目覚めれば異世界へ

今野常春

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 アプリットとその幹部にグレアを加えて尋問を行っている頃、孝雄実達は生存者を探索する傍らマルベールを散策していた。ゴーレムによる破壊活動から一部の建物は崩壊し、見るも無残な街中だが、見るべきところは残っていた。

「無人って言うのも新鮮だな」
「ちょっと、不謹慎でしょ」
「新鮮って所には同意ですわね」
「ね、姉様まで……」

 この街ではサラとマリアンも孝雄実とエレオノーラの二人と行動を共にしていた。これはサラが望んだことで、マリアンは強く反対している。しかしサラが望んでいる以上彼女に止める術はなく、孝雄実たちを警戒する程度に留まっている。

「そろそろ休みませんか?」

 彼等に別名が下されてから約三時間、小休止もなく捜索と称した散策も歩き続ければ疲れが出てくる。そこで彼等は近くのお店に入る。

「姉様、良いのでしょうか?」
「良いのです。これは略奪ではなく腐らぬ様に利用するだけです」

 無人ながら物は残され、自分達で用意すれば軽食と飲み物は簡単に入手出来る。

「ふー、久し振りの実戦に歩き通しと来れば流石に疲れましたわ」

 平民が利用するお店もサラが椅子に腰掛けカップに口を付けるだけで優雅な雰囲気が漂う。それを孝雄実は不思議に感じ、ついつい見てしまう。

「孝雄実さん、そんなに見つめられると照れますわ」
「えっ、ゴ、ゴメンなさい!」
「貴様、姉様に何て下劣な視線を向けている!!」
「ええー、俺、そんな目で見てないって」

 マリアンは今にも飛び掛かりそうな雰囲気で孝雄実に捲くし立てる。

「じゃあどんな目で見てたのよ?」

 エレオノーラは低い声で孝雄実に問い掛け、彼は答えに詰まる。それを好機とばかりにマリアンが自らの主張が正しい事を力説し、困惑する孝雄実。事の発端となるサラは気にも留めずお茶を飲み、軽食を口にしていた。

「だから、俺は邪な目でサラを見ていないんだって!!」
「貴様、姉様を呼び捨てにするとわ!! 頭を撃ち抜くぞ!!」
「だって、サラがそう呼べって言ってたんだぞ!」
「そうだとしても、姉様を敬い、様を付けるのがお前の役目だ! 空気を読め!!」
「はっ、はぁ? 空気を読めって、それはお前のほうだろ!!」

 孝雄実とマリアンはどこか言い争いに為り易い間柄だった。その事で毒気を抜かれたエレオノーラは冷静さを取り戻す。

「さて、は私の事をどの様に思って見ていたのかしら?」
「えっと……、この場には不釣り合いなほど優雅だなって」
「あら、私が美人で優雅だなんてお上手ですわ。まあ、当然ですけど……」

 後半部は全く聞こえなかったが、サラは孝雄実の評価を盛って受け取っていた。それでも優雅という言葉を聞いた事でサラは満面の笑みを見せる。それに孝雄実はドキッとし、エレオノーラは思わず脇腹を抓った。中でもサラが孝雄実を呼んだ時が気に入らず、力は一・五倍込められた。

「イタッ!? 何するんだよ、エレオノーラ!」
「鼻の下を伸ばすんじゃないわよ。サラはフロランス侯爵家の御令嬢なのよ。本来なら私達がおいそれと付き合える相手ではないのよ」
「エレオノーラの言う通りだ。だから貴様は姉様を邪な目で見るな!」
「だから見てないって言ってるだろ!」
「あら、見て下さっても良いのよ?」

 サラは二人の会話に燃料を投下する事を楽しんでいるとエレオノーラは察した。そして彼女の評価は「腹黒」と決定したのである。その後は落ち着きを取り戻し有り難く食料を食べ、捜索を再開する為店を後にしようとしたところ、サラは見慣れぬ扉を発見する。

「あら、これは何でしょうか?」

 外側からは決して見えない位置にひっそり設えられた扉は、極力見つからない様に意識された場所に在った。

「施錠されていますね。開けますか、姉様?」
「そうですわね。この様なおもしっ、怪しい場所を見逃すわけにはまいりませんわ。それに生存者が居るかも知れません。やりなさい」
「分りました、では破壊します!!」

 マリアンは手に持った剣を思い切り振り上げると一刀の下綺麗に粉砕した。そして現れたのはどこまでも続く階段だった。

「随分奥まで続く階段ですわね。それに臭いですわ」
「殆ど使われていなかったのかも知れませんね」

 サラは鼻を押さえ、エレオノーラはまだ耐えられると角度を変えて奥を覗き込んでいた。

「姉様、如何致しますか?」
「少し潜ってみましょう。灯りを探しなさい」
「はっ! ほら、お前も探せ!」
「はぁ? お前が言われたんだからお前が探せ」
「うるさい、とっとと姉様の役に立て!!」

 マリアンは孝雄実を連れて室内の捜索を行う。それを見てサラは微笑み、エレオノーラは何とも言えない表情を浮かべた。二人の姿が見えなくなると、サラはエレオノーラに元々の口調で話し掛ける。

「あの子がああも積極的に他人に接するのは初めてなのよ」
「他人に?」
「ええ、マリアンは家族以外に心を開いていないわ。兵士にも極力接しない様にしている程にね」
「とてもそうは見えませんが」
「よくみれば分るわ」

 人との接触を拒否する共通点を感じたエレオノーラはマリアンに対し親近感を抱く。
 その頃、孝雄実とマリアンの二人はこの店の二階部分を捜索し、灯りとして使えそうな代物を探していた。

「あったか、マリアン?」
「名前で呼ぶな、無いぞ。お前は?」
「じゃあ何て呼べばいいんだ? こっちも無い」
「そうか、見つかるまで必死で探せ。呼び方はお前が考えろ」
「じゃあマリちゃん? イテッ!? お前が考えろって言ったんだろ?」
「却可だ。お前はマリアン様と呼んでおけばいい」
「断る、マリちゃん」
「き、貴様!!」
「ほら、怒ってないで真剣に探せ。サラが下で待っているんだろ」
「ぐっ、姉様の事を呼び捨てにするなと何度言えば……」

 だがマリアンは孝雄実の言葉でこれ以上無駄話はしなくなる。サラを待たせる事は許せず、それこそ必死に探した結果、一本の松明を作るだけの材料を見つけ二人の下へ戻る。

「一本ですか、それほど奥へは進めませんね」
「申し訳ございません。こいつが確りと捜さなかったばかりに……」
「おい、俺がすべて悪いかの様に言うのは止めてくれ! サラ、マリちゃんだって口は動いても手は動いてなかったんだ!」
「お前、その名で呼ぶなと言っただろ!!」
「マリちゃんが決めろと言ったんだから変更はしない」
「き、貴様!!」
「ふふっ、良かったわね。私もマリちゃんと呼びましょう。エレオノーラもその様に呼んであげて頂戴ね」
「姉様!?」

 梯子を外されたと泣き出した議員が居たが、思わぬ裏切りにマリアンは涙を浮かべた。サラはその姿を見るのが時折愉しく感じていた。

「さて、マリちゃん弄りもほどほどにしましょう」
「ね、姉様ー……」

 とはいえ、マリアンは松明に火を灯し先頭で階段を下りる。その後をサラが続き、孝雄実とエレオノーラの順で続く。

「随分と下るな」
「そうですわね。それにしてもここは何なのでしょう」
「姉様、何時でも逃げられるよう準備は怠らない様に」
「分っています、マリちゃん」

 本当は文句を言いたいマリアンだが、この様に怪しい場所を進んでいることから何も言えなかった。階段はまだまだ続き、言葉数も減った頃漸く終わりが見える。

「ようやく辿り着きますね」
「帰りが大変だわ。孝雄実に運んでもらおうかしら」
「お、俺が!?」
「やったらどうなるか分っているな、貴様!」
「だから何で俺には攻撃的なんだよ!!」

 そして全員が地面に到達すると、彼等の目の前に古びたトロッコが姿を現した。

「これは……、トロッコでしょうか……?」
「その様ですわね。ですが、この様な立派な物が何故?」
「俺、初めて見た」
「私もよ、それにしても随分と古いわね……」

 唯一松明を持つマリアンはレール付近に近付くとレールが延びる先を照らす。突然の灯りに蝙蝠が暴れ出すが気にも留めず先を確認する。

「どうする?」

 孝雄実は前に居るサラに問い掛ける。この場では必然と彼女が中心と為っていた。

「出来れば調べたいですわね……」
「しかし、これより奥へと進めばエルノアン男爵に合流出来なくなる恐れが……」

 この任務はあくまでも上の尋問が行われ、その間に生存者を探索するという名目で行われている。
 マリアンはその事を危惧し、あまり自由に行動するのはマイナスだと考えていた。

「それもそうですわね。調べるのはエルノアン男爵から許可を得てからに致しましょう」
「そう致しましょう。ではっ!?」

 サラの決定にマリアンはホッとした気持ちで踵を返した。その時、腐食していた床が壊れ、トロッコに落下する。その衝撃で徐々に加速し進み始める。

「マリアン!?」
「くそっ、掴まれ!!」

 慌てるサラに対し、孝雄実は腕を伸ばし彼女の救助を試みる。彼女も腕を伸ばし孝雄実の手首を握り締めるが、孝雄実は踏ん張り切れなかった。

「あっ!?」
「ば、バカ!?」
「孝雄実!?」

 マリアンに抱き締められる形で孝雄実もトロッコに入り込んでしまい、サラとエレオノーラは取り残されてしまった。あっと言う間にトロッコの姿は見えなくなり、音だけが聞こえるだけだった。

「ど、どうしますか?」
「……戻りましょう。何、大丈夫ですよ。マリアンは生き残る術を知っていますから。必ず二人で帰ってきます」
「は、はぁ……」
「さあ、戻りこの事を説明しましょう。若しかしたらこの場所を知っているかも知れません」

 サラの言葉に期待し二人は地上の戻り、アプリットらが待つ館へと移動する。
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