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本編
6 力の代償
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村長がレンジュの為に用意した部屋を社と呼ぶようになった。
レンジュは社に入ってから姿を現すことがなかった。
社には誰も入っていけないとギーラは言い、村から用意された衣類はギーラが運ぶこととなっていた。
ギーラしか彼女の姿を見ていない。
食事も祈りの間食べる食事は一番精通しているからとギーラが材料をもらい自分で作っていた。
何か手伝うことがないかとラーフが声をかけたが必要ないと断られた。まだ信用されていないようだ。
しばらくすればレンジュは顔を出してくるだろう。
ラーフはそう考え、村人が用意した部屋で過ごした。二日経っても彼女は出てくることがなかった。
レンジュが篭っている間は村の人が聖女と御一行に対する礼として用意された酒や肴を頂いて過ごしていた。
若い娘を閨に用意されたことがあったがさすがにこれは断った。とてもそういう気分になれなかった。
「あいつ、何やっているんだ」
ラーフはさすがに待っていられないと思いギーラに詰め寄った。
終わらせてた食事を運んでいる最中だった。
ギーラは社に入ろうとするラーフを止め、社の中に入れるのを拒んだ。
「もう十分休んだだろう」
ラーフは社に籠ることを休憩ととらえていたようだ。それにギーラは呆れてため息をついた。
「この村ひとつの為に使った力を救世神に感謝する時間が必要なんだ。二日では足りない」
ラーフは救世神や聖女の知識など知らない。
確かに村ひとつ救うのはかなりの力を使ったと思う。そういう期間が必要なんだろう。
「じゃあ、どんくら待てばいいんだ?」
「……あと、一日。今まではこの程度の村の救済なら三日の期間で出られたはずだ」
確定でもないあやふやな言葉であった。
「わかった」
そう言いラーフはギーラから器を取り出した。
先ほどレンジュの社から持ち出した食べ終わった後のものだ。
「おい」
「これくらい厨に持って行ってやる。お前、明日まで休めよ」
そう言いラーフはギーラの眼を指差した。
ギーラの眼の下に隈ができていた。それを指摘されギーラはバツの悪そうな表情を浮かべた。
なんか変だな。
これではまるで祈りをささげる聖女とそれに仕える従者ではなく、病人と看病をする人のように見える。
器の重さにラーフは器の蓋を開いた。
全く手につかれていない食事であった。食事はすっかり冷たくなっていた。
「これは何だ!」
「聖女の祈りの間に食すものだ」
「違うだろう。これは病人食だ」
穀類と豆を水で煮ただけの粥であった。どうみても病人食だ。
「聖女様の食事は病人食なのか?」
「世の中、それすら食せない者もいる。祈りの間はそれを食べ貧しい人たちのことを想いながら祈るのだ」
ギーラの説明はどうも引っかかる。まるでその場で適当につけた設定のように、わざとらしかった。
「全く手につけていないな」
「……」
ラーフは食膳を置き、社の中へ入ろうとした。
それにギーラが止めようとするが、ラーフは力づくで中に入った。
そこには褥の中で横たわるレンジュの姿があった。
レンジュの表情は苦悶に満ち、弱弱しかった。
ラーフは思いもしない姿に動揺した。
悪魔の瘴気の中でも気にせず笑顔で過ごせた少女とは思えなかった。
これは祈りをささげる聖女ではない。
ただの病人だ。
ラーフはそっとレンジュの頬に触れた。とても冷たく血の気も感じられなかった。額からは冷たい汗がにじみ出ていた。
弱弱しく動かすレンジュの左手がラーフの手に触れる。その時袖から出た手は黒い斑点がいくつかみえた。
「どういうことだ?」
ラーフはじっとレンジュを見つめた。
「全く……レンジュ様はまだお前には見せられないと中に入れないようにと懇願されたのに」
ギーラはやれやれと呟いた。
彼はいつものことのように湯で温めた布を取り出し、それでレンジュの額や首を拭いた。
「どういうことだ?」
「力の代償だ」
代償……、何の?
「聖女が神の力を使い、おこした奇跡の代償だ」
ギーラの言う奇跡とは先ほどの村中を蝕む黒い靄の水や、中てられ病魔に侵された者たちを浄化し治癒したことだろう。
「レンジュ様の聖女の力は吸収と浄化による治癒。浄化されるものは簡単になくならない。それは全てレンジュ様の身体の中に取り込まれ、レンジュ様の身体の中で浄化されていく。それが今の過程だ」
「浄化って……病気に苦しんでいるだけじゃないか」
「そうだ。瘴気も、不浄もレンジュ様の身体の中で病魔に変換される。それをレンジュ様は自身の浄化の力を使い消していく」
「でも、村に来る前の俺たちの毒気を浄化したときは特に何ともなかったぞ」
小鳥やラーフたちを浄化した時レンジュは顔色ひとつ変えていなかった。
ラーフたちを浄化したあとすぐに疲労感が出ているようであったが。
「それは規模の問題だ。俺たちの瘴気は大したものでもなかった。ほんの少し疲れた程度で済み生活に支障はきたさない。だが、もっと重傷な者や村以上の規模を覆う毒気の場合はこうなってしまう」
「どのくらいかかる?」
「この程度の村の規模なら2、3日で済んでいた」
「もう3日も経っているぞ!」
「わかっている。だが、瘴気の状態によってもっと早く済むこともあるしもっと時間がかかることもある」
ギーラは苛立ったように呟いた。
「ん……」
レンジュはじっと二人を見つめる。
その弱弱しい瞳は焦点が定まっていなく、不安そうにしていた。
レンジュの意識は朦朧とし、周囲の状況を理解できないようであった。
「レンジュ様、安心してください。このギーラがお傍でお仕えします。何の心配もしないでください」
ギーラは優しくそう囁いた。それにレンジュはこくりと頷き眼を閉じた。
「わかっただろう。後は私に任せ出ていけ」
レンジュの看護は自分がすると言うギーラにラーフ拒んだ。
「俺がお前の指示に従う理由はないだろう」
「貴様、レンジュ様が今の自分を見せお前に心配かけるのが辛いという気持ちがわからんか」
「知るか。こいつが勝手に決めたことだろう。それに……」
ラーフは再びギーラの眼を指差した。眼の下の隈である。
「こんな眼した奴一人に任せられないな。今にも倒れそうな程疲れている」
そう言うとギーラはバツの悪そうな表情を浮かべた。
「お前が倒れる方が、レンジュは嫌だろう」
レンジュは社に入ってから姿を現すことがなかった。
社には誰も入っていけないとギーラは言い、村から用意された衣類はギーラが運ぶこととなっていた。
ギーラしか彼女の姿を見ていない。
食事も祈りの間食べる食事は一番精通しているからとギーラが材料をもらい自分で作っていた。
何か手伝うことがないかとラーフが声をかけたが必要ないと断られた。まだ信用されていないようだ。
しばらくすればレンジュは顔を出してくるだろう。
ラーフはそう考え、村人が用意した部屋で過ごした。二日経っても彼女は出てくることがなかった。
レンジュが篭っている間は村の人が聖女と御一行に対する礼として用意された酒や肴を頂いて過ごしていた。
若い娘を閨に用意されたことがあったがさすがにこれは断った。とてもそういう気分になれなかった。
「あいつ、何やっているんだ」
ラーフはさすがに待っていられないと思いギーラに詰め寄った。
終わらせてた食事を運んでいる最中だった。
ギーラは社に入ろうとするラーフを止め、社の中に入れるのを拒んだ。
「もう十分休んだだろう」
ラーフは社に籠ることを休憩ととらえていたようだ。それにギーラは呆れてため息をついた。
「この村ひとつの為に使った力を救世神に感謝する時間が必要なんだ。二日では足りない」
ラーフは救世神や聖女の知識など知らない。
確かに村ひとつ救うのはかなりの力を使ったと思う。そういう期間が必要なんだろう。
「じゃあ、どんくら待てばいいんだ?」
「……あと、一日。今まではこの程度の村の救済なら三日の期間で出られたはずだ」
確定でもないあやふやな言葉であった。
「わかった」
そう言いラーフはギーラから器を取り出した。
先ほどレンジュの社から持ち出した食べ終わった後のものだ。
「おい」
「これくらい厨に持って行ってやる。お前、明日まで休めよ」
そう言いラーフはギーラの眼を指差した。
ギーラの眼の下に隈ができていた。それを指摘されギーラはバツの悪そうな表情を浮かべた。
なんか変だな。
これではまるで祈りをささげる聖女とそれに仕える従者ではなく、病人と看病をする人のように見える。
器の重さにラーフは器の蓋を開いた。
全く手につかれていない食事であった。食事はすっかり冷たくなっていた。
「これは何だ!」
「聖女の祈りの間に食すものだ」
「違うだろう。これは病人食だ」
穀類と豆を水で煮ただけの粥であった。どうみても病人食だ。
「聖女様の食事は病人食なのか?」
「世の中、それすら食せない者もいる。祈りの間はそれを食べ貧しい人たちのことを想いながら祈るのだ」
ギーラの説明はどうも引っかかる。まるでその場で適当につけた設定のように、わざとらしかった。
「全く手につけていないな」
「……」
ラーフは食膳を置き、社の中へ入ろうとした。
それにギーラが止めようとするが、ラーフは力づくで中に入った。
そこには褥の中で横たわるレンジュの姿があった。
レンジュの表情は苦悶に満ち、弱弱しかった。
ラーフは思いもしない姿に動揺した。
悪魔の瘴気の中でも気にせず笑顔で過ごせた少女とは思えなかった。
これは祈りをささげる聖女ではない。
ただの病人だ。
ラーフはそっとレンジュの頬に触れた。とても冷たく血の気も感じられなかった。額からは冷たい汗がにじみ出ていた。
弱弱しく動かすレンジュの左手がラーフの手に触れる。その時袖から出た手は黒い斑点がいくつかみえた。
「どういうことだ?」
ラーフはじっとレンジュを見つめた。
「全く……レンジュ様はまだお前には見せられないと中に入れないようにと懇願されたのに」
ギーラはやれやれと呟いた。
彼はいつものことのように湯で温めた布を取り出し、それでレンジュの額や首を拭いた。
「どういうことだ?」
「力の代償だ」
代償……、何の?
「聖女が神の力を使い、おこした奇跡の代償だ」
ギーラの言う奇跡とは先ほどの村中を蝕む黒い靄の水や、中てられ病魔に侵された者たちを浄化し治癒したことだろう。
「レンジュ様の聖女の力は吸収と浄化による治癒。浄化されるものは簡単になくならない。それは全てレンジュ様の身体の中に取り込まれ、レンジュ様の身体の中で浄化されていく。それが今の過程だ」
「浄化って……病気に苦しんでいるだけじゃないか」
「そうだ。瘴気も、不浄もレンジュ様の身体の中で病魔に変換される。それをレンジュ様は自身の浄化の力を使い消していく」
「でも、村に来る前の俺たちの毒気を浄化したときは特に何ともなかったぞ」
小鳥やラーフたちを浄化した時レンジュは顔色ひとつ変えていなかった。
ラーフたちを浄化したあとすぐに疲労感が出ているようであったが。
「それは規模の問題だ。俺たちの瘴気は大したものでもなかった。ほんの少し疲れた程度で済み生活に支障はきたさない。だが、もっと重傷な者や村以上の規模を覆う毒気の場合はこうなってしまう」
「どのくらいかかる?」
「この程度の村の規模なら2、3日で済んでいた」
「もう3日も経っているぞ!」
「わかっている。だが、瘴気の状態によってもっと早く済むこともあるしもっと時間がかかることもある」
ギーラは苛立ったように呟いた。
「ん……」
レンジュはじっと二人を見つめる。
その弱弱しい瞳は焦点が定まっていなく、不安そうにしていた。
レンジュの意識は朦朧とし、周囲の状況を理解できないようであった。
「レンジュ様、安心してください。このギーラがお傍でお仕えします。何の心配もしないでください」
ギーラは優しくそう囁いた。それにレンジュはこくりと頷き眼を閉じた。
「わかっただろう。後は私に任せ出ていけ」
レンジュの看護は自分がすると言うギーラにラーフ拒んだ。
「俺がお前の指示に従う理由はないだろう」
「貴様、レンジュ様が今の自分を見せお前に心配かけるのが辛いという気持ちがわからんか」
「知るか。こいつが勝手に決めたことだろう。それに……」
ラーフは再びギーラの眼を指差した。眼の下の隈である。
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