【完結】悪役令嬢はわたしの大事なともだちだった

ariya

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 今日から?

 首を傾げる間もなく、セーラは私へのレクチャーをはじめた。
 はじめは私の今までの姿勢、動作について。

 基礎的なものがほとんどであるが、それすらできていない状況だと私は愕然とした。
 セーラのお手本をみるまで。

 セーラは歩き方、挨拶、座る時とまるで華がある。
 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
 まさにそんなフレーズに相応しいものであった。
 セーラが花であれば、私はそのあたりにある雑草である。
 こんな状態で悪役令嬢に立ち向かうヒロインなど烏滸がましい。

「歩く練習をしましょう」

 アンナに持ってきてもらった本を私の頭の上へと乗せる。
 その状態で何度も歩かされた。
 すぐに本を落としてしまうが、セーラは3回程繰り返したところで声をかけてきた。

「そうね、まずは立った姿勢から始めるべきだったわ。少し維持してみましょう」

 時計の針を確認しながら私の立つ姿勢について授業をはじめた。

「まだ硬い印象だけど、直によくなっていくわ」
「マナーについて軽くみていました」
「ご家庭で色々あったのでしょう。少しずつできるようになっていきましょう」
「うぅん、違うの」

 記憶にあるマリーの幼少時代。
 母親が家にいないからと好きに庭を駆け巡ったり好きに過ごしていた。
 勉強やマナーについて言われても、「お母さまは私を放っておいているくせに」と軽口を叩いていた。

 マリー。
 あなたはこんな状態でどうしてアントワーヌ王子に見初められていたの。
 本を読んでは王子ではなくてもいつかは素敵な殿方と結ばれるのを夢見ていた。
 幼いころは子供だからこそ許された。
 だが、今は社交デビューを目前としている基本もできていない野暮ったい娘である。

 自分の呆れた過去を口にして、セーラから何と言われるか。
 この学園に相応しい生徒ではないと言われても仕方ない。

「なら、今からでも頑張りましょう」
「あきれていないの?」
「私も勉強はあまり好きじゃないの。そうね。少し違っていたらあなたと同じだったと思うわ」

 そんなはずはない。
 でも何でだろう。
 不思議とセーラの言葉は私の中へとしみこんでくる。
 嫌な感じはしなかった。

 アンナがお菓子とお茶を持ってきた。
 公爵家のシェフが作ったお菓子でとても美味しかった。
 少しばかり心がほぐれていき、目を輝かせる。
 それをみてセーラはほほ笑んだ。

「お口にあって良かったわ。もしよければまた明日も一緒に頑張りましょう」

 こうして私はセーラの部屋へと毎日通う日々となった。

「まぁ、あの男爵家令嬢が……」
「一体何が気に入ったのでしょう」
「公爵家のきまぐれでしょう。お気の毒に」

 影口が叩かれるようになった。
 小説ではヒロインの話では王子と親しくなって、影口を叩かれ、いじめられる。
 幸いいじめは起きることはなかった。
 それだけでもだいぶましに思える。
 毎日、セーラの部屋を訪れると今の影口など些細なことのように思えた。
 少しずつ自分の所作が変わっていくのを感じられる。

 クラスの学生からも声をかけられるようになり、少しずつ会話を楽しめるようになった。
 話の内容は古典の話が多い。
 時々今様の小説も混じっていて、楽しく感じられた。
 以前まで古典などかったるい、何故そんな古臭いものなんかと同級生たちをババ臭く感じていた。
 それがマリーの、いいえ私のよくないところだった。
 古典もセーラの解説でだいぶ内容を理解できるようになり、今は自分から読むようになっている。
 まだ難しいフレーズがあったがそれはセーラの部屋にて会話の一部となっていた。
 セーラはとても教え方がうまかった。
 まるでけいちゃんのようだ。

「? どうなさったの」
「い、いえ。昔の友人を思い出して」

 けいちゃん。
 この世界に転生する前は一緒に登校していた。
 車の衝突に遭い、大惨事で。
 そういえば、けいちゃんはどうしたのだろう。

 そう思うと青ざめた。ぶるぶると震える。
 心配そうにのぞき込むセーラに私は苦笑いした。

「私の友達……死んだかもしれない。今の今まで忘れていて。酷いですね」

 自分のことで頭いっぱいだった。
 けいちゃんもあの事故に巻き込まれたとは考えていなかった。

 そっと肩を寄せられる。セーラが私を抱きしめてくれた。

「私にも大事な友人がいました。私の目の前で死んでしまって、辛いことです。辛いから思い出せなかったのでしょう」
「薄情な人間よ」
「なら、これからは覚えてさしあげて……辛いことだけど」

 私はこくりと頷いた。
 この日のお菓子はしょっぱく感じられた。
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