19 / 166
19
しおりを挟む
「今度からは無くすなよ」
「すみません。ありがとうございます」
お辞儀をする岸本を置いて早足でフロアから出て行く。エレベーターを待っている間も時計をちらちらと確認する。小鳥遊は遅刻が許せないタイプの人間だった。エントラスに出ると小走りで外に出る。そのまま走って歯医医院の入っているビルに向かう。そのときはまだ重大な忘れ物をしていることに気づいていなかった。
「保険証と診察券をお願いします」
受付の優しげな女性がそう伝えると、小鳥遊はバックに入れていた診察カードと保険証の入ったカードケースを取り出そうとする。しかし、そのケースはどこにもない。半ば息を切らしてきたせいで額に汗が滲む。
しまった。社に置いてきてしまったか。
受付の女性に謝り1度取りに戻ることにした。幸い次の時間帯の予約がキャンセルで空いたらしく、すぐに診察をしてくれるという。普段はそういった急な予定変更はできないが、今日はたまたま空きがあったようだ。それにほっとして一息ついた。
社に戻るとなぜかまだ明かりがついているのが見えた。人がいる様子はない。さすがにこの時間帯には、ホワイト企業で働き方改革を押し出しているうちの会社の奴は残業などしないはずだが。訝しみながらも時間もないので自分のデスクの上を探す。引き出しを開けて中のファイルの隙間に入っていないか、そして再度自分の鞄の中を探すもどこにも見当たらない。もしやと思って薄い希望を持って岸本のデスクに向かうと、カードケースがデスクスタンドに収まっていた。小鳥遊が外に出た後で岸本が忘れ物に気づき保管しておいてくれたのかもしれない。やはり仕事と同様しっかりしているんだなと感心する。ほっとしてカードケースの中身を確認し、さぁ戻ろうと思ったところで運悪く電話が入る。見れば産婦人科の番号だった。なぜこんなときにと思って無視しようと思ったが、緊急のことかもしれないと思い至り電話に出る。フロアには他の人間の姿はないので、小鳥遊は油断していた。
「すみません。ありがとうございます」
お辞儀をする岸本を置いて早足でフロアから出て行く。エレベーターを待っている間も時計をちらちらと確認する。小鳥遊は遅刻が許せないタイプの人間だった。エントラスに出ると小走りで外に出る。そのまま走って歯医医院の入っているビルに向かう。そのときはまだ重大な忘れ物をしていることに気づいていなかった。
「保険証と診察券をお願いします」
受付の優しげな女性がそう伝えると、小鳥遊はバックに入れていた診察カードと保険証の入ったカードケースを取り出そうとする。しかし、そのケースはどこにもない。半ば息を切らしてきたせいで額に汗が滲む。
しまった。社に置いてきてしまったか。
受付の女性に謝り1度取りに戻ることにした。幸い次の時間帯の予約がキャンセルで空いたらしく、すぐに診察をしてくれるという。普段はそういった急な予定変更はできないが、今日はたまたま空きがあったようだ。それにほっとして一息ついた。
社に戻るとなぜかまだ明かりがついているのが見えた。人がいる様子はない。さすがにこの時間帯には、ホワイト企業で働き方改革を押し出しているうちの会社の奴は残業などしないはずだが。訝しみながらも時間もないので自分のデスクの上を探す。引き出しを開けて中のファイルの隙間に入っていないか、そして再度自分の鞄の中を探すもどこにも見当たらない。もしやと思って薄い希望を持って岸本のデスクに向かうと、カードケースがデスクスタンドに収まっていた。小鳥遊が外に出た後で岸本が忘れ物に気づき保管しておいてくれたのかもしれない。やはり仕事と同様しっかりしているんだなと感心する。ほっとしてカードケースの中身を確認し、さぁ戻ろうと思ったところで運悪く電話が入る。見れば産婦人科の番号だった。なぜこんなときにと思って無視しようと思ったが、緊急のことかもしれないと思い至り電話に出る。フロアには他の人間の姿はないので、小鳥遊は油断していた。
15
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
振り向いてよ、僕のきら星
街田あんぐる
BL
大学4年間拗らせたイケメン攻め×恋愛に自信がない素朴受け
「そんな男やめときなよ」
「……ねえ、僕にしなよ」
そんな言葉を飲み込んで過ごした、大学4年間。
理系で文学好きな早暉(さき)くんは、大学の書評サークルに入会した。そこで、小動物を思わせる笑顔のかわいい衣真(いま)くんと出会う。
距離を縮めていく二人。でも衣真くんはころころ彼氏が変わって、そのたびに恋愛のトラウマを深めていく。
早暉くんはそれでも諦めきれなくて……。
星のように綺麗な男の子に恋をしてからふたりで一緒に生きていくまでの、優しいお話です。
表紙イラストは梅干弁当さん(https://x.com/umeboshibento)に依頼しました。
白銀の城の俺と僕
片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*
落ちこぼれβの恋の諦め方
めろめろす
BL
αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。
努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。
世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。
失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。
しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。
あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?
コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。
小説家になろうにも掲載。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ
小池 月
BL
もし発情期がアルファにくるのなら⁉オメガはアルファの発情を抑えるための存在だったら――?
――貧困国であった砂漠の国アドレアはアルファが誕生するようになり、アルファの功績で豊かな国になった。アドレアに生まれるアルファには獣の発情期があり、番のオメガがいないと発狂する――
☆発情期が来るアルファ貴族×アルファ貴族によってオメガにされた貧困青年☆
二十歳のウルイ・ハンクはアドレアの地方オアシス都市に住む貧困の民。何とか生活をつなぐ日々に、ウルイは疲れ切っていた。
そんなある日、貴族アルファである二十二歳のライ・ドラールがオアシスの視察に来る。
ウルイはライがアルファであると知らずに親しくなる。金持ちそうなのに気さくなライとの時間は、ウルイの心を優しく癒した。徐々に二人の距離が近くなる中、発情促進剤を使われたライは、ウルイを強制的に番のオメガにしてしまう。そして、ライの発情期を共に過ごす。
発情期が明けると、ウルイは自分がオメガになったことを知る。到底受け入れられない現実に混乱するウルイだが、ライの発情期を抑えられるのは自分しかいないため、義務感でライの傍にいることを決めるがーー。
誰もが憧れる貴族アルファの番オメガ。それに選ばれれば、本当に幸せになれるのか??
少し変わったオメガバースファンタジーBLです(*^^*) 第13回BL大賞エントリー作品
ぜひぜひ応援お願いします✨
10月は1日1回8時更新、11月から日に2回更新していきます!!
すれ違い夫夫は発情期にしか素直になれない
和泉臨音
BL
とある事件をきっかけに大好きなユーグリッドと結婚したレオンだったが、番になった日以来、発情期ですらベッドを共にすることはなかった。ユーグリッドに避けられるのは寂しいが不満はなく、これ以上重荷にならないよう、レオンは受けた恩を返すべく日々の仕事に邁進する。一方、レオンに軽蔑され嫌われていると思っているユーグリッドはなるべくレオンの視界に、記憶に残らないようにレオンを避け続けているのだった。
お互いに嫌われていると誤解して、すれ違う番の話。
===================
美形侯爵長男α×平凡平民Ω。本編24話完結。それ以降は番外編です。
オメガバース設定ですが独自設定もあるのでこの世界のオメガバースはそうなんだな、と思っていただければ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる