのは初めてだ。慌てて屋敷から出てきたから、敷物などもない。ごつごつとした岩場ではたして熟睡できるだろうかと不安に感じていると、白狼が肩に手を回してきた。

「そろそろ寝るぞ」

「わっ」

 ふわりとフュンを抱き起こすと、白狼は地べたに寝転ぶ。フュンを腕の中に抱いて、まるで白狼ごと敷物になってしまったようだ。

「お、おい。そなた背中が痛かろう」

「いや、洞穴での生活は慣れてる。むしろお前がこの岩場に背中をやられて不眠になるほうが大問題だ」

「し、しかし……そなたには申し訳ない」

「今更なんだ。お前やっぱり変わってるな。風呂のときはぎゃあぎゃあ王族の身体に何をするとか喚いていたが、今では俺の心配か」

「わ、わたしはそなたにもぐっすり眠ってほしいだけだっ」

「だから大丈夫だって何度言えばわかるんだ。……そうだな。じゃあ少し手を借りるか」

 白狼に手を取られる。そのまま白狼の下半身にフュンの指先が近づけられた。
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