【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya

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 尋問が終わった後、ルドヴィカはルルに頼み毒入りクッキーを食べたメイドについて調べてもらった。
 ビアンカ公女が食べないまま捨てられるクッキーは勿体ないと感じたメイドたちが自室へ持って帰って食べていたそうだ。
 うち一人の異変に気付き、そこからヒ素入りだと判明した。
 ただちに大公へ報告し、ルドヴィカを拘束すべきだというメイドの訴えにビアンカ公女の耳に入ったという。

「今回、大公妃様を呼びだしたのは毒入りクッキーへの追及だったようです。公女様のメイドたちは大公殿下へ報告すべきだと訴えていたそうですが、公女様はまず大公妃と話をすることを選んだそうです。あまりに不用心だとメイドが公女様の命令に逆らい物陰に隠れていました」

 それが溺水事件の流れであった。
 ビアンカ公女周辺でそのような騒ぎが起きていたなど気づきもしなかった。
 ビアンカ公女がジャンルイジ大公の耳に入らないように取り計らったのだろう。
 ジャンルイジ大公の耳に入った方がここまでの騒動にならずに済んだと思うが、それを今考えても仕方ない。

「毒入りクッキーを飲んだメイドは何人かしら」
「2人です。他のメイドたちは二人の異変をみてクッキーを口にせずに済んだそうです」

 ルルに治療内容を確認した。すぐに解毒剤を使用し、大事には至らなかったと。

(重金属中毒の解毒剤が存在するのね)

 朱美の記憶をたどると、解毒剤が開発されたのは1900年後である。
 やはりこの世界は中世ヨーロッパの雰囲気であるが、それに反して一部の科学が異常発展してある。
 魔法がある世界であれば科学は魔法程注目されないが、意外に隣り合った学問であり魔法の技術で思いのほか突飛な発見、技術が見つかっているようである。
 そういえば医務室へは抗生剤と細胞外液の種類、循環動態の管理目的の薬剤の確認はしていたが、中毒に大した薬の確認はしていなかったな。
 ずっとあの体型だからジャンルイジ大公は病死したと考えていたが、毒を盛られるケースも考える必要がある。ルドヴィカがビアンカ公女へ贈ったクッキーに毒が混入されたのだから。

(これが落ち着いたらルフィーノ殿と相談を……)

 そういえばと今更ながら思い出した。

「ルフィーノ殿は何をされているのかしら」
「実はルフィーノ殿も、容疑をかけられており今は魔法棟の一室で軟禁状態です」

 大公妃の部屋を最近出入りしていた科学も魔法も得意な男、となれば毒の出どころとして疑われてしまったようだ。
 自分がまきこまなければこんなことにならなかっただろうに、とルドヴィカは責任を感じた。

「ルルは私のせいで不便なことになっているでしょう?」
「いいえ、私は大丈夫です。初日、取り調べを受けましたがすぐに釈放されました。幽閉塔を出入りするときは念入りのチェックをされますが、平気です」

 こわもての見張りにチェックされるのも精神的に滅入るだろうに、ルルは健気に笑っていた。
 ルルに夜の挨拶を受け、ルドヴィカはベッドに入った。

 天井を眺めながらルドヴィカは考え込む。
 どうしてビアンカ公女はジャンルイジ大公へ報告をしなかったのだろう。
 会うことができなくてもパルドンつてで伝えることはできたはずだ。

 それにルドヴィカに一人で話すなど考えたのか。
 公女側からすればルドヴィカは毒入りクッキーを贈った女である。
 一人で、池の畔で対峙するにはあまりに無謀だ。
 大公城へやってきたルドヴィカにあれだけ警戒心を強く抱いていたというのに。

 他にも確認したいことがあったのだろうか。

 誰かに提案されたのかもしれない。

 その誰かと考えるとルドヴィカはため息をついた。
 思い浮かべた人物はアンであった。
 ビアンカ公女付きのメイド、ルドヴィカがビアンカ公女との接触で相談していた協力者である。
 例のクッキーなど菓子類はアンつてでビアンカ公女へ贈られた代物である。
 翌朝ルドヴィカはルルに尋ねた。ビアンカ公女つきのメイド、アンの所在について。
 アンは普段通り公女の部屋周辺の仕事をしているという。
 ルル同様取り調べは受けたが、すぐに解放されている。

(あまり考えたくないけど、アンが怪しいわ)

 思えば、今回のビアンカ公女との面会はアンの手引きであった。
 アンはビアンカ公女の赤ん坊の頃から仕えていたメイドであり、ビアンカ公女が最も信頼している。
 彼女に言われれば、多少のこともビアンカ公女は信じてしまうのではなかろうか。

 考えるごとにアンが怪しく感じてしまう。
 本日の尋問でルドヴィカはそれとなくビアンカ公女のメイドについて不審な点がなかったか尋ねてみた。

「全く、ここまできて罪なき女性になすりつけようとは」

 ヴァリー卿は心底見損なったとルドヴィカを非難した。
 結局、尋問は普段通り無為に終わった。
 もはやルドヴィカとヴァリー卿の根競べに近い。

「いつまでこんな日が続くのか」

 ルドヴィカはうんざりだった。
 ヴァリー卿も段々苛立ちを隠す様子はない。
 本当ならばもっと強気にルドヴィカを尋問したかっただろう。
 恫喝、ゆすり、誘導。
 オルランド卿の監視の中ではルドヴィカを直接傷つけるような行為は許されなかった。
 未だにルドヴィカの味方という立ち位置を示していないが、彼なりにルドヴィカを守ろうという仕草は見受けられた。
 ジャンルイジ大公の命令もあったのだろう。

(ルルに頼んで、アンの捜査をお願いする?)

 そうなればルルに危険が及ぶ。あまり不用意な動きをみせればルルまで尋問の手が伸びてしまう。大公妃のルドヴィカと違いルルだともっと手痛い目に遭わされるかもしれない。

「ああっ、もうどうすればいいのよ」

 幽閉された状態では何もできない。
 ルドヴィカはお手上げだった。

「大丈夫、そうだな」

 ベッドの下からジャンルイジ大公の声がして、ルドヴィカはむくりと起き上がった。

「大公殿下?」

 きょろきょろとあたりを見渡すが、彼の姿はない。

「ここだ」

 再び大公の声がして、ベッド脇、下の方をみるとまるまるとしたネズミがじぃっとこちらを見ていた。ネズミにしては清潔感があり綺麗な毛並みで、首元には立派なルビーつきの首輪がつけられていた。
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