ビジネスの番なのに運命の番よりも愛してしまったからどうすればいい

子犬一 はぁて

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「今度からは無くすなよ」

「すみません。ありがとうございます」

 お辞儀をする岸本を置いて早足でフロアから出て行く。エレベーターを待っている間も時計をちらちらと確認する。小鳥遊は遅刻が許せないタイプの人間だった。エントラスに出ると小走りで外に出る。そのまま走って歯医医院の入っているビルに向かう。そのときはまだ重大な忘れ物をしていることに気づいていなかった。

「保険証と診察券をお願いします」

 受付の優しげな女性がそう伝えると、小鳥遊はバックに入れていた診察カードと保険証の入ったカードケースを取り出そうとする。しかし、そのケースはどこにもない。半ば息を切らしてきたせいで額に汗が滲む。

 しまった。社に置いてきてしまったか。

 受付の女性に謝り1度取りに戻ることにした。幸い次の時間帯の予約がキャンセルで空いたらしく、すぐに診察をしてくれるという。普段はそういった急な予定変更はできないが、今日はたまたま空きがあったようだ。それにほっとして一息ついた。

 社に戻るとなぜかまだ明かりがついているのが見えた。人がいる様子はない。さすがにこの時間帯には、ホワイト企業で働き方改革を押し出しているうちの会社の奴は残業などしないはずだが。訝しみながらも時間もないので自分のデスクの上を探す。引き出しを開けて中のファイルの隙間に入っていないか、そして再度自分の鞄の中を探すもどこにも見当たらない。もしやと思って薄い希望を持って岸本のデスクに向かうと、カードケースがデスクスタンドに収まっていた。小鳥遊が外に出た後で岸本が忘れ物に気づき保管しておいてくれたのかもしれない。やはり仕事と同様しっかりしているんだなと感心する。ほっとしてカードケースの中身を確認し、さぁ戻ろうと思ったところで運悪く電話が入る。見れば産婦人科の番号だった。なぜこんなときにと思って無視しようと思ったが、緊急のことかもしれないと思い至り電話に出る。フロアには他の人間の姿はないので、小鳥遊は油断していた。
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