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284 与え、与えられ
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港に寄せられた客船は厳かな雰囲気を醸し出している。デッキに登るための階段を相良さんがエスコートしてくれる。僕は岸に打ち寄せる波に揺られながら足元に注意してデッキに出た。空は暗く藍色に染まり始めている。ブウォーという出発を告げる音が鳴り響いて船がゆっくりと動き出した。頬を撫でつける風が涼しくてふう、と深呼吸をする。
「食事の時間までしばらくデッキを散策しようか」
相良さんの提案にこくんと頷いて、僕は自分から相良さんの手を取った。恋人握りにしてみると相良さんは目尻を垂れさせて照れている様子だった。
船の揺れにはだいぶ慣れてきて船酔いもしそうにないことに安堵する。僕らと同じようにデッキを散策する人達がまばらに見えた。デッキの先頭まで向かうと徐々に風が冷えてくる。くしゅんとくしゃみをしていると相良さんが僕の身体を後ろからふわりと抱きしめてくれた。
「少し寒くなってきたね。中に入ろうか」
「はい」
手を繋いだままデッキから客船のロビーへ足を踏み入れる。赤ワイン色の重厚な絨毯が敷き詰めてあり、まるで洋館のような豪華な内装に目を奪われる。きらきらと眩しく反射する硝子のシャンデリア、花瓶にさされたバラや白百合などの花、ホワイトムスクの甘い匂い。目に映るもの全てが真新しくて飽きなかった。ロビーの壁にかけられた世界中の絵画を2人で鑑賞する。相良さんは物知りで、この絵はいつに描かれて何をモチーフにしているのかを詳しく教えてくれた。僕が見て特に印象に残った絵がある。1人の少年が天使の羽を付けたまま地上を旅している絵だ。足元には白い毛のふわふわとした子犬がいて一緒に隣を歩いている。髪の毛がくるくると巻かれた少年は微笑むような視線を鑑賞者に投げかけている。
「この絵は1651年に描かれた『天使の旅』の絵だね。泡沫のように儚い印象の少年に天使の羽を付けることで神聖化している。隣にいる子犬は旅のお供だ。この子犬は博愛の精神を印象づけている。まるで李子そっくり」
「僕にそっくりですか?」
うんうんと頷き返す相良さんの表情は柔らかく目尻にはいつものように笑いじわが浮かぶ。
「僕に博愛の精神を教えてくれたのは李子だから」
「そんな……僕は何もしてないです」
あまりにも真っ直ぐな瞳で言われると僕もたじたじとしてしまう。
「李子は俺に何でも与えてくれる。それも無償の愛でね。俺はときどき不安になるんだ。俺は李子の与えてくれる愛情に十分に応えられているかどうか」
苦笑を浮かべる相良さんの手をとる。僕はその手をそっと自分の頬に添えた。
「相良さんはいつも僕に与えてくれてます。僕よりもあたたかくて大きな愛で応えてくれてます。僕はそんな相良さん……優希さんのことが好きです」
思わず告白してしまった。自覚すると一気に頬に熱が集まり心臓がばくばくと弾む。相良さんの反応が気になって見上げるとつい上目遣いになってしまい、さらに気持ちを焦らせる。
「食事の時間までしばらくデッキを散策しようか」
相良さんの提案にこくんと頷いて、僕は自分から相良さんの手を取った。恋人握りにしてみると相良さんは目尻を垂れさせて照れている様子だった。
船の揺れにはだいぶ慣れてきて船酔いもしそうにないことに安堵する。僕らと同じようにデッキを散策する人達がまばらに見えた。デッキの先頭まで向かうと徐々に風が冷えてくる。くしゅんとくしゃみをしていると相良さんが僕の身体を後ろからふわりと抱きしめてくれた。
「少し寒くなってきたね。中に入ろうか」
「はい」
手を繋いだままデッキから客船のロビーへ足を踏み入れる。赤ワイン色の重厚な絨毯が敷き詰めてあり、まるで洋館のような豪華な内装に目を奪われる。きらきらと眩しく反射する硝子のシャンデリア、花瓶にさされたバラや白百合などの花、ホワイトムスクの甘い匂い。目に映るもの全てが真新しくて飽きなかった。ロビーの壁にかけられた世界中の絵画を2人で鑑賞する。相良さんは物知りで、この絵はいつに描かれて何をモチーフにしているのかを詳しく教えてくれた。僕が見て特に印象に残った絵がある。1人の少年が天使の羽を付けたまま地上を旅している絵だ。足元には白い毛のふわふわとした子犬がいて一緒に隣を歩いている。髪の毛がくるくると巻かれた少年は微笑むような視線を鑑賞者に投げかけている。
「この絵は1651年に描かれた『天使の旅』の絵だね。泡沫のように儚い印象の少年に天使の羽を付けることで神聖化している。隣にいる子犬は旅のお供だ。この子犬は博愛の精神を印象づけている。まるで李子そっくり」
「僕にそっくりですか?」
うんうんと頷き返す相良さんの表情は柔らかく目尻にはいつものように笑いじわが浮かぶ。
「僕に博愛の精神を教えてくれたのは李子だから」
「そんな……僕は何もしてないです」
あまりにも真っ直ぐな瞳で言われると僕もたじたじとしてしまう。
「李子は俺に何でも与えてくれる。それも無償の愛でね。俺はときどき不安になるんだ。俺は李子の与えてくれる愛情に十分に応えられているかどうか」
苦笑を浮かべる相良さんの手をとる。僕はその手をそっと自分の頬に添えた。
「相良さんはいつも僕に与えてくれてます。僕よりもあたたかくて大きな愛で応えてくれてます。僕はそんな相良さん……優希さんのことが好きです」
思わず告白してしまった。自覚すると一気に頬に熱が集まり心臓がばくばくと弾む。相良さんの反応が気になって見上げるとつい上目遣いになってしまい、さらに気持ちを焦らせる。
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