【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya

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38 大公妃の脱獄

 レノ・オルランドはオルランド子爵家の三男として生まれ、アンジェロ大公家の騎士になるべく幼少期から厳しい訓練を受けて来た。
 16歳で従騎士となり、20歳になる頃に騎士位を得た。

 初陣を迎えたのは16歳の頃である。
 ジャンルイジ大公の側近騎士の見習いとして彼の傍に仕えていた。
 彼自身決して平凡ではなくすぐに頭角を現し、騎士になってすぐに部隊隊長に任じられた。
 ジャンルイジ大公からの信頼もあり、斥候を任されることもあった。
 当然多くの同胞の死も経験している。
 元々の性格もあっただろうが、何度も死線を潜り抜けた影響で若い年齢に反し達観した性格となった。

 一見つかみどころのない性格故、周囲から理解を得られないこともある。
 自分より早く出世したため、ヴァリー卿から妬まれることもあった。
 何故こんな男がと。

 ビアンカ公女からもうさんくさいと敬遠されがちであった。
 むしろヴァリー卿らの方がわかりやすく、ビアンカ公女は彼らを重宝した。
 前世では、オルランド卿が大公となったビアンカ公女から遠ざけられた臣下の一人であったのは言うまでもない。

 勿論、ルドヴィカ大公妃から距離感を悩まれていることも察していた。
 それでも比較的ルドヴィカの方が親しく会話をすることが多い。例のトヴィア卿とガヴァス卿をジャンルイジ大公のリハビリに推薦したのはオルランド卿であった。他にも役立ちそうな人材の情報をそれとなく彼女に流してある。
 実際、ルドヴィカ大公妃が行うことは目新しく面白いと感じた。
 そして何よりもジャンルイジ大公の心身はいい方向へ変化していた。
 1週間に一度彼の部屋へ報告へ参るが、彼の容態は目に見えてよくなっているのは明らかであった。
 ジャンルイジ大公は良い妃を得られたことに心より感謝した。
 同時にはじめからアリアンヌ嬢ではなくルドヴィカ嬢が来れば良かったのにと悔やまれて仕方ない。

 ビアンカ公女暗殺未遂事件に続いての公女誘拐事件、これにルドヴィカは自ら解決すべく出発した。
 できることであれば、ジャンルイジ大公に一報入れてから出発すべきであろうが、ルドヴィカが遅れればビアンカ公女の命は危ういと出発を優先してしまった。

 ちなみに大公城脱出に関してはオルランド卿の協力でルドヴィカは従騎士の衣装を借りた。
 珍しい鼠色(ブルーグレイ)の長い髪が目立つ為、どうするかと悩んだがルドヴィカは髪をばっさりと切った。
 さすがにオルランド卿も肝が冷えた。これがジャンルイジ大公にばれればどうなることかと。

「ビアンカ公女を一刻も早く助ける為よ。迷ってなんかいられないわ」

 すぐに門衛に怪しまれず潜り抜ける方法だとルドヴィカは受け入れていた。
 確かに大公妃ともあろう女性が、長い髪を切るなどありえない。
 門衛は疑うことなく、オルランド卿が率いる二人の少年従騎士を通した。

 ◆◆◆

 ルドヴィカたちが大公城を脱出した後ジャンルイジ大公は事態を知ることになる。
 彼の元にオリンドの通信魔法が届けられた。
 ジャンルイジ大公は夜半であるが、パルドンを叩き起こし今の状況を確認した。
 ビアンカ公女が行方不明になったことと、ルドヴィカ大公妃の脱獄はしばらく伏せられることとなる。
 ようやく一部の騎士を呼び寄せて、情報を共有していった。

 まず訴えたのはヴァリー卿であった。
 ルドヴィカを捕え処分をすべきであると。

 ジャンルイジ大公は彼らの意見を抑えながら、ビアンカの救出、ルドヴィカの保護を命じた。
 できれば自身も同行したいところであるが、騎士たちを呼び寄せる随分前にジャンルイジ大公は倒れた。
 部屋を出ようとすると強い動悸と眩暈に襲われた為である。

 耳の奥からないはずの女の声が聞こえてくる。

 ――『まぁ、無駄なことを。豚がどれだけ頑張っても何もできないでしょう』

 未だに忘れることができない、アリアンヌの嘲笑する声であった。
 大公領を立ち去ってからも悪魔のような女はなおもジャンルイジ大公の精神を痛め続けてきた。
 だが、幻聴に気を配っている暇などない。
 アリアンヌの声を無視し何とか重たい体を引きずり、階段のところまでたどり着いたが、そこでぷつりと意識を手放し倒れてしまった。
 パルドンが発見し、ガヴァス卿を呼びジャンルイジ大公を部屋へと戻した。

「大公殿下、無理をなされず。大丈夫です。公女殿下は無事に戻ってきます。大公妃様にはオルランド卿とオリンドがついております。きっと大丈夫です」

 主君を慰めるパルドンの声を聞きながら、ジャンルイジ大公は己のふがいない体を呪った。
 ルドヴィカのおかげでだいぶ動かせるようになった体であっても自由はいかない。

 今ビアンカ公女は誘拐され、ルドヴィカは危険人物との接触を図ろうとしている。
 それなのに兄として、夫として駆けつけることができない。
 それがたまらなく悔しかった。
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