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おまけ アベルとアマリア
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物語より二年前、アリスは一度不思議の世界へ迷い込んだ。
先代ハートの女王に濡れ衣を着せられ処刑されそうだったところを助けられたアリス。
しかし、アリスは白の魔女アマリアに出会い不思議の世界にやってきたという記憶を消され元の世界へ戻れてしまう。
これはその直後の話。
光の粒がアリスに寄り添い、アリスはそのまま姿を消してしまった。
「アリス!! なんてことをするんや!! 別に忘れんでもええやろ!!」
ブランは檻の中でばたばたとあがきアマリアを詰る。
さっきまで笑顔だったアマリアはいらいらしたように言った。
「ああ、もううるさいわ。私と同じ白ちゃんだから一番可愛がってあげようと思ったのに」
アマリアは檻の隙間に手を入れた。
檻はアマリアの手をよけるように歪んで彼女の手の侵入を許す。
そのまま彼女の手はブランの口の中に突っ込まれる。
「まずはその舌を一度引き抜いてあげるわ」
青ざめたブランはもがもがと言葉にならない声で抗議する。
「大丈夫よ。ちゃんと躾けが終わったらまた舌をつけかえてあげるわ」
にっこりとアマリアは恐ろしい笑顔をブランに見せた。
この女はあかん。
ブランはそう直観した。
「っ!!」
突然アマリアに向って細剣が走った。
それは擦れてアマリアの髪を薙ぐ程度であったが、細剣に込められた殺気にアマリアは身じろぐ。
アマリアは細剣の主を確認してくすりと笑った。
「アマリア、か」
ハートの女王を討伐し終えたアベルであった。
「ええ、お久しぶりね。随分立派な貴公子になったわね」
「アリスはどこだ?」
「帰ったわ」
アマリアはあっさりと応えた。アベルは疑いの目をアマリアに向ける。
「本当よ。さっき赤の魔女………ハートの女王に殺されかけてさんざんな目に遭ったじゃない。早くお家へ帰りたいって言っていたの。だから帰してあげたわ」
「本当に?」
「私があなたに嘘を言うとでも思う?」
アベルはじっとアマリアの目をみてため息をついた。
「成程、よくわかった」
アベルの言葉にアマリアはくすくす笑った。
「ねぇ、ハートの女王はどうしたの?」
「幽谷の城に送った。二度と国の政に干渉できないように、最深部に幽閉してもらうように申告しといた」
「容赦ないのね」
アマリアはじっとアベルを見つめる。
アベルは細剣の構えを解かずアマリアに負けじと睨みつける。
「これであなたはハートの王様ね。おめでとう」
アマリアは甘くしっとりとした声でアベルの方へ近づいた。
「ねぇ、妃が必要でしょう? 私なんてどう?」
それを聞きアベルははっと笑った。
「魔女を妃にしてどうなったかこの国は痛い程知っている。そんな国が魔女を妃になんて許すわけがないだろう」
「同じことを繰り返さなきゃいいのよ。私とあなたなら大丈夫よ」
「どうだかな」
「また、聞きに行くわ。その時はもっと良いお返事が欲しいな」
アマリアはそう言いながら白うさぎのぬいぐるみの入った白の檻を手に取った。中のぬいぐるみはぐったりとしている。
「待て」
檻を持って去ろうとしたアマリアにアベルは呼びとめる。
「そのおもちゃは置いて行け」
「あらあら、今まで癇癪で八つ当たりの対象にしてきた子でしょ。どうするの?」
揶揄して言うアマリアにアベルはぎろりと睨む。
「もともとは僕の所有物だろう」
「はいはい、わかったわ。どうなるか楽しみにしているわ」
そう言いアマリアはブランが入った白い檻を向こうへ放り出した。
同時に彼女が手をかざすと光の粒を呼び集め白の扉を象り開かせた。
「じゃぁね、アベル。愛してるわ」
そう言いアマリアは消えていった。
魔女の気配が消えたのをアベルは確認して細剣をしまう。
アマリアが消えて白の檻から解放されたブランは地面に倒れたままであった。
アベルはブランに近づき、確認する。
そのぬいぐるみが確かに生きているということに。
これはアベルの部屋にあったおもちゃのひとつだった。
ぼろぼろになったそれをアリスが裁縫して直してやったのだ。
その時に、命を持ったのだろう。
アリスに直されることで命を宿すとはアリスにも魔力を持っているということか。
突然アベルの前に現れてはアベルの暗示を解いたり、物に命を吹き込んだ不思議な少女・アリス。
アベルは部屋から外へと導いたアリスの笑顔を思い出した。
会いたい。
アベルはそう思った。
だが、今のアベルの能力では異世界に行くだけの魔力はない。
ハートの女王を制圧できたのは城に隠れていた部下たちの協力があったからだ。
ひょっとしたらブランならアリスの居場所を感知できるのではなかろうか。
アベルはしゃがみこんで、そのぬいぐるみを拾う。
ぬいぐるみは随分衰弱していた。
先の白の檻の中で白の魔女の気にあてられたのだろう。
その前にアベルによる虐待による影響も大きい。
「おい、起きろ」
「う………うぅ」
「お前、アリスがどこに行ったかわかるか?」
「………アリス?」
白うさぎは目をぱちぱちとさせ応えた。
「アリスって、誰や?」
先代ハートの女王に濡れ衣を着せられ処刑されそうだったところを助けられたアリス。
しかし、アリスは白の魔女アマリアに出会い不思議の世界にやってきたという記憶を消され元の世界へ戻れてしまう。
これはその直後の話。
光の粒がアリスに寄り添い、アリスはそのまま姿を消してしまった。
「アリス!! なんてことをするんや!! 別に忘れんでもええやろ!!」
ブランは檻の中でばたばたとあがきアマリアを詰る。
さっきまで笑顔だったアマリアはいらいらしたように言った。
「ああ、もううるさいわ。私と同じ白ちゃんだから一番可愛がってあげようと思ったのに」
アマリアは檻の隙間に手を入れた。
檻はアマリアの手をよけるように歪んで彼女の手の侵入を許す。
そのまま彼女の手はブランの口の中に突っ込まれる。
「まずはその舌を一度引き抜いてあげるわ」
青ざめたブランはもがもがと言葉にならない声で抗議する。
「大丈夫よ。ちゃんと躾けが終わったらまた舌をつけかえてあげるわ」
にっこりとアマリアは恐ろしい笑顔をブランに見せた。
この女はあかん。
ブランはそう直観した。
「っ!!」
突然アマリアに向って細剣が走った。
それは擦れてアマリアの髪を薙ぐ程度であったが、細剣に込められた殺気にアマリアは身じろぐ。
アマリアは細剣の主を確認してくすりと笑った。
「アマリア、か」
ハートの女王を討伐し終えたアベルであった。
「ええ、お久しぶりね。随分立派な貴公子になったわね」
「アリスはどこだ?」
「帰ったわ」
アマリアはあっさりと応えた。アベルは疑いの目をアマリアに向ける。
「本当よ。さっき赤の魔女………ハートの女王に殺されかけてさんざんな目に遭ったじゃない。早くお家へ帰りたいって言っていたの。だから帰してあげたわ」
「本当に?」
「私があなたに嘘を言うとでも思う?」
アベルはじっとアマリアの目をみてため息をついた。
「成程、よくわかった」
アベルの言葉にアマリアはくすくす笑った。
「ねぇ、ハートの女王はどうしたの?」
「幽谷の城に送った。二度と国の政に干渉できないように、最深部に幽閉してもらうように申告しといた」
「容赦ないのね」
アマリアはじっとアベルを見つめる。
アベルは細剣の構えを解かずアマリアに負けじと睨みつける。
「これであなたはハートの王様ね。おめでとう」
アマリアは甘くしっとりとした声でアベルの方へ近づいた。
「ねぇ、妃が必要でしょう? 私なんてどう?」
それを聞きアベルははっと笑った。
「魔女を妃にしてどうなったかこの国は痛い程知っている。そんな国が魔女を妃になんて許すわけがないだろう」
「同じことを繰り返さなきゃいいのよ。私とあなたなら大丈夫よ」
「どうだかな」
「また、聞きに行くわ。その時はもっと良いお返事が欲しいな」
アマリアはそう言いながら白うさぎのぬいぐるみの入った白の檻を手に取った。中のぬいぐるみはぐったりとしている。
「待て」
檻を持って去ろうとしたアマリアにアベルは呼びとめる。
「そのおもちゃは置いて行け」
「あらあら、今まで癇癪で八つ当たりの対象にしてきた子でしょ。どうするの?」
揶揄して言うアマリアにアベルはぎろりと睨む。
「もともとは僕の所有物だろう」
「はいはい、わかったわ。どうなるか楽しみにしているわ」
そう言いアマリアはブランが入った白い檻を向こうへ放り出した。
同時に彼女が手をかざすと光の粒を呼び集め白の扉を象り開かせた。
「じゃぁね、アベル。愛してるわ」
そう言いアマリアは消えていった。
魔女の気配が消えたのをアベルは確認して細剣をしまう。
アマリアが消えて白の檻から解放されたブランは地面に倒れたままであった。
アベルはブランに近づき、確認する。
そのぬいぐるみが確かに生きているということに。
これはアベルの部屋にあったおもちゃのひとつだった。
ぼろぼろになったそれをアリスが裁縫して直してやったのだ。
その時に、命を持ったのだろう。
アリスに直されることで命を宿すとはアリスにも魔力を持っているということか。
突然アベルの前に現れてはアベルの暗示を解いたり、物に命を吹き込んだ不思議な少女・アリス。
アベルは部屋から外へと導いたアリスの笑顔を思い出した。
会いたい。
アベルはそう思った。
だが、今のアベルの能力では異世界に行くだけの魔力はない。
ハートの女王を制圧できたのは城に隠れていた部下たちの協力があったからだ。
ひょっとしたらブランならアリスの居場所を感知できるのではなかろうか。
アベルはしゃがみこんで、そのぬいぐるみを拾う。
ぬいぐるみは随分衰弱していた。
先の白の檻の中で白の魔女の気にあてられたのだろう。
その前にアベルによる虐待による影響も大きい。
「おい、起きろ」
「う………うぅ」
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