現世ではヒモだった男が異世界で英雄へと成り上がる

今野常春

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第一章 国家消滅

第8話 出撃命令

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 俺がレイム少将の部隊に加わってから一週間が過ぎた。
 戦況は国民に対しては一進一退と告げているが、実際にはじわじわ後退している。この点で特筆すべきは未だ王国における大都市に敵が辿り着いていないということだ。幾つもの村々は襲撃されているものの、主要都市が無事なら復興は容易いと上層部が考えた結果なのだそうだ。
 これはレイム少将から語られたもので、どこまでが真実なのかはわからない。

「おら何ボケっとしてやがる!」
「イタッ!」
「いくら魔導鎧の特性が高くても戦場では何が起こるかわからねぇ。それはお前が最も知る事だろ?」
「はい…… すみません、ティーダ少佐」
「だいぶ慣れたようだな」
「はい。見てください」
 俺はそう答えると早速訓練の成果を見せる。
「ファイアボール」
 目標として五十メートル先に設えた藁人形に向けて魔法を唱えた。掌を目標に翳すと目の前に小さな火の玉が浮かび超高速で目標へと移動し爆ぜた。普通なら燃えるのが初級魔法ファイアボールらしい。
「お前が味方でよかったと思うよ……」
「ありがとうございます」
 ティーダ少佐の言葉に嘘偽りはなかった。
 どうやら俺は魔法の素養がかなり高く、与えられた魔導鎧との相性も高い。だからこそ魔法使用者における初歩とも呼ぶべきファイアボールであってもあの威力なのだそうだ。

「だが、お前はまだ初級魔法しか習得していない。出撃命令が下されるまでに中級魔法までは使いこなせてもらわねばならない。わかっているな?」
 初級は単体、中級は範囲、上級は全体と使う魔法で範囲の設定ができる。幾ら魔力が高くてもそれに見合った魔法を使わねば宝の持ち腐れとなる。
「はい」
「ならば結構。目的を忘れず、日々精進してくれ」
 その様に述べたティーダは俺の前から去って行った。
 ここでの訓練は今までのものとは全く異なる。決まった時間に起床し食事するまでは同じだが、訓練方法は各々が考え上官=ティーダに提出することで決定していく。
 俺はまだ新人と言うことでティーダの指導の下、慣れることを最優先と言われている。よって訓練方法は全てティーダから与えられていた。

 そして、昼。この日はどういうわけか全員が食堂に集められて食事することとなった。
「敬礼!」
 それも束の間だった。食べ始めようかとしたその矢先、ティーダの大きな声が食堂に鳴り響いたのだ。反射的に席を立ち、声のする方角へと体を向け一斉に敬礼を行う。
扉が開くとそこからはホーブル閣下を先頭にレイム少将、そのあと見知らぬ高級将校が入室してきた。
「皆腰掛けてくれ」
 いつになく重たい口調で話すレイムに俺たちも気持ちを引き締める。
「さて諸君、我らが部隊の初陣が決まった」
 その瞬間、当然の如く室内は騒めく。それを沈めたのはティーダ少佐だった。
「来月、我々は敵物資集積所を襲う」
「物資集積所……」
 彼方此方から声が上がるがレイムは話しを続ける。
「帝国軍は連戦連勝によって先行する第一師団に追い付き、一丸となって王都へ向けて進軍する腹積もりのようだ。我々は領内を大きく迂回し後方にある集積所を襲う」
 レイムの言葉に高級参謀が黒板に地図を張り分かり易いように駒を置いて状況を補足する。そこには誰が見ても帝国軍を深くまで誘い込み一網打尽にする作戦が見て取れる配置となっていた。おそらくその点が攻勢限界点なのだろう。
「我が軍の偵察により敵はここ、ローテルに大規模な物資集積所を建設している。三個軍を動かす規模なだけに此処を襲撃、破壊に成功すれば我らの国内に於ける勝利は確固たるものとなる」
「その後、魔法中隊は敵後方に食らい付き攻撃を行ってもらう」
 説明と共に駒を自在に動かす参謀連中はどこか高揚した表情であった。

「ここまでで何か質問はあるかね?」
 参謀から俺たちに向けて質疑応答の時間を設ける。すると数名が挙手し、適当に指さして述べさせる。
「はっ! 我らは敵後方に向かうにあたり大きく迂回するとのことですが、その移動手段は」
「途中までは車両で、あとは馬と徒歩となる。持っていく物資は五日分貴官らの訓練からすれば造作もないだろう」
 この後も俺たちから質問が続いたが、七名指示したあとホーブル閣下が口を開いた。
「この辺りでいいだろう。不備があるのならレイム少将を通じ私に知らせてほしい。いいかな少将?」
「はっ! 承知いたしました!」
「よろしい。では諸君。我が国建国以来初となる魔法使用者のみで編成された部隊の初実践だ。国王陛下を始め私を含めた上層部は貴官らにかける期待は大である。後方遮断が完了するかどうかで王国の未来は決まると言っても過言ではない」
 そこで話を区切るとホーブル閣下は席を立ち、俺たちの顔をしっかりと見渡す。
「諸君らの挺身が、我らが王国に勝利を齎すことを期待する。以上だ」
「け、敬礼!」
 ティーダの挨拶でこの場は幕を閉じた。

「来月、二週間と少しか……」
 俺はふとカレンダーを見て自らに課せられた課題を勘案し、時間がないという考えに至った
「なんだ。不安なのか?」
「えっ、うん。俺はまだ初級魔法しか使えないから」
 何かと世話と面倒見てくれるマルから声を掛けられた。年も近いことから何かと話し易い兄貴分な彼に、俺は大いに頼っていた。
「だよな。まさか初級魔法のみで出撃なんてことになるとはな……」
「これから二週間で一つでも中級魔法を使えるようにならないと」
「じゃあティーダ少佐のしごきに耐えて、耐えて耐えぬかないとな。厳しさに対し得られるものは非常に大きい。頑張れよ、ユウスケ」

 レイムとティーダはホーブルを見送ると案の定俺たちを集めた。
「えー先ほど説明した通りだ。帝国軍は王国領内を進撃している。多少上手く行き過ぎているけど予定通りという判断だ。我らは二週間後王都を発ち、ローテルへ向かう。先ほど言われたが食料などは向こうで手に入るから此処で持って行くのはそう多くはない。安心してくれ」
「レイム閣下この人数で本当に行うのでしょうか?」
「まあ定数を満たしていないのは仕方がないよ。それでも我らはやらねばない。わかるね」
「はい」
「よし。ならば解散だ! ああ、ユウスケ中尉。君は私たちと共に着いて来てくれ」
 夕食以降は消灯まで自由時間だ。皆その時間を有意義に使おうと解散の言葉と共に散らばったが俺はそうもいかなかった。

「いや、悪いね。自由時間なのに」
「いえ、どうしたのですか?」
 連れて来られたのはレイム少将の執務室だった。この時間になるとどういうわけかレイ准尉も俺の下に馳せ参じ許可を得てこの場に参加している。
「ユウスケ中尉には申し訳ないけど、君にも次の作戦に参加してもらう」
「はい……」
「閣下、本当によろしいのですか?」
 ティーダは不安げな表情でレイムに問い掛けた。
「仕方がないんだよ。これは上からの命令なんだ」
 どういうことだ。俺の参加は上からの命令…… まるで二人は俺の参加を却下したいように思える。

「私たちはね。ユウスケ中尉の参加には消極的なんだ。確かに、報告書を読んだけど君の才能は素晴らしい。魔力が高いお蔭で魔導鎧の特性を引き出し、誰よりも使いこなせている。しかし、君はまだ初級魔法しか使えず、粗さが目立つ。これは部隊で行動する都合上好ましくはない」
 魔法使用者は命を代償に魔法を放つ。故に必殺必中という場面でしか使えないのが常識であった。その中であれば周囲に味方がごまんと居て、どのような状況でも覆せた。
 だが今回は魔法使用者のみで行動する。幾ら魔導鎧が有り、命を削る必要もなく各々が一騎当千となっても一個中隊規模でしかないこの部隊を考えれば、指揮官として憂うのは無理もない。

「しかし、上からの命令は絶対だ。ユウスケ中尉には申し訳ないけど今作戦には必ず参加してもらう」
「はい」
「そこでだ。最低限一属性でも中級魔法を使えるまでになってほしい」
「はい」
「よってユウスケ中尉はティーダ少佐にみっちり鍛えて貰ってくれ」
「えっ……」
「安心しろ、ユウスケ中尉。確り鍛えてやる」
「……」
 マジかよ。まさかマルとの会話が現実になるなんて……
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