非公式悪役令嬢ですっ!

ariya

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2 転生者は語る

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「実は……」

 コーネリアは語る。

 『ディナイト』は騎士たちがとにかくイケメン、人気声優を使用しているので主に女性に人気が高かった。
 そのまま聖女の恋の行方を楽しむ者がほとんどであろうが、イケメンがたくさんでるゲームにはBL妄想をする者もいた。

 コーネリア(?)はその類だった。
 彼女は大ハマりして、一番の推しはイリヤ・ヴァイオレットである。中性的な容姿で、ちょっと屈折した性格で、冒頭では聖女と距離を置き、それでいて礼儀正しい騎士である。
 銀髪に、紫苑の瞳の美しい青年であるとコーネリア(?)は彼への推しポイントを語り始めた。

「待ってください。それで、お嬢様が存在しないというのはどういうことですか?」

 話が脱線しそうになるのをエマは修正をかけた。

「ええ。私は彼のことが大好きで、彼が他の騎士と結ばれる二次創作を大量にしていたの」
「その騎士というのは男ですか?」

 一応女騎士も存在するのだし確認してみる。

「そうよ。BLだもの」
「ちなみにそのヴァイオレット卿は、その騎士の方々と……かなり親しいのでしょうか?」
「え、ゲームじゃただの仲間、親友よ。でも、そういうのが好きな腐女子というのは一緒の画面に映っただけでそう感じ取ってしまうの」

 ちなみに男役は攻め、女役は受けというらしい。
 理解できない世界だ。

「それで、私の学生時代には同人ゲームというのが流行り始めたのよ」

 専門家じゃなくても、簡単操作で作れるゲームシステムが構築され、二次創作のゲームも出始めた。

「そして私は作ったの。イリヤがいろんな騎士と結ばれるBLゲームを。18禁で。6人の騎士と結ばれるルートを作ってグッドエンド、ノーマルエンド、バッドエンドをそれぞれ用意したわ」

 同時に複数の騎士に愛されるエンディング、総受けルートも書いている。
 モブ男に凌辱された絶望エンドも、聖女と女騎士との友情ルートも用意したそうだ。

「どうして男男のセットは恋人になったり肉体関係となるのに、男女のセットが友情とまりなのでしょうか」
「うーん、やっぱり疑似百合ルートもあった方がいいかなぁと思って」

 言いたいことをぐっと飲み込みエマはまた脱線していると修正を呼び掛けた。
 彼女がまず知りたいのはコーネリアが存在しないということである。

「コーネリア・エリザベスはそのBL二次創作ゲームで作った私の完全オリジナルキャラなの」

 もうお手上げである。何もわからない。
 エマはとりあえず余った紙を持ちだし、コーネリアの説明した内容を図で示してみた。
 理解しがたい世界であるが、とりあえずまとめてみよう。
 ここはコーネリア(?)の前世の世界にあった物語の世界であり、さらに物語は人気ありファンから二次創作をされ続けていた。
 コーネリア(?)はノリノリで二次創作のマルチエンディングのノベルゲームを作成し、そこに登場した完全創作キャラがコーネリアであった。

「コーネリアはオーウェン・ルカニアの自称婚約者で、他の騎士にも色目を使っていてみんなに愛されているイリヤへ強い嫉妬心をむきだしにし数々の嫌がらせをしてくる障害なの」

 物語を盛り上げたり、攻めと受けをくっつけるために誘導するキャラ、それはコーネリア・エリザベスである。
 なかなか二人をくっつけられない時に、コーネリアがいろんな障害を与えて二人はくっついていく。

「話の展開上、誘導するお邪魔虫というのが必要だったというか」
「ラブロマンス小説に登場する間男、間女のようなものですか」
「そうそう、そんな感じ!」
「わざわざ作らずとも、同じ仲間同士で競わせたりすればいいじゃないですか」
「そんなのできないわ。ルリアと、ウルリカがそんな悪役めいたことをするなんて……私には書けなかった」

 ルリアが物語の聖女らしい。ウルリカは女騎士の名前だそうだ。
 ふつうに正々堂々競わせればいいだけなのに何をそんなに厳しそうな顔をしているのだろうか。
 どうやらいじわるをしまくるキャラが必要で、好きなキャラにそれをさせたくなかったからオリジナルを作ったということだ。

 確かにコーネリアは嫉妬深い時があり、使用人をかなり振り回す。エマも経験あるので、そういった役割を与えるのであればコーネリアになると言われれば失礼ながら納得してしまう。コーネリア(?)が言うには存在しないようだけど。

「そのコーネリアに、なっちゃった。どうして……私は仕事帰りにくだまいて飲んで気持ちいい気分で帰っていただけなのに」

 コーネリア(?)でもくだまいて飲むのか。
 想像しただけで面白い図である。
 エマはつい想像してしまった。

「どうしよう。私がイリヤに出会って悪役令嬢になったら破滅エンドが待っているわ」

 聖女の騎士を侮辱した罪により、断罪されるのを恐れているようである。

「ですがお嬢様はエリザベス侯爵家の次期当主です。血筋を絶やすわけにはいかないので、蟄居で済まされる可能性が」
「それがね。調子に乗ったコーネリアは余計なことをして破滅するのよ」

 例えば、封印されていた凶悪魔物を解放してイリヤたちにけしかけようとしたらその凶悪魔物に殺されてしまったりする。
 けしかけたごろつきが罰せられて、その報復として馬車ごと襲われて惨殺される。
 怒りの沸点に達した攻めの粛清に遭うこともある。

「何でそんな破滅する話にしたのです」
「いや、元々存在しないキャラだし、さくっと退場させておこうかなって。あと悪役が痛い目遭わないと納得できない人もいるかなって」

 あはは、とコーネリアはあさっての方を向いた。目が笑っていない。

「うわー、どうしよう。多分こういうのって神様?の強制力で決まったルート走らされる。私がそんなことしないようにしても強制イベントが発生して、何か気づけば破滅しちゃうんだ」

 わーんとコーネリアは泣いた。

「どうして私がこんなことに。上司の悪口を言いすぎたからかな。でも、上司の言い方も酷すぎだし、酒でくだまくくらい許してくれたっていいじゃないの」

 おいおいと情けなく泣いているコーネリア(?)にエマはふうっとため息をついた。

「まずは、物語の表舞台に登場しないようにいたしましょう。聖女候補に選ばれても選定試験に出なければいいのです」

 そうすれば悪役令嬢イベントは発生しなくなるかもしれない。

「そうよね。まだ始まってもいないもの。よし、私は聖女候補を辞退する」

 無理やり父にごねて勝ち取った聖女候補であるが、父に申し訳ないが、自分の命がかかっている。

 父が帰ってきた時にコーネリアは語った。

「私は自分にあり方にようやく気付いたのです。エリザベス侯爵家の跡取りに相応しく、父の仕事を手伝いたいのです」
「おお、リアよ。何ということだ。ここで私の跡を継ぐことを真剣に考えるとは……そうだな。聖女にならずとも、帝国を支える方法はある。よし、この父についてこい!」

 エリザベス侯爵は感動したと、さっそくコーネリアを連れて地方へ飛び回った。多くの社交界へ参加し、コーネリアは父を支え見識を広めていった。
 あいまに父の書類整理の手伝いをする。書類自体触れるのはまださせてもらっていないが、領地経営に必要な知識を得るために書類の分類をしていた。
 このままいけば数年後には領地経営の一部を任せられるだろう。
 めまぐるしく忙しい日々コーネリアは破滅について忘れられた。この調子でうまくいく。
 知恵を貸してくれたエマに感謝しなければ。


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