スパダリDomに愛されると天使Subは溶けてしまうよ

子犬一 はぁて

文字の大きさ
283 / 288

284 与え、与えられ

しおりを挟む
 港に寄せられた客船は厳かな雰囲気を醸し出している。デッキに登るための階段を相良さんがエスコートしてくれる。僕は岸に打ち寄せる波に揺られながら足元に注意してデッキに出た。空は暗く藍色に染まり始めている。ブウォーという出発を告げる音が鳴り響いて船がゆっくりと動き出した。頬を撫でつける風が涼しくてふう、と深呼吸をする。

「食事の時間までしばらくデッキを散策しようか」

 相良さんの提案にこくんと頷いて、僕は自分から相良さんの手を取った。恋人握りにしてみると相良さんは目尻を垂れさせて照れている様子だった。

 船の揺れにはだいぶ慣れてきて船酔いもしそうにないことに安堵する。僕らと同じようにデッキを散策する人達がまばらに見えた。デッキの先頭まで向かうと徐々に風が冷えてくる。くしゅんとくしゃみをしていると相良さんが僕の身体を後ろからふわりと抱きしめてくれた。

「少し寒くなってきたね。中に入ろうか」

「はい」

 手を繋いだままデッキから客船のロビーへ足を踏み入れる。赤ワイン色の重厚な絨毯が敷き詰めてあり、まるで洋館のような豪華な内装に目を奪われる。きらきらと眩しく反射する硝子のシャンデリア、花瓶にさされたバラや白百合などの花、ホワイトムスクの甘い匂い。目に映るもの全てが真新しくて飽きなかった。ロビーの壁にかけられた世界中の絵画を2人で鑑賞する。相良さんは物知りで、この絵はいつに描かれて何をモチーフにしているのかを詳しく教えてくれた。僕が見て特に印象に残った絵がある。1人の少年が天使の羽を付けたまま地上を旅している絵だ。足元には白い毛のふわふわとした子犬がいて一緒に隣を歩いている。髪の毛がくるくると巻かれた少年は微笑むような視線を鑑賞者に投げかけている。

「この絵は1651年に描かれた『天使の旅』の絵だね。泡沫のように儚い印象の少年に天使の羽を付けることで神聖化している。隣にいる子犬は旅のお供だ。この子犬は博愛の精神を印象づけている。まるで李子そっくり」

「僕にそっくりですか?」

 うんうんと頷き返す相良さんの表情は柔らかく目尻にはいつものように笑いじわが浮かぶ。

「僕に博愛の精神を教えてくれたのは李子だから」

「そんな……僕は何もしてないです」

 あまりにも真っ直ぐな瞳で言われると僕もたじたじとしてしまう。

「李子は俺に何でも与えてくれる。それも無償の愛でね。俺はときどき不安になるんだ。俺は李子の与えてくれる愛情に十分に応えられているかどうか」

 苦笑を浮かべる相良さんの手をとる。僕はその手をそっと自分の頬に添えた。

「相良さんはいつも僕に与えてくれてます。僕よりもあたたかくて大きな愛で応えてくれてます。僕はそんな相良さん……優希さんのことが好きです」

 思わず告白してしまった。自覚すると一気に頬に熱が集まり心臓がばくばくと弾む。相良さんの反応が気になって見上げるとつい上目遣いになってしまい、さらに気持ちを焦らせる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

欲望のままにコマンドを操る男のせいでタップダンスを踊らされています

おもちDX
BL
「ねぇ椿季、〈タップダンスを踊って見せてほしいなぁ〉」 椿季は今日も彼氏のコマンドに振り回される。彼のことは大好きだけど……今回ばかりは怒ったぞ!しかし家出した椿季に声を掛けてきたのは元彼で……? コマンドはなんでもありのDom/Subユニバース。受け攻め両視点あり。 信(のぶ)×椿季(つばき) 大学生のカップルです。 タイトルから思いついた短編。コメディだけではないはず。

世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。 Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。 抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。 しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。 ※Dom/Subユニバース独自設定有り ※やんわりモブレ有り ※Usual✕Sub ※ダイナミクスの変異あり

愛されSubは尽くしたい

リミル
BL
【Dom/Subユニバース】 玩具メーカーの取締役開発部長Dom(37)×元子役の大学生Sub(20) かつて天才子役として名を馳せていた天使 汐は、収録中にSub drop(サブドロップ)に陥り、生死の境をさまよう。 不安定になっていた汐を救ったのは、スーツ姿の男だった。 素性や名前も知らない。でも、優しく撫でて「いい子」だと言ってくれた記憶は残っている。 父親の紹介で、自身の欲求を満たしてくれるDomを頼るものの、誰も彼も汐をひたすらに甘やかしてくる。こんなにも尽くしたい気持ちがあるのに。 ある夜、通っているサロンで不正にCommand(コマンド)を使われ、心身ともにダメージを負った汐を助けたのは、年上の男だ。 それは偶然にも15年前、瀕死の汐を救った相手──深見 誠吾だった。 運命的な出会いに、「恋人にもパートナーにもなって欲しい」と求めるも、深見にきっぱりと断られてしまい──!? 一筋縄ではいかない17才差の、再会から始まるラブ! Illust » 41x様

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

BL小説家ですが、ライバル視している私小説家に迫られています

二三@冷酷公爵発売中
BL
BL小説家である私は、小説の稼ぎだけでは食っていけないために、パン屋でバイトをしている。そのバイト先に、ライバル視している私小説家、穂積が新人バイトとしてやってきた。本当は私小説家志望である私は、BL小説家であることを隠し、嫉妬を覚えながら穂積と一緒に働く。そんな私の心中も知らず、穂積は私に好きだのタイプだのと、積極的にアプローチしてくる。ある日、私がBL小説家であることが穂積にばれてしまい…? ※タイトルを変更しました。(旧題 BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった)2025.5.21

必要だって言われたい

ちゃがし
BL
<42歳絆され子持ちコピーライター×30歳モテる一途な恋の初心者営業マン> 樽前アタル42歳、子持ち、独身、広告代理店勤務のコピーライター、通称タルさん。 そんなしがない中年オヤジの俺にも、気にかけてくれる誰かというのはいるもので。 ひとまわり年下の後輩営業マン麝香要は、見た目がよく、仕事が出来、モテ盛りなのに、この5年間ずっと、俺のようなおっさんに毎年バレンタインチョコを渡してくれる。 それがこの5年間、ずっと俺の心の支えになっていた。 5年間変わらずに待ち続けてくれたから、今度は俺が少しずつその気持ちに答えていきたいと思う。 樽前 アタル(たるまえ あたる)42歳 広告代理店のコピーライター、通称タルさん。 妻を亡くしてからの10年間、高校生の一人息子、凛太郎とふたりで暮らしてきた。 息子が成人するまでは一番近くで見守りたいと願っているため、社内外の交流はほとんど断っている。 5年間、バレンタインの日にだけアプローチしてくる一回り年下の後輩営業マンが可愛いけれど、今はまだ息子が優先。 春からは息子が大学生となり、家を出ていく予定だ。 だからそれまでは、もうしばらく待っていてほしい。 麝香 要(じゃこう かなめ)30歳 広告代理店の営業マン。 見た目が良く仕事も出来るため、年齢=モテ期みたいな人生を送ってきた。 来るもの拒まず去る者追わずのスタンスなので経験人数は多いけれど、 タルさんに出会うまで、自分から人を好きになったことも、本気の恋もしたことがない。 そんな要が入社以来、ずっと片思いをしているタルさん。 1年間溜めに溜めた勇気を振り絞って、毎年バレンタインの日にだけアプローチをする。 この5年間、毎年食事に誘ってはみるけれど、シングルファザーのタルさんの第一優先は息子の凛太郎で、 要の誘いには1度も乗ってくれたことがない。 今年もダメもとで誘ってみると、なんと返事はOK。 舞い上がってしまってそれ以来、ポーカーフェイスが保てない。

処理中です...