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終 妄想の責任をとれ
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神様はほんの少しイリヤへ祝福の言葉を授け、刺身ちゃんの転生手続きをとっていた。その間に、イリヤは元の騎士なりたての頃へ戻った。
騎士になってから訓練を繰り返し、魔物討伐をして知名度をあげていた頃の自分だ。
いつもの通りのループであるが今度は違う。
調べればあの性悪令嬢のコーネリア・エリザベスは心を入れ替え父の跡を継ぐべく修行をしているという。
それを聞き確信した。彼女の中に刺身ちゃんがいると。
何とか接触を試みようと、イリヤは騎士としての知名度をあげていった。
ようやく上位貴族たちがイリヤを認識する頃にイリヤはコーネリアへ婚約を申しこんだ。
ようやく事情を呑み込んだコーネリアは頭下げた。
「何と言いますか私の妄想が、たいへん申し訳ありませんでした」
「そうだよ。何ておぞましいものを作ったんだ!」
さすがに過去の萌えの産物をそのように言われると心へ響く。だが、当事者となっているイリヤにとっては地獄だっただろう。
ループしてしまったのはおそらくノベルゲームのシステムの影響である。
プレーヤーの気分でゲームは繰り返されたり、終わってしまう。
もっと良いシナリオがあるかもと期待すれば別のルートへチャレンジするだろう。
おそらくイリヤはプレーヤーなのだ。確かに、ゲーム内の選択肢はイリヤ視点のものだし。
イリヤは納得のできるエンディングを迎えるまでゲームをリセットし続けている。
コーネリアなりの解釈を伝えたが、イリヤとしてはどうすることもできないようだ。
イリヤが納得できるエンディングはおそらくは本来の原作ゲームのエンディングである。だが、神の話ではもうそのルートへ行けなくなった。
落ち込むイリヤにコーネリアは別の質問した。
「何で、私に婚約を申し込んだのでしょう」
「いろいろ考えました。どうせなら侯爵家令嬢を婚約者にして、男よけにしようかなと」
残念な理由である。
「さすがに彼らも未来の女侯爵の夫に手を出そうとはしないだろう」
「手を出すと思いますよ」
コーネリアは絶望の言葉を吐いた。
「結婚していても、婚約者がいても、それでも想いを抑えられないという禁断の愛……BL同人ではたまにあります」
「何て世界だ」
イリヤは頭を抱えた。
「責任とってくださいよ!」
「いえ、私もこうなるとは思わなったし……責任と言われてもどうすれば」
こんこんとノック音がする。エマが新しいお茶とお菓子を持ってきたようだ。
先ほどはよくも置いて行ったな、薄情者とコーネリアはジト目でエマを見つめるが彼女は素知らぬふりをしていた。
「ところでお嬢様、私は考えたのですが」
どうやら先ほどの話を聞いていたようだ。
「お嬢様の妄想で、こうなったのであれば、お嬢様が一緒にいて別の物語へ進めさせればいいのではないですか?」
BLと離れたイリヤが向かうエンディングを一緒に進んでいく。
「なるほど。確かに、ゆがめた存在が一緒なのだ。このゆがみを別へゆがめるのも可能かもしれない」
イリヤはじぃっとコーネリアを見つめた。
「それならば刺身ちゃんは私の婚約者として、一緒に動いてもらいましょう」
「え、嫌ですよ」
そうなれば聖女騎士団ともかかわってしまうかもしれない。何かのきっかけでコーネリアの破滅が発動してしまうかもしれない。
「それでは仕方ありません。今破滅するか、私と一緒に未来へ進むか選んでください」
イリヤは剣に手をかけた。
冷ややかな剣の輝きをみて青ざめたコーネリアはエマの後ろへと隠れた。
「ちょっと待ってください。騎士が令嬢へ剣を向けようとは何事ですか」
「お嬢様、私を盾にしないでください」
エマはずるずるとどこうとするが、コーネリアは許さない。ここは主人を守るところでしょう。
「元々あなたには私の恨みの捌け口になってもらうつもりだったし、正直私が凌辱された原因があなたと思ったらなんか抑えられない感情が湧いて、それが殺意へと変わるのです」
もうダメだ。
ループを繰り返しすぎてイリヤは既にとんでもない精神状態へ陥った。
誰がこんな風にしたんだ。
私だ。
「わ、わかりました。私は死にたくないのであなたの要望に応えます。でも、私と一緒だからって思うような物語にならないと思いますよ」
「ええ、いいですよ。それならそれで日々の愚痴を延々に聞かせます。正直、誰にも言えないループへの不満はきつくて、吐き出せる相手が欲しかったのです」
それはそれでいやだ。
こうしてコーネリアはイリヤ・ヴァイオレットと婚約することとなった。
まさか、こんな形で推しと結ばれることになるとは想像できなかった。
脳内で想像してしまう。元の世界のイリヤファンの腐女子のお嬢様方に何と思われるか。
「この悪役令嬢! よくもイリヤたんをたらしこんだな」
「許さない! イリヤたんはオーウェンの嫁なのよっ!」
やんややんやとお嬢様がたに磔に処せられる自分の図を想像する。
いや、イリヤ受け大好きなお嬢様方がそのような責めをしないと信じたい。
自分の所属していた集落を信じよう。
信じたいが、推しと婚約すると何かしらの起こりそうである。
1か月後には侯爵家で婚約式パーティーを開いた。
当然主役であるコーネリアとイリヤは一緒に参加した。
「これはヴァイオレット卿」
挨拶の為やってきた騎士にコーネリアは興奮した。
きたー。オーウェンだ。攻め!
ちらりとコーネリアにも挨拶をするがそっけない。そういえば例の強硬婚約の件があるから良い感情は抱かれていなかった。
「それより、大丈夫ですか。相談にのりましょ」
オーウェンはぎゅっとイリヤの手を握った。
きゃー、オーウェン×イリヤだわ。目の前でスチルが全開だわ。生きててよかったー。
こんな状況でもコーネリアは興奮した。
「ありがとうございます。ですが、大丈夫です。素敵な婚約者を得た私は今まさに幸せの中にあるのです」
イリヤはオーウェンの手から放れ、コーネリアの肩を掴んだ。
コーネリアは一瞬驚いた。今の自分は間女になった気分である。
「ほぅ」
オーウェンはどす黒い感情を一瞬さらけ出す。そのあまりの恐ろしさは威厳に満ち攻めの風格を感じた。
とりあえずオーウェンは立ち去って、イリヤはほっとした。
「よし、しばらくあなたと私はらぶらぶ状態と触れ回りそこいらの男たちへ牽制しておきましょう」
「でも、逆効果のこともありますよ」
障害があればあるほど燃えるという。
「でもメイン以外の男を振るい落とせるでしょう」
「なるほど」
シナリオではイリヤに恋心を抱き、欲望を持つ名もなき男はたくさんいる。たいした実力がなければ諦めてくれるだろう。
何しろ相手の女性が未来のエリザベス侯爵なのだから。
「さぁ、行きますよ。刺身ちゃん。私をこんな風にした責任分しっかりと働いてもらいます」
イリヤはコーネリアを引っ張り、物語の先へと進んでいった。ずるずると引きずられるコーネリアをみて心なしか楽しそうにしているが、コーネリアはそれに気づいていなかった。
(終わり)
騎士になってから訓練を繰り返し、魔物討伐をして知名度をあげていた頃の自分だ。
いつもの通りのループであるが今度は違う。
調べればあの性悪令嬢のコーネリア・エリザベスは心を入れ替え父の跡を継ぐべく修行をしているという。
それを聞き確信した。彼女の中に刺身ちゃんがいると。
何とか接触を試みようと、イリヤは騎士としての知名度をあげていった。
ようやく上位貴族たちがイリヤを認識する頃にイリヤはコーネリアへ婚約を申しこんだ。
ようやく事情を呑み込んだコーネリアは頭下げた。
「何と言いますか私の妄想が、たいへん申し訳ありませんでした」
「そうだよ。何ておぞましいものを作ったんだ!」
さすがに過去の萌えの産物をそのように言われると心へ響く。だが、当事者となっているイリヤにとっては地獄だっただろう。
ループしてしまったのはおそらくノベルゲームのシステムの影響である。
プレーヤーの気分でゲームは繰り返されたり、終わってしまう。
もっと良いシナリオがあるかもと期待すれば別のルートへチャレンジするだろう。
おそらくイリヤはプレーヤーなのだ。確かに、ゲーム内の選択肢はイリヤ視点のものだし。
イリヤは納得のできるエンディングを迎えるまでゲームをリセットし続けている。
コーネリアなりの解釈を伝えたが、イリヤとしてはどうすることもできないようだ。
イリヤが納得できるエンディングはおそらくは本来の原作ゲームのエンディングである。だが、神の話ではもうそのルートへ行けなくなった。
落ち込むイリヤにコーネリアは別の質問した。
「何で、私に婚約を申し込んだのでしょう」
「いろいろ考えました。どうせなら侯爵家令嬢を婚約者にして、男よけにしようかなと」
残念な理由である。
「さすがに彼らも未来の女侯爵の夫に手を出そうとはしないだろう」
「手を出すと思いますよ」
コーネリアは絶望の言葉を吐いた。
「結婚していても、婚約者がいても、それでも想いを抑えられないという禁断の愛……BL同人ではたまにあります」
「何て世界だ」
イリヤは頭を抱えた。
「責任とってくださいよ!」
「いえ、私もこうなるとは思わなったし……責任と言われてもどうすれば」
こんこんとノック音がする。エマが新しいお茶とお菓子を持ってきたようだ。
先ほどはよくも置いて行ったな、薄情者とコーネリアはジト目でエマを見つめるが彼女は素知らぬふりをしていた。
「ところでお嬢様、私は考えたのですが」
どうやら先ほどの話を聞いていたようだ。
「お嬢様の妄想で、こうなったのであれば、お嬢様が一緒にいて別の物語へ進めさせればいいのではないですか?」
BLと離れたイリヤが向かうエンディングを一緒に進んでいく。
「なるほど。確かに、ゆがめた存在が一緒なのだ。このゆがみを別へゆがめるのも可能かもしれない」
イリヤはじぃっとコーネリアを見つめた。
「それならば刺身ちゃんは私の婚約者として、一緒に動いてもらいましょう」
「え、嫌ですよ」
そうなれば聖女騎士団ともかかわってしまうかもしれない。何かのきっかけでコーネリアの破滅が発動してしまうかもしれない。
「それでは仕方ありません。今破滅するか、私と一緒に未来へ進むか選んでください」
イリヤは剣に手をかけた。
冷ややかな剣の輝きをみて青ざめたコーネリアはエマの後ろへと隠れた。
「ちょっと待ってください。騎士が令嬢へ剣を向けようとは何事ですか」
「お嬢様、私を盾にしないでください」
エマはずるずるとどこうとするが、コーネリアは許さない。ここは主人を守るところでしょう。
「元々あなたには私の恨みの捌け口になってもらうつもりだったし、正直私が凌辱された原因があなたと思ったらなんか抑えられない感情が湧いて、それが殺意へと変わるのです」
もうダメだ。
ループを繰り返しすぎてイリヤは既にとんでもない精神状態へ陥った。
誰がこんな風にしたんだ。
私だ。
「わ、わかりました。私は死にたくないのであなたの要望に応えます。でも、私と一緒だからって思うような物語にならないと思いますよ」
「ええ、いいですよ。それならそれで日々の愚痴を延々に聞かせます。正直、誰にも言えないループへの不満はきつくて、吐き出せる相手が欲しかったのです」
それはそれでいやだ。
こうしてコーネリアはイリヤ・ヴァイオレットと婚約することとなった。
まさか、こんな形で推しと結ばれることになるとは想像できなかった。
脳内で想像してしまう。元の世界のイリヤファンの腐女子のお嬢様方に何と思われるか。
「この悪役令嬢! よくもイリヤたんをたらしこんだな」
「許さない! イリヤたんはオーウェンの嫁なのよっ!」
やんややんやとお嬢様がたに磔に処せられる自分の図を想像する。
いや、イリヤ受け大好きなお嬢様方がそのような責めをしないと信じたい。
自分の所属していた集落を信じよう。
信じたいが、推しと婚約すると何かしらの起こりそうである。
1か月後には侯爵家で婚約式パーティーを開いた。
当然主役であるコーネリアとイリヤは一緒に参加した。
「これはヴァイオレット卿」
挨拶の為やってきた騎士にコーネリアは興奮した。
きたー。オーウェンだ。攻め!
ちらりとコーネリアにも挨拶をするがそっけない。そういえば例の強硬婚約の件があるから良い感情は抱かれていなかった。
「それより、大丈夫ですか。相談にのりましょ」
オーウェンはぎゅっとイリヤの手を握った。
きゃー、オーウェン×イリヤだわ。目の前でスチルが全開だわ。生きててよかったー。
こんな状況でもコーネリアは興奮した。
「ありがとうございます。ですが、大丈夫です。素敵な婚約者を得た私は今まさに幸せの中にあるのです」
イリヤはオーウェンの手から放れ、コーネリアの肩を掴んだ。
コーネリアは一瞬驚いた。今の自分は間女になった気分である。
「ほぅ」
オーウェンはどす黒い感情を一瞬さらけ出す。そのあまりの恐ろしさは威厳に満ち攻めの風格を感じた。
とりあえずオーウェンは立ち去って、イリヤはほっとした。
「よし、しばらくあなたと私はらぶらぶ状態と触れ回りそこいらの男たちへ牽制しておきましょう」
「でも、逆効果のこともありますよ」
障害があればあるほど燃えるという。
「でもメイン以外の男を振るい落とせるでしょう」
「なるほど」
シナリオではイリヤに恋心を抱き、欲望を持つ名もなき男はたくさんいる。たいした実力がなければ諦めてくれるだろう。
何しろ相手の女性が未来のエリザベス侯爵なのだから。
「さぁ、行きますよ。刺身ちゃん。私をこんな風にした責任分しっかりと働いてもらいます」
イリヤはコーネリアを引っ張り、物語の先へと進んでいった。ずるずると引きずられるコーネリアをみて心なしか楽しそうにしているが、コーネリアはそれに気づいていなかった。
(終わり)
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