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12 昔のたくらみ
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宮中では鈴姫の入内の話で持ち切りであった。その間、夏基の不在など気にも遂げないようであった。
(まぁ、ちょうどよかったのかな)
彼方はそう感じていた。夏基の白川殿を連れ宇治の風早中納言の墓参りへ行くという提案をはじめ聞いた時驚いた。まさか想い人のかつての恋人の墓参りについていくとは。
とはいえ、誰も夏基がどこへ行ったかなどよりは鈴姫の入内がどのようにあるかの方が興味あるようである。今まで入内してきた姫はどれも東雲内大臣の権威を脅かせるほどの者ではなかった。それどころかどの姫も生家は東雲内大臣家に与している。鈴姫の入内、親王が生まれれば東雲内大臣の権力は確実なものになろう。
(夏基はどんな気持ちなんだろうか。手を出そうとしていた姫が入内するなんて)
しかも、鈴姫は夏基の恋文をみてすぐに父に売り渡したのである。今までどの女も靡いてしまった夏基の文をである。それだけ鈴姫の妃入内の気持ちは強かったのだろう。
「あ、風早の君」
向かいに立っている男に気づき彼方はあいさつした。風早の君はじっと彼方を見つめていた。自分は何かやったのだろうか。彼方は内心どきどきした。
「少し話をしてもいいかな」
そういい風早の君は彼方を連れ庭の方へ出た。ここでなら人の話は聞かれずに済むだろう。
「あの……」
「夏基殿は白川殿とうまくやっているか?」
突然の質問に彼方はどう答えていいか悩んだ。
「え、と……」
「どうなんだ?」
ずいと顔を近づけ風早の君は強く問い質した。彼方は思わず正直に話してしまう。
「たぶんうまくいっているのでは? 二人で旅行に行っているみたいですし」
それを聞き風早の君は顔を離した。
「そうか。よかった」
それを聞き彼方はあれっと首を傾げた。
「あの、風早の君は白川殿を快く思っていないのでは」
「ああ……、世間はそうみているな。あれも不憫な姫だ」
その言葉にますます首を傾げてしまう。これ以上は聞いてはいけないような気がする。彼方は急用を思い出したといいその場を去ろうと考えたが、その前に風早の君は話し出した。
「あれは仕組まれたことなんだよ。本当は私が白川殿と恋仲になる予定だった」
予定という単語に彼方はますます嫌な気分になった。
「先の太政大臣と東雲内大臣の台頭を快く思わない派閥がいる。その者らは白川殿が当時の東宮……今の帝に入内する計画を知り何とか阻止しようと企てていた」
そしてその内容が白川殿の醜聞により入内の計画を頓挫させるというものだった。その恋人役にあてがわれたのが風早の君であった。風早の君はこの計画に悩んだ。まだ元服して間もないし色恋もそこまで達者でなかったし、何より姫を騙すようで悪い気分であった。とはえ、立案者は父子ともにとっての恩人であり栄えない。
風早の君は父に相談し、父はその姫がどのような娘かを見てみようと提案した。丁度白川殿は母を失って間もなく弔いの為に山寺に籠っているという。一緒に行こうとしたが、風早の君は熱病で寝込んでしまい父だけが行くこととなった。
どんな姫であったかと問うと風早中納言はこう答えた。
寂しそうな表情をする姫であった。
そうして白川邸で開かれる宴で父は姫と逢引し文を交わす間柄となっていた。本来は風早の君がそれをすべきことだったのだが、父はその文の交流を楽しんでいた。はじめはあのように幼い姫を騙すのは私の心が傷つくと察した父があえて自分で名乗り出たのだろう。
しかし、白川殿が純粋に慕ってくるのに父は次第に心を傾けるようになったようである。
計画は異なるものに変わったが、親子の年の差の恋は白川殿の名誉を傷つけるのに十分な話であった。
そして入内に乗り出そうとしたところで父と白川殿の醜聞が吹聴された。その間に受けた白川殿への扱いは辛いものであっただろう。
「父が彼女のもとへ通えれば少しは彼女も安心したと思う」
しかし、運が悪いことに父は病に倒れ回復する兆しもみられなかった。
父もこれは誤算だったようである。仮に白川殿が尼寺に追いやられようとされれば掻っ攫いともに隠居生活をして過ごそうと計画していたようである。父はたいそう悔しそうにしそのまま息を引き取ってしまった。
「ここで父に期待を持って若い時代を過ごさせるのは不憫と思っていた。白川殿の醜聞の後では寄り付く男もいないことだし」
そこで現れたのが夏基であった。
「はじめはあのような軽薄な男と思っていたが、まさか今まで出会った女性にけじめをつけるとは思わなかった」
そこから見直し、果たして白川殿が彼とうまくやれているのか気になっていたがなかなか声をかける機会がなかった。
「いやー、よかったよかった」
「あの……何でそれを私にするのでしょう」
聞きたくなかった上のたくらみに彼方は嫌な気分になった。風早の君はぽんと彼方の肩をたたいた。
「共に東雲内大臣に嫌われている者同士仲良くしようではないか」
今までにない程の良い笑顔であった。それに「俺関係ありませんっ」と彼方は首を横にぶんぶん振っていた。
(まぁ、ちょうどよかったのかな)
彼方はそう感じていた。夏基の白川殿を連れ宇治の風早中納言の墓参りへ行くという提案をはじめ聞いた時驚いた。まさか想い人のかつての恋人の墓参りについていくとは。
とはいえ、誰も夏基がどこへ行ったかなどよりは鈴姫の入内がどのようにあるかの方が興味あるようである。今まで入内してきた姫はどれも東雲内大臣の権威を脅かせるほどの者ではなかった。それどころかどの姫も生家は東雲内大臣家に与している。鈴姫の入内、親王が生まれれば東雲内大臣の権力は確実なものになろう。
(夏基はどんな気持ちなんだろうか。手を出そうとしていた姫が入内するなんて)
しかも、鈴姫は夏基の恋文をみてすぐに父に売り渡したのである。今までどの女も靡いてしまった夏基の文をである。それだけ鈴姫の妃入内の気持ちは強かったのだろう。
「あ、風早の君」
向かいに立っている男に気づき彼方はあいさつした。風早の君はじっと彼方を見つめていた。自分は何かやったのだろうか。彼方は内心どきどきした。
「少し話をしてもいいかな」
そういい風早の君は彼方を連れ庭の方へ出た。ここでなら人の話は聞かれずに済むだろう。
「あの……」
「夏基殿は白川殿とうまくやっているか?」
突然の質問に彼方はどう答えていいか悩んだ。
「え、と……」
「どうなんだ?」
ずいと顔を近づけ風早の君は強く問い質した。彼方は思わず正直に話してしまう。
「たぶんうまくいっているのでは? 二人で旅行に行っているみたいですし」
それを聞き風早の君は顔を離した。
「そうか。よかった」
それを聞き彼方はあれっと首を傾げた。
「あの、風早の君は白川殿を快く思っていないのでは」
「ああ……、世間はそうみているな。あれも不憫な姫だ」
その言葉にますます首を傾げてしまう。これ以上は聞いてはいけないような気がする。彼方は急用を思い出したといいその場を去ろうと考えたが、その前に風早の君は話し出した。
「あれは仕組まれたことなんだよ。本当は私が白川殿と恋仲になる予定だった」
予定という単語に彼方はますます嫌な気分になった。
「先の太政大臣と東雲内大臣の台頭を快く思わない派閥がいる。その者らは白川殿が当時の東宮……今の帝に入内する計画を知り何とか阻止しようと企てていた」
そしてその内容が白川殿の醜聞により入内の計画を頓挫させるというものだった。その恋人役にあてがわれたのが風早の君であった。風早の君はこの計画に悩んだ。まだ元服して間もないし色恋もそこまで達者でなかったし、何より姫を騙すようで悪い気分であった。とはえ、立案者は父子ともにとっての恩人であり栄えない。
風早の君は父に相談し、父はその姫がどのような娘かを見てみようと提案した。丁度白川殿は母を失って間もなく弔いの為に山寺に籠っているという。一緒に行こうとしたが、風早の君は熱病で寝込んでしまい父だけが行くこととなった。
どんな姫であったかと問うと風早中納言はこう答えた。
寂しそうな表情をする姫であった。
そうして白川邸で開かれる宴で父は姫と逢引し文を交わす間柄となっていた。本来は風早の君がそれをすべきことだったのだが、父はその文の交流を楽しんでいた。はじめはあのように幼い姫を騙すのは私の心が傷つくと察した父があえて自分で名乗り出たのだろう。
しかし、白川殿が純粋に慕ってくるのに父は次第に心を傾けるようになったようである。
計画は異なるものに変わったが、親子の年の差の恋は白川殿の名誉を傷つけるのに十分な話であった。
そして入内に乗り出そうとしたところで父と白川殿の醜聞が吹聴された。その間に受けた白川殿への扱いは辛いものであっただろう。
「父が彼女のもとへ通えれば少しは彼女も安心したと思う」
しかし、運が悪いことに父は病に倒れ回復する兆しもみられなかった。
父もこれは誤算だったようである。仮に白川殿が尼寺に追いやられようとされれば掻っ攫いともに隠居生活をして過ごそうと計画していたようである。父はたいそう悔しそうにしそのまま息を引き取ってしまった。
「ここで父に期待を持って若い時代を過ごさせるのは不憫と思っていた。白川殿の醜聞の後では寄り付く男もいないことだし」
そこで現れたのが夏基であった。
「はじめはあのような軽薄な男と思っていたが、まさか今まで出会った女性にけじめをつけるとは思わなかった」
そこから見直し、果たして白川殿が彼とうまくやれているのか気になっていたがなかなか声をかける機会がなかった。
「いやー、よかったよかった」
「あの……何でそれを私にするのでしょう」
聞きたくなかった上のたくらみに彼方は嫌な気分になった。風早の君はぽんと彼方の肩をたたいた。
「共に東雲内大臣に嫌われている者同士仲良くしようではないか」
今までにない程の良い笑顔であった。それに「俺関係ありませんっ」と彼方は首を横にぶんぶん振っていた。
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