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少しずつ時間は経っていき、パーティーの日が近づいてきた。
学園の1年に一度の大きなイベントである。
生徒の家族も参加するため、貴族の社交の場となっていた。
学園のほとんどの子女たちはここで社交界デビューを果たす。
これが学園はじまってからのひとつのトレンドだ。
「マリーさんはドレスはどうなさいますの?」
「母のドレスを着る予定です。今風にお直ししてくださってるの」
ちょっと貧乏くさいかなと尋ねるとセーラはほほ笑み首を横にした。
「グレイル夫人は社交界で人気の淑女でした。彼女のドレスはその時の流行となったものです。そのドレスであれば生地も良いものでしょう。デザインは今でも問題ないと思いますが、直されるというのでどのようになるか楽しみですわ」
随分と詳しいなぁと思うと、セーラは頬を朱に染めてこほんと咳払いした。
「実は私の憧れの方なの」
「そうだったのですか。母が聞いたら喜びます」
セーラから色々と話を聞いてみると自分の知らない母の姿があった。
社交界の華と呼ばれた母、だからこそ色んな家から家庭教師のオファーがきていたのか。
父を失い、財もなく、母としてはたいそう助かったと言っていたのを思い出した。
そのおかげで自分は今日まで衣食住に困らずにすんでいた。
もしかすると今頃は修道院でつつましく生活していたかもしれない。
幼い頃に放ったらかしにされたと腐っていたのが情けない。
「そういえば、セーラ様はどなたかのエスコートを受けますか?」
やはりアントワーヌ王子ではないか。あの小説でもそうだったし。
確かヒロインになびかなかったアントワーヌ王子は、セーラにエスコートを申し入れる。そこから正式な婚約となり、悪役令嬢は良き王妃となりハッピーエンドを迎えたはず。
ヒロインの私が、アントワーヌ王子にアプローチかけていなかったから最も婚約者に相応しいセーラが選ばれるはず。
「? 兄にしてもらいますわ」
あれ、おかしい。
「アントワーヌ王子は?」
思わず口にしてしまう。
「どうして」
「えって……セーラ様は王子の婚約者と」
まぁとセーラは笑った。
「婚約者はまだ決定されていないわ。私以外にも候補者がいるし、私が選ばれるとは限らないわ」
「でも、この国で公爵家の令嬢で、王族の血が流れていて」
「それは私たちがどうこう決めることではないわ。まずはマリー、社交デビューを無事に果たさなきゃ」
そういわれ私ははっと思い出す。
そうだ。社交デビューをきちんとしなければ、自分は何と思われるだろう。
セーラが親身に教えてくれたというのに全く様になっていないではないか。
セーラのサロンに相応しくないと言われる。
「が、がんばらないと」
「大丈夫よ。今のあなたなら無事にデビューを果たせるわ。ダンスだって上手だし」
作法はからっきしであったが何故かダンスは上達が早かった。
そう言われて私は照れる。
前世にある映画をみて社交ダンスに興味をもってしばらく動画をみながら練習していた時期があった。
母親も私が外に出るのならと社交ダンス教室へと通わせてくれた。
1週間に1回だけだったけど。
「エスコートはどなたがしてくれるの?」
「あ、私は特に……」
学園内の社交パーティーであるためかエスコートを受けない女子も珍しくない。その予定であると伝えると、セーラは折角なんだからともう一人の兄を紹介してくれることとなった。
セーラの兄であり、性格のよさそうな人だ。
こういうが小説では、セーラが傷つけられたとめちゃくちゃ怒っていたキャラクターであった。悪役令嬢が追放された後、ヒロインに報復しようと襲い掛かってくる。髪を切られ修道院へと放り込まれそうになったところアントワーヌ王子に救われる。
今のマリーはセーラに対して無害のはずだから、そんな展開はないとわかっている。それでも挨拶するときは緊張してしまった。
こうして順調に私は社交界デビューを果たすこととなった。
学園内のホール。
その中に全学生たちが集い、優雅な音楽と共に会話を弾ませている。
もう少しするとダンスの時間になる。
それまで私はセーラに教わったことをひとつひとつ確認していた。
「そんなに緊張しなくても楽しめばいいよ」
エスコートをしてくれるのはセーラの2番目の兄・ジルベールであった。
「だって、もし失敗したらセーラ様に恥をかかせて」
「大丈夫だよ。セーラも君には楽しんでもらいたいって思っている」
向こうで挨拶にくる生徒たちの親御さん、おそらく交流ある貴族にそつなく挨拶をするセーラをみる。
「君には感謝しているんだよ」
「え」
突然のジルベールの言葉に私は首を傾げる。
「去年までセーラはとてもふさぎ込みやすい性質だった。人前では公爵令嬢として毅然としていたが、部屋に入ると毎日のようにすすり泣く」
「そんなセーラ様……想像できません」
「何があったのと聞いても、教えてくれないんだ。時々夢にうなされていて……何だろう、変わった名前を呼んでいたな。何かの動物か、隠れて飼っていたのが逃げたのではと思ったけどセーラは違うとだけしか言わず教えてくれなかった」
ここで聞いていい内容なのか私は少し困惑してしまった。
「学園に入学してから急にそれがなくなったように思う。前向きになったようで聞けば君に色々教えるのが楽しいって……」
「知りませんでした」
「これからもうちの妹と友人であってくれよ」
「そんな……私には恐れ多いです」
男爵家と公爵家では随分と地位が異なる。
「アントワーヌ王子の登場!」
その声にわっと視線が扉の方へと集中する。
見目麗しい王子の登場である。女子たちはとろんとした目で見つめていた。
アントワーヌは誰かのエスコートをしていない。
きっとダンスはセーラに申し込むのだろう。
セーラが王妃になれば、私はどうするだろう。
アントワーヌ王子は素敵な王子、だけど理想はあくまで理想。
自分が彼の隣に相応しいとは思えない。
ただセーラの幸福を願い、許されるのであれば今まで通り彼女のサロンで一緒にお茶をしたい。
よき友人でいたい。
そう思っているとアントワーヌ王子がこちらへと近づいてきた。
「マリー・グレイル。どうか私と一曲踊ってくれないかい?」
思いもしない場面。
一面しんと鎮まる。
学園の1年に一度の大きなイベントである。
生徒の家族も参加するため、貴族の社交の場となっていた。
学園のほとんどの子女たちはここで社交界デビューを果たす。
これが学園はじまってからのひとつのトレンドだ。
「マリーさんはドレスはどうなさいますの?」
「母のドレスを着る予定です。今風にお直ししてくださってるの」
ちょっと貧乏くさいかなと尋ねるとセーラはほほ笑み首を横にした。
「グレイル夫人は社交界で人気の淑女でした。彼女のドレスはその時の流行となったものです。そのドレスであれば生地も良いものでしょう。デザインは今でも問題ないと思いますが、直されるというのでどのようになるか楽しみですわ」
随分と詳しいなぁと思うと、セーラは頬を朱に染めてこほんと咳払いした。
「実は私の憧れの方なの」
「そうだったのですか。母が聞いたら喜びます」
セーラから色々と話を聞いてみると自分の知らない母の姿があった。
社交界の華と呼ばれた母、だからこそ色んな家から家庭教師のオファーがきていたのか。
父を失い、財もなく、母としてはたいそう助かったと言っていたのを思い出した。
そのおかげで自分は今日まで衣食住に困らずにすんでいた。
もしかすると今頃は修道院でつつましく生活していたかもしれない。
幼い頃に放ったらかしにされたと腐っていたのが情けない。
「そういえば、セーラ様はどなたかのエスコートを受けますか?」
やはりアントワーヌ王子ではないか。あの小説でもそうだったし。
確かヒロインになびかなかったアントワーヌ王子は、セーラにエスコートを申し入れる。そこから正式な婚約となり、悪役令嬢は良き王妃となりハッピーエンドを迎えたはず。
ヒロインの私が、アントワーヌ王子にアプローチかけていなかったから最も婚約者に相応しいセーラが選ばれるはず。
「? 兄にしてもらいますわ」
あれ、おかしい。
「アントワーヌ王子は?」
思わず口にしてしまう。
「どうして」
「えって……セーラ様は王子の婚約者と」
まぁとセーラは笑った。
「婚約者はまだ決定されていないわ。私以外にも候補者がいるし、私が選ばれるとは限らないわ」
「でも、この国で公爵家の令嬢で、王族の血が流れていて」
「それは私たちがどうこう決めることではないわ。まずはマリー、社交デビューを無事に果たさなきゃ」
そういわれ私ははっと思い出す。
そうだ。社交デビューをきちんとしなければ、自分は何と思われるだろう。
セーラが親身に教えてくれたというのに全く様になっていないではないか。
セーラのサロンに相応しくないと言われる。
「が、がんばらないと」
「大丈夫よ。今のあなたなら無事にデビューを果たせるわ。ダンスだって上手だし」
作法はからっきしであったが何故かダンスは上達が早かった。
そう言われて私は照れる。
前世にある映画をみて社交ダンスに興味をもってしばらく動画をみながら練習していた時期があった。
母親も私が外に出るのならと社交ダンス教室へと通わせてくれた。
1週間に1回だけだったけど。
「エスコートはどなたがしてくれるの?」
「あ、私は特に……」
学園内の社交パーティーであるためかエスコートを受けない女子も珍しくない。その予定であると伝えると、セーラは折角なんだからともう一人の兄を紹介してくれることとなった。
セーラの兄であり、性格のよさそうな人だ。
こういうが小説では、セーラが傷つけられたとめちゃくちゃ怒っていたキャラクターであった。悪役令嬢が追放された後、ヒロインに報復しようと襲い掛かってくる。髪を切られ修道院へと放り込まれそうになったところアントワーヌ王子に救われる。
今のマリーはセーラに対して無害のはずだから、そんな展開はないとわかっている。それでも挨拶するときは緊張してしまった。
こうして順調に私は社交界デビューを果たすこととなった。
学園内のホール。
その中に全学生たちが集い、優雅な音楽と共に会話を弾ませている。
もう少しするとダンスの時間になる。
それまで私はセーラに教わったことをひとつひとつ確認していた。
「そんなに緊張しなくても楽しめばいいよ」
エスコートをしてくれるのはセーラの2番目の兄・ジルベールであった。
「だって、もし失敗したらセーラ様に恥をかかせて」
「大丈夫だよ。セーラも君には楽しんでもらいたいって思っている」
向こうで挨拶にくる生徒たちの親御さん、おそらく交流ある貴族にそつなく挨拶をするセーラをみる。
「君には感謝しているんだよ」
「え」
突然のジルベールの言葉に私は首を傾げる。
「去年までセーラはとてもふさぎ込みやすい性質だった。人前では公爵令嬢として毅然としていたが、部屋に入ると毎日のようにすすり泣く」
「そんなセーラ様……想像できません」
「何があったのと聞いても、教えてくれないんだ。時々夢にうなされていて……何だろう、変わった名前を呼んでいたな。何かの動物か、隠れて飼っていたのが逃げたのではと思ったけどセーラは違うとだけしか言わず教えてくれなかった」
ここで聞いていい内容なのか私は少し困惑してしまった。
「学園に入学してから急にそれがなくなったように思う。前向きになったようで聞けば君に色々教えるのが楽しいって……」
「知りませんでした」
「これからもうちの妹と友人であってくれよ」
「そんな……私には恐れ多いです」
男爵家と公爵家では随分と地位が異なる。
「アントワーヌ王子の登場!」
その声にわっと視線が扉の方へと集中する。
見目麗しい王子の登場である。女子たちはとろんとした目で見つめていた。
アントワーヌは誰かのエスコートをしていない。
きっとダンスはセーラに申し込むのだろう。
セーラが王妃になれば、私はどうするだろう。
アントワーヌ王子は素敵な王子、だけど理想はあくまで理想。
自分が彼の隣に相応しいとは思えない。
ただセーラの幸福を願い、許されるのであれば今まで通り彼女のサロンで一緒にお茶をしたい。
よき友人でいたい。
そう思っているとアントワーヌ王子がこちらへと近づいてきた。
「マリー・グレイル。どうか私と一曲踊ってくれないかい?」
思いもしない場面。
一面しんと鎮まる。
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