【完結】その悪女は笑わない

ariya

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本編⑤ 呪いの真相

43 夕食への連行

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 回帰直後のローランはすぐに自分の体が長くないと理解していた。回帰魔法の代償を己の体と運命で払ったのだ。
 紙に情報を書くには時間が足りなさすぎる。
 ローランは自分の指輪に回帰前の情報を詰め込んだ。双子の巫女であればすぐに解読できるだろう。

 遺書に指輪を託す。情報を読むように。アルバートが助力を求めたら応じるように。

 そう記し終えてローランは一息ついた。
 ローランは回帰したその日のうちに心臓発作で倒れ死亡した。
 師の突然の死に不可解さを覚え双子の巫女は指輪を解読していた。その時にアルバートの手紙が届いてお互い顔を見合わせた。

「アルバートというとアルバートのことか?」
「ローランの言うアルバートのようだな」

 ローランの葬儀を終えながら指輪の解読を進め、アルバートが関わっている呪いが厄介なものであるとようやく気付いた。

「確かにティティスの匂いがする」
「こんなものが王宮にばらまかれているのか。怖いな」

 アルバートから届けられた呪いの方式を読み取り、その解体を始めた。二人で問答を繰り返し3日はかかったが、だいたいコツは掴めた。

「ふむ、この程度の呪い1つでは何とかなるようだ」
「だが、これが大量にあったら厄介だ。ティティスの呪いは増幅する」

 騎士が呪いの方式と一緒に持ってきていた土産の菓子、レディー・モナの焼き菓子を二人で頬張る。

「ぬ、この菓子なかなかうまいぞ」
「王都にはこのような美味なものがあるのか」
「よし、王都に行こう」

 即決であった。

 しかし、祭祀が不在になるのは避けなければならない。イブとエヴァは二人で祭場を守る義務がある。
 ロヴェルが祭場を出ていくことができたのは、丁度ローランが跡を継げるだけ成長したからだ。

「片方残れば問題ない」
「となるとイブが残るのか?」
「いや、エヴァが残るのだ」
「いやだ。私はレディー・モナのケーキが食べたい」
「私だって食べたい」

 呪いの為ではなく目的は菓子の為になりつつある。二人はしばらく話し込み、勝負を繰り返しようやくエヴァが勝利した。

「く、無念。エヴァ、絶対レディー・モナの菓子を買って帰るのだぞ。1ダースだ。じゃなければ呪う」

 こうして恨めし気なイブに見送られながらエヴァは侯爵家騎士とともに王都へとやってきたのだ。
 そして王都のクロックベル侯爵邸に今は小さな客人が滞在している。
 別館で部屋をもらい、そこで集められた呪いの方式を解体していっている。
 ティティスの呪いであっても、1個1個であれば特に恐れる必要はないとエヴァは次々と解体を進めた。
 そして、アルバートの魔法道具の作成にも協力した。呪いの方式を入れる箱を運ぶものがより安全を確保するために装飾を付け足していた。

「くぅー、一仕事あとのレディー・モナのアップルパイは臓腑にくるー」

 エヴァは侍女が運んでくれたアップルパイに喜びの声を上げていた。

 彼女の首にはチェーンで落ちないようにペリドットの指輪がついていた。ローランの形見だという。
 彼女がアルバートの手紙を怪しむことなく受け入れたのはローランのおかげでもあった。

 彼女が解読した記録書を読んでみる。稚拙な文章が目立つが、呪いの構想はだいたい把握しやすい。
 アルバートはおおいに助かった。
 侯爵家跡取りとして仕事をこなしながら、アリーシャに魔法と呪いについての授業をこなし、回収した呪いの管理・解読、その他もろもろと多忙を極めていた。
 正直、狩猟祭で脇腹を怪我したときは今後どうするかと悩んだ。体力的な限界がきそうだ。
 そう思った先のエヴァの訪問である。
 呪いの管理、解読、解体については彼女に任せることとする。これでだいぶ負担が減った。
 シオンに怪我の治療をお願いしつつ、王都外のアリア周辺の情報を回収してもらって、来週には王宮に行くことができそうだ。
 連絡が最低限になり、アリーシャはさぞかし怒っていることだろう。
 ドロシーがいるし、最近は環境がよくなってきているから問題はなさそうだ。呪いについての扱いもだいぶ良くなっている。
 ヴィクター王太子のアリーシャに対する態度が変わり気がかりだった。星祭の時に見た彼は噂通りアリーシャに冷たかった。あれほどとは思わず、さすがに引いた。それがアリーシャを気にかける言葉を発したと聞き、これが一変して再度アリーシャに災難がもたらされるのではと心配した。

 エレン王子が王宮に行ったのは意外であった。

 あれだけ王宮には行かない、ここで一生を過ごすのだと言って聞かなかったのに。母親が死んだと聞いてから彼はシオンとしばらく話し込んでいたようだ。

   ◇   ◇   ◇

 カメリア宮で待機していたドロシーはアリーシャの帰りを待っていた。

「ああ、アリーシャ様。そのようにおやつれになり、おいたわしや」

 部屋に戻ってきたのはひょろひょろのふらふらのアリーシャであった。
 何故こうなったかというと、2時間前のことである。

 今日は王太子の夕食の日でアリーシャは断固拒否、予定通り起きた胃もたれで休む気であった。
 そこに現れたのは女官長代理である。彼女は強行突破でアリーシャの部屋へ訪れた。ドロシーの防御を跳ねのけて強硬突破で侵入してきたのである。

「お初にお目にかかります。私、女官長代理のドーラ・ジベールと申します」

 見かけない侍女であった。女官長代理というのは引っかかる。
 長身のきりっとした体躯の女性であった。黒髪をきっちりと結い上げ、厳しめの眼鏡をかけている。侍女というより敏腕女官といった雰囲気である。

「女官長は先日腸捻転で入院となりました。かなりの重症な状態で退院に時間がかかるようです」
「腸捻転……」

 それは初耳である。今までアリーシャは放置されていたので、女官長の存在など忘れていた。

「年齢と体力のこともあるためこのまま引退予定とのことです。新しい女官長の引継ぎには時間がかかるようで、それまで私が代理を引き受けることにしました」

 女官長に問題がいくつか発見されたようであり、なかなか引継ぎが難航しているようだ。なかなか代わりを務めたがる者がいなかった。
 王太子が成人となる頃に引退したドーラが呼ばれることになった。
 ちなみにジベールの奥さんである。ジベール夫人と呼ぶことにする。
 彼女は侍女として王宮に働いていた時期もあるが、王族の執務の補助を行う女官でもあった。

「許可なく部屋に入ったことは申し訳ありません。こうでもしないとアリーシャ様にお会いできないと思いました。罪は後でいくらでも受けます。むち打ちでも、棒叩きでも受ける所存です」

 そこまでのことは求めていない。アリーシャはふるふると首を横に振った。

「それでは参りましょう。本日アリーシャ様が予定通り胃もたれを起こされるだろうと思いましたので胃に優しい料理を手配しております」
「胃が苦しくてとてもドレスに着替えて本宮まで歩く自信がありません」
「王太子は既に胃もたれのことをご存じで、楽な恰好でいらして構わないと言っておりました。王太子は気にかけており、王宮医師を傍に控えさせ各種胃薬・胃痛薬を準備済です」

 そこまでの気にかけてくれるなら部屋で休ませて欲しい。

 こうしてアリーシャはジベール伯爵夫人に連行されていった。ドナドナの音楽が聞こえてきそうだった。
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