【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya

文字の大きさ
82 / 94

79 鼠色の髪の皇女

しおりを挟む
「あの、大丈夫ですか? おばあ様に叩かれて」

 ロヴェリア公爵夫人のことをおばあ様という呼ぶ幼女、まさかとルドヴィカは混乱した。

「だ、大丈夫です。大したことでは」
「いいえ。とても痛いでしょう。そこに井戸がありますので冷やしましょう」

 幼女はルドヴィカの手を握って歩いた。
 彼女が案内した場所に井戸はあり、幼女はそこから水を汲もうとする。
 危ない。
 思わずルドヴィカはガヴァス卿に声をかけた。
 ガヴァス卿は幼女と交代して井戸から水をくみ上げた。

「ありがとうございます。騎士さま」

 少し緊張した様子であるがお礼はしっかりという。

「怖がらなくていいわよ」
「怖がっていません。素敵な騎士様で。絵本の中で見た騎士にそっくり」

 少し頬を染めていた。可愛らしい反応である。

「これで冷やしてください」

 幼女は自分のハンカチを水にひたした後ルドヴィカに手渡した。

「ありがとう。あの、あなたは……」
「カプリアナです」

 やはりとルドヴィカはようやく幼女の存在を受け止めた。
 カプリアナ皇女、アリアンヌが1年前に産んだ皇女であった。

「あの、あなたのお名前を……その、私と同じ方で、知りたくて」

 遠慮がちに聞いてくる彼女にルドヴィカはこくりと頷いた。

「私はルドヴィカ。アンジェロ大公妃をしているわ」
「アンジェロ大公妃……では、伯母様」
「そうよ」

 ルドヴィカは内心複雑だった。ロヴェリア公爵家とは縁を切ると宣言したので、カプリアナ皇女とも縁を切ったようなものである。
 それなのに伯母と名乗るのは躊躇するが、何故か彼女のまなざしをみていると否定できなかった。

「お会いしたかったです。伯母様」
「そうなのですか」
「はい。私と同じ髪の夫人、どんな方か……知りたかったです。綺麗な方ですごく驚きました」

 幼女からの称賛にルドヴィカは動揺した。

「その、皇女様はどうしてここに。パーティーに出席されないのは体が弱いからと」
「……私は醜いから、パーティーには出られないと」

 その言葉にルドヴィカはめまいを覚えた。
 まさか、こんな幼い娘にそのような言葉をぶつけているのか。

「皇女様は醜くありません」

 ルドヴィカの発言を聞いてもカプリアナ皇女は首を傾げた。
 彼女は生まれた時から周りの大人たちに言われ続けたのだ。
 醜い鼠色の髪の皇女と。
 もしかすると父親からも。
 そう思うと腸が煮えくり返る程苦しかった。

 遠くからダンスの曲が聞こえて来た。そういえば、まだダンスが続いていたのを思い出す。

「その、私……パーティーを少しみてみたくて、ダンスを少しみたら帰るつもりだったの。だから、私がここにいるのを内緒にしてください」

 弟の誕生を祝うパーティーに参加させてもらえず一人寂しく過ごす皇女にルドヴィカは何かできないかと考えた。

「皇女殿下」

 ガヴァス卿はカプリアナ皇女に手を差し伸ばした。

「私と踊ってください」
「え、その……あの」

 カプリアナ皇女はちらりとルドヴィカの方をみた。

「騎士様には伯母様がいるでしょう」
「ぷふっ」

 思わずルドヴィカは笑ってしまった。もしかするとルドヴィカの相手だと勘違いしているのだろう。

「彼は私の護衛よ。気にしなくていいわ」
「え、そうなの……」
「私にはちゃんと相手がいるから」

 肩をとんと叩くとカプリアナ皇女はどきどきしながらガヴァス卿の手をとった。
 両手を繋いだ簡単なダンスであったが、カプリアナ皇女は照れながらガヴァス卿を見つめる。

「騎士様、ありがとう。私、今日のことは忘れません」

 そろそろ帰るとカプリアナ皇女は挨拶をした。

「ハンカチはどうしましょう」

 後日送ることも考えたが、それでは外に出たことがばれてしまう。
 とても美しい刺繍が施されているハンカチであり、返したのだが今濡れた状態で返す訳にはいかない。

「いいです。そのまま差し上げます」

 カプリアナ皇女は余程嬉しかったのだろう。
 足取りかろやかに自室へと帰ろうとした。危ないから送ると言ったが断られてしまった。人に見つかって大事にされたくなかったのもあるだろう。
 帝都で嫌なこともあったが、小さな素敵な出会いもあったなとルドヴィカは笑った。
 しかし、記憶を呼び起こすと彼女のことが心配でならない。
 前世のカプリアナ皇女は生まれた時から体が弱く、12歳でこの世を去った。
 今みたところ元気な子であった。本当に病死だったのか今思うと疑わしい。
 元気な子が急病にかかるというのはあるけど、つい引っかかったものを感じてしまった。

 本当はこの日を境に帝都に近づく気は起きなかったのだが、また来ることになるかもしれない。

 いつまで経ってもいっこうに戻ってこないジャンルイジ大公の様子が気がかりでガヴァス卿に様子を見に行かせた。

 予想外のことが起きてルドヴィカは狼狽した。
 ジャンルイジ大公が皇族侮辱により幽閉されてしまったという。
 どういうことかと皇帝に意見しに行こうとルドヴィカは立ちあがった。
 同時に彼女の元に宮殿騎士たちがやってきて周りを取り囲んだ。

「アンジェロ大公妃、同行していただきましょう。あなたに容疑がかかっている。アリアンヌ皇后を暗殺しようとした罪により」

 何と、ここでルドヴィカはまさかの二度目の暗殺容疑者とされてしまったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

悪役令嬢、婚約破棄されたので見返してみたら今さら溺愛されました

sika
恋愛
婚約者に裏切られ、婚約破棄された悪役令嬢リリアナ。 涙も枯れたそのとき、彼女は決意する。「もう誰にも侮られない」。 隣国で自立し、転生者の知識で成功を手にした彼女の前に、今さら後悔した元婚約者が現れる――。 これは、“ざまぁ”と“溺愛”が交差する、逆転恋愛ストーリー。 プライドを捨てた王子、傷ついても立ち上がる令嬢。 求め合う二人の行方は、赦しか、それとも別れか――。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜

みかん桜
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは、乙女ゲームが舞台の小説の世界だった。 悪役令嬢が主役で、破滅を回避して幸せを掴む——そんな物語。 私はその主人公の姉。しかもゲームの妹が、悪役令嬢になった原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私はただのモブ。 この世界のルールから逸脱せず、無難に生きていこうと決意したのに……なぜか第一王子に執着されている。 ……そういえば、元々『姉の婚約者を奪った』って設定だったような……? ※2025年5月に副題を追加しました。

【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!

くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。 ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。 マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ! 悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。 少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!! ほんの少しシリアスもある!かもです。 気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。 月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)

【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!

白雨 音
恋愛
公爵令嬢アラベラは、階段から転落した際、前世を思い出し、 この世界が、前世で好きだった乙女ゲームの世界に似ている事に気付いた。 自分に与えられた役は《悪役令嬢》、このままでは破滅だが、避ける事は出来ない。 ゲームのヒロインは、聖女となり世界を救う《予言》をするのだが、 それは、白竜への生贄として《アラベラ》を捧げる事だった___ 「この世界を救う為、悪役令嬢に徹するわ!」と決めたアラベラは、 トゥルーエンドを目指し、ゲーム通りに進めようと、日々奮闘! そんな彼女を見つめるのは…? 異世界転生:恋愛 (※婚約者の王子とは結ばれません) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三
恋愛
南出冬華は異世界に転生した。あれ、ここって小説でもゲームでもないよね? でも私の知ってる地球でもない?! TVドラマの中のただの脇役、ふっくら令嬢ローズとして転生した冬華は平凡でも自分を愛してくれる優しい家族とここで幸せに暮らしていこうと考える。だがドラマの中だと気づくと同時にこの先の不穏な展開を思い出した冬華は、ドラマの流れを変えようとする。だが視聴率は上げないといけないし、ただの脇役のはずがどんどん重要人物に目を付けられはじめて……。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズ、pixivにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

処理中です...