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第一章 国家消滅

第5話 ファミリー

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 魔法には代償が必要だ。
 俺が知る知識だとMPと言えばいいが、この世界は違う。
 よくある設定だとMPは寝れば回復し、何かを食べれば回復するというものだ。だが、この世界ではその様な効果は存在しない。
 では何が必要なのか。
 答えは『使用者の命だった』……
 ただし使用即死でないことは誰でもわかる。それは寿命というものだ。どの程度なのか、それは長年に渡る研究でも分かってはいない……

 だからこそ、俺は目の前で笑みを浮かべ手を叩くレイム少将閣下に怒りを覚える。
「閣下、それは自殺行為ではありませんか?」
「どこが?」
「どこが? ではありません! いいですか、魔法使用者は命を削るのです!」
「そうだね」
「くっ……」
 こいつ腹黒じゃなくて馬鹿なんじゃないか……
「その位のことは分かっているさ。でもね、そうでもしないと反撃の要とはならないよ」
「つまり、閣下は我々に死ねというのですか?」
「常識で考えればそうなるね……」
 レイムは尚も笑みを絶やすことはなかった。どうにも俺を苛立たせたいのか……
「常識って……」
「常識は非常識、だよ。中尉、これが何かわかるかい?」
 レイムがおもむろにテーブルに置いたのは魔導石だった。
「魔導石ですが、これが何か?」
 誰もが分かることだ。これは主に魔導機関の原料だ。言い換えればガソリンに近い代物だ。魔導列車もこれによって動いている。その分現代の鉄道でみられる代物は存在しない。
「簡単なことだ。これが魔力に代わるとすればどうかな?」
「魔力に代わる? つまり魔法を使う場合、魔導石が魔力の代わりとなる。そう言うことですか?」
「その通りだよ」
 レイムそう答えると席を立った。
「ではそれを実際に見てみようか。この石を見せられたところで納得はできないだろ?」
 俺は頷くとレイムの後に続いて移動を始める。





 俺たちは中央参謀部内を移動し、連れて来られたのは地下三階という場所だった。
 その際、レイが「この様な場所は知らない」と呟いた。
「これが君に身に着けてもらう装備だ」
 レイムがそう言って俺に見せたのは煌びやかな鎧だった。
「鎧ですか……」
「ああ、これは魔導石で出来ている」
「魔導石はその様に大きな物が存在するのですか?」
「存在はしないさ。我が国の技術の粋を集めて創ったものだよ。技術屋は『魔動鎧』と呼んでいるよ」
 そう言われて俺はまじまじと魔導鎧眺める。それの見た目はクリスタルメイルと呼ぶべきものだ。
「まるで騎士ですね」
「騎士…… まさにそうとも言えるね。蘇った王国騎士団か……」
 この世界では中世の慣習は百年以上も前に廃れていた。だからこそレイムの言葉はどこか感慨深く呟かれたのだろう。

「さて、これを見たことで次は使ってみようか。ユウスケ中尉、これを着てみてくれるかな」
「わかりました……」
 俺自身魔法を使いたいとは思わない。なんせ、命には限りがある。明日死ぬようなことがあるかもしれないが、寿命という点ではまだまだ生きられると考えている。
 しかし、この鎧が魔法の概念を覆すとしたら、この戦争勝てるかもしれない……
 いや、戦いというものが根底から変わる…… まさに異世界でチートができるのではないか。
「身に着けました」
 そう考えながら魔導鎧を身に着けると地下三階部分のさらに奥へと移動する。そこには広大な空間が広がっていた。

「ここはね。我が部隊が訓練するためだけに造られた場所なんだ。口の悪い者は闘技場なんて呼ぶけどね……」
 コロッセオか…… 確かに造りはそれだな。
「彼ですか、新しい補充人員って」
「その通りだよ。リッカ中尉、我が部隊の新メンバーだ」
 同じ鎧を身に着けた女性が姿を見せると、ワラワラと俺たちの前に姿を見せ始めた。
「えっ、今突然姿を現しませんでした?」
 そう言って俺はレイを見た。すると彼もそうだ言わんばかりに頷いた。よかった俺の見間違いじゃなかった……
「ああ、この鎧の特性だね。闇夜に紛れると姿を消すのさ。皆聞いてくれ、彼はユウスケ中尉だ。よろしく頼むよ」
「はっ!」
 この場に居る者の声が重なり合うと大勢いると思うけど、まだ一個中隊分……
 確かにこれは凄いけどさ。
「って考えていますよ。レイム閣下」
「だろうね。それと閣下はやめてくれ、ポル中尉」
「しかし、少将閣下は閣下です」
「だとしてもだ。この場ではせめて普通に呼んでほしいものだ」
「変わりませんね。本当に…… この部隊が編成されたのって一年前でしたっけ?」
「そうだね。その位だ」
「じゃあそろそろ閣下と言われるのも慣れていただかないと」
 結局変わらなかった。

 俺の前では元居た部隊に引けを取らない親しみ易い雰囲気が生み出されていた。なるほど、これがあの人の特徴か。
 少し距離を置いてみるとレイムを中心に輪が広がっている。いくら二個中隊を率いるといっても指揮官が馴れ馴れしく話題の中心にいるのは不自然だと俺は考えた。だが、特殊な部隊だからこそこれが許されるのだとも瞬時に理解した。

「お前たち! そろそろ活動限界だぞ! 魔導石を外せ!」
    彼等から離れた場所に姿を現した大柄な男の声で一斉に魔導石を外す。
「訓練お疲れ様、少佐」
「有難うございます、レイム閣下!」
「だから閣下は……」
 そう言われ困った表情を浮かべるレイムだったが少佐と呼ばれた男は大声で笑い、皆もつられて笑い始める。

「家族、みたいだな……」
「小官もそう思います」
 俺の言葉につられ、レイが答えるとそれに気付いたレイムがこちらに声を掛ける。
「上手い表現だね。そう、私たちはこの戦争を戦い抜き、平和を勝ち取るために誕生した部隊だ。特殊であるゆえに規模は小さく、一人でも欠ければ多大な損失となる。家族とは言いえて妙だ」
「なら、レイム一家ファミリーって名前にしますか?」
 先ほどポルと呼ばれた男は軽い口調で言いうと、賛否の声が上がり対案が叫ばれる。やばい、これ収集着かなくなってきたぞ……

「お前たち、まずは片付けるのが先だ! とっとと始めろ!」
 そこは少佐が場を引き締める。浮かれていた人も気を引き締めると言葉を交わしながら各々片付けを開始した。
「すまないね、少佐」
「これもレイム閣下の下に就いた時から諦めておりますから」
「おいおい……」
 困り顔で答えるレイムをよそに少佐は俺に視線を向ける。

「ユウスケ中尉。私はティーダ少佐だ。よろしく頼む」
「はっ! ユウスケ中尉であります! こちらは副官のレイ准尉であります!」
 二人揃ってよろしくお願いします。と言ったことにレイムとティーダは思わず笑ってしまった。
「息が合っているね。二人とも」
「見事な上官と副官と言ったところでしょうか。ですが、レイ准尉。貴官はこの部隊所属ではない。そうですね、レイム閣下?」
「えっ?」
 俺は思わず素っ頓狂な声を上げたが、レイは驚きもしなかった。
「そうだね。彼はこの部隊員じゃない。そもそも唯の中尉に副官が付くなんてことはない」
 軍規では少佐から副官が認められている。では、何故俺に護衛として彼を付けたんだ?

「ホーブル閣下から中尉の護衛をしろと命じられたかな、レイ准尉?」
「はっ! そのように命じられました!」
「なるほど…… 分かった。ホーブル閣下直々の命令であれば仕方がないね。私が何と言おうと無理だ。だけど、彼の副官としての立場からは引いてもらえるかな?」
「で、ですが……」
「まあ、命令だからね。表向きは仕方ないよ。だけど、王都に居る限りはその立場は控えてほしい。それと戦場には連れていけないことも理解してくれ」
 レイムとしては初めて厳しい表情でレイに言い放った。
「承知致しました」
「うん、よろしい。では、君のポストも決めないといけないね……」
 後で聞いたがレイは魔法が使えないとのことだった。なるほど、だからこの部隊には居られないと言われたのか……
 しかし、ホーブルがこうなることが分かっていながら彼を俺の護衛として付けるのかね……
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