みさご図書館物語

如月みさご

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花の歳月

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 オレンジ色のラナンキュラス
 赤いケイトウ
 桃色のバラ、オレンジのバラ
 あわい紫色のスイートピー
 純白のカスミソウ
 黄金色のキンセンカ
 緑と白斑のキキョウラン
 いっぱいのお花で溢れそうな花瓶が窓際のテーブルで光を浴びています。
 本日のみさご図書館は明るい日差しに包まれて、茶虎猫のサン=テグジュペリさんも私の横の椅子でくるり丸くなってお昼寝のご様子。
 かつて季節を問わずお花を飾ることができるなどと、誰が考えたことでしょうね。
 人々は古くからずっとお花を愛してきました。神話にも、民話にも、願いと祈りを込めてあり続けました。
 たとえばキンセンカ。
 私は太陽光の中で色とりどりに並ぶお花の中に、花弁をたくさん抱えた深い深い黄色、ビタミンカラーのお花に目を落としました。鮮やかな黄色、元気づける色。古く欧州では見つめていると視力が回復すると思われていたそうです。
 そんなお花達を後ろから抱える白斑のキキョウラン。キキョウでもランでもなく、キキョウラン。大きく広く長い葉が縁取りとなってお花達を立ててくれています。
 みさごさんは植物の緑、とりわけ御榊の緑が好きです。古く日本人はそこに神の威光と生命の強さを感じたのでしょうか。松葉もそうですが、深い緑色に私は安心感を覚えるのです。凛とした葉の形と感触もまた、好きな理由なんです。花瓶に生けるわけにもいきませんので、図書館にはキキョウランです。
 花は美しく、可憐に咲きます。
 女性の代名詞になることも。
 優しい愛の唄にもされて、それはただひとつの存在と称えられるもの。
 でも、そのあることを私は大切に思うのです。
 どうしたことかしら、うまく言葉にできませんね。
 サン=テグジュペリさんもふわりとあくびして、また眠りに落ちてしまいました。私の心が絡まっていることを退屈に感じられたのかしら。
 大きなみさご図書館の窓から降り注ぐ、冬の純粋な光がちいさな埃に反射してきらめいています。
 テーブルに置かれた緑の私の本を開きました。
 浮かび上がる文字は

「花の歳月」 宮城谷昌光

 古代中国を舞台に貧しい家の少女が人買いに捕まり、それでも必死に生きるお話です。教養もあり、容姿も人並み以上の少女。それを花と呼ぶことは容易いでしょう。ですが、暴虐の男たちに体を弄ばれてもなおその目から光を失わず、そばで震える弟の目を見つめ言葉なく

「生きるのです」

 と訴える女性を、ただ花と呼んでよいものかと私はいつも思うのです。
 美しいから花なのでしょうか。
 咲き誇るから花なのでしょうか。
 飾るから花なのでしょうか。
 強さが花を生むのでしょうか。
 わかりません。
 花は花というだけで、花となれるのでしょうか。
 答えなどないでしょう。
 繰り返し自分を問い、花の歳月に想いを馳せます。
 いつかの終わりに、私は花であったと言えるのかしらね。
 傍らのサン=テグジュペリさんが目を閉じたまましっぽで私の膝を叩きました。

 難しいこと考えてないで昼寝でもしたらどうだ。

 そんなことを言われているような気がしました。
 みさごさんの好きな言葉のひとつ「下手の考え休むに似たり」がふんわりと浮かんできます。
 私は今一度光の中に咲き誇るお花達を眺めました。

 オレンジ色のラナンキュラス
 赤いケイトウ
 桃色のバラ、オレンジのバラ
 あわい紫色のスイートピー
 純白のカスミソウ
 黄金色のキンセンカ
 緑と白斑のキキョウラン

 私は次第にうとうとと、サン=テグジュペリさんに誘われて夢うつつに溶けていくのでした。

花の歳月 了
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